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えくすとら! その二百七 浩之君の好み


「……ところで」

『もう、彩音! そんなに拗ねない!』と拗ねた桐生の頭を智美が撫でている姿を横目で見ていると、明美が声を掛けて来た。そちらの方に視線を向けながら――頬を膨らませながら、それでも満足そうな顔をしている桐生の姿を最後に視界に収めて、俺は視線を明美に向ける。

「なんだ?」

「今日、彩音様とデートに行かれてたのですよね? 服を買ったとか言っておられましたが」

「ああ。なんだ? ちょっと桐生が新しい服に挑戦するとかなんとかで」

 その理由はちょこっと恥ずかしいが……でもまあ、嬉しくもある。そんな俺の感情が出たのか、表情を見た明美が『けっ』と言わんばかりにそっぽを向く。

「……なんですか、その締まりのない顔。彩音様の服、そんなに良かったのですか?」

「……いや、そんなに良かったっていうか……まあ、桐生だしな。何着ても似合うのは似合うよ」

「そんな訳ありません。幾ら浩之さんが彩音様に懸想しているとはいえ、流石にランニングシャツに短パン姿ではぐっとは来ないでしょう?」

「何処の巨匠のスタイルだ、それは」

 おにぎり大好きな人か。

「まあ、そりゃそんな恰好ならあんまり『ぐっ』とは来ないだろうけど……でもまあ、普通の服だったぞ? なあ、西島?」

 ポテトチップスを食べながら藤原と瑞穂と談笑していた西島が、俺の言葉でこちらに視線を向け、ペロッと指を舐めてから口を開いた。

「あー……そうですね。彩音先輩、基本綺麗目な服着ているじゃないですか?」

「そうですね。よくお似合いですよ」

「私もそう思います。でも、今回はちょっと『冒険』してみようって事で」

 一息。



「ミニスカートとか買っていましたよ。東九条先輩が一番興奮するのはミニスカらしいんで」



 ……おおい、西島さん? 見てよ、この空気。ぴしっとした感じで固まってるんだけど、皆。おおい、皆? なに? 石化の魔法とかかかったの?

「……ま、まあ浩之ちゃんも男の子だしね!! そりゃ、ミニスカートだって好きかも知れないね~。あ、明美ちゃん? ちょっとトイレお借りしても良いかな?」

「待ってください、涼子さん。貴女、ロングスカートなのを良い事に、それを折ってミニスカートにしようとか思ってませんよね? 学校の制服じゃないんですよ?」

「い、いやだな~、明美ちゃん。そんな事する訳無いじゃない~」

 そう言って視線を逸らし口笛を――吹けて無い。そっぽを向いて口を尖らせて『ひゅー、ひゅー』という姿はなんだか間抜けだ。ひょっとこか。

「……へぇ。ヒロはミニスカ好きか~。そう言えば、学校では確かに私の太ももにチラチラ視線、来てた気もするし~。そっか、そっか」

「……酷い冤罪なんですが」

 見て無いよ? 見て無いから桐生、頭撫でられながら頬を膨らませて睨むの、止めて貰えません? 心臓に悪いから。

「ふ、太ももが好きなら浩之先輩!! バスケの時の私のハーパンとかも興奮するって事で良いんですよね!?」

「良い訳あるか!」

 だから冤罪だって言ってるんだろうが!! 別に俺は太もも大好き人間な――……ああ、まあ……うん。うん、うん。

「……ともかく、別に俺は太ももが好きなワケじゃねーよ。桐生のミニスカートだって、別に興奮したワケじゃないし、ただ普段とは違う格好だったからで――桐生? 桐生さん? なんで睨むの?」

「……女として魅力が無いって言われてるみたいじゃない。今日だって折角買ったのよ、ミニスカート。貴女が喜ぶと思って。なのに……ぶぅ」

「あ、いや、そういう意味じゃなくて! そういう意味じゃないんだけど……」

 どないせいと。もうこれ、何言っても事故じゃん。

「では浩之さん? 逆にお聞きしますが、彩音様の姿で一番『ぐっ』と来たのはどんな服装ですか? ああ、『どんな桐生でもぐっと来た』みたいな玉虫色の回答は不要ですよ?」

「……それが一番平和じゃない?」

「今は平和を求めていませんので。それに、『ぐっ』と来た服装が知れれば今後に役立ちそうですし? どんな格好ですか? ボンテージ? バニー? それとも……逆バニーですか?」

「おい! なんでラインナップが一々怪しいんだよ!」

「他意はありません。ありませんが浩之さんだって男の子ですし? 彼女の色っぽい姿は大好きでしょう?」

「……」

 ……まあ、うん。そりゃ嫌いじゃないよ? 嫌いじゃないけど。

「……ともかく、桐生にそんな恰好して貰った事は無いよ」

「では、して貰いたい?」

「……ノーコメントで」

 聞くなよ、そんな事!!

「まあ、流石にそこまではやり過ぎですか。健全な高校生ですものね、二人とも。ですが、あるでしょう? こう、『ぐっ』と来た服装が」

「……しつこいな、お前も。そもそも、別にそれを俺が答える必要は――」

「彩音様を見て、もう一度同じセリフが言えますか」

「――……そんな期待に籠った目で見るな、桐生」

 キラキラした目でこっちを見つめる桐生さん。俺のジト目に気付いたのかわちゃわちゃと手を振って見せる。

「ち、違うの! あ、いや、違わないんだけど……で、でもね、でもね? 東九条君が私に『ぐっ』と来たって言うか、『可愛いな』と思って貰った格好って、どんなのだろうって、すごく気になって! だ、だって、その恰好をすればもっと私の事を好きになってくれるって事でしょう? だ、だったら……そ、その、嘘抜きで教えて欲しいなって……」

『ダメ? 本当にだめぇ?』と言わんばかりの表情でこちらを見てくる桐生に、思わずため息が出る。いや、そりゃあるよ? 一番……と言うと語弊があるけど、『ぐっ』と来て、思わず理性が飛びかけた服装が。あるよ? あるけどさ~?

「ね、ねぇ? 東九条君……お、お願い」

 上目遣いでこっちを見てくる桐生。そんな桐生に、俺はため息を吐いて。




「……エリタージュで着てくれた、ミニスカメイドの桐生にぐっと来た」




「「「――やっぱ太もも、大好きじゃん」」」


 ……嫌いとは言ってないだろうが、嫌いとは。


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