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えくすとら! その二百五 もう止めてあげてよ……


 嫌な予感というのはよく当たると言われるもので、瑞穂の予想はまあ、順当に当たった。

「あ、彩音先輩! ど、どうですか、このお菓子。お、美味しいですか?」

「え、ええ、お、美味しいわ」

「本当ですか! 良かったです!」

 そう言ってにっこりと微笑む西島。そんな西島を、ほっぺを『ぷくぅー』と膨らませた有森が睨みつける。なんぞ、この景色。

「……何があったんだ、浩之?」

 二日続けて明美の家に訪れた藤田が、首を捻りながらそんな事を聞いてくる。頭の上には疑問符が三つも四つも飛んでそうなその顔に、俺は小さくため息を吐いた。

「……一言で言うのは難しい」

「そこを敢えて一言で言うと?」

「……西島が桐生に懐いた」

「……琴美ちゃんが?」

 俺の説明に、藤田の頭の上の疑問符が一つ増えた様な気がした。そうだよな、一言じゃわけわかんねーよな?

「……お前らと別れた後に西島と会ったんだよ。それで桐生が西島をショッピングに誘って、その時に西島をハブってたやつに会って……」

「……ああ、桐生が叩きのめしたのか」

「……言い方」

 まあ、間違ってはいないけどさ?

「それにしても……なんか意外だな」

「なにが?」

「いや、琴美ちゃんと桐生って出逢い方最悪だろ? 有森のコーラシャンプーの時だし・・…性格的になんか仲良くなれないタイプかと思ってたんだが……」

「あー……」

 まあな。確かに性格的に合わない様な気は俺もしていた。俺もしていたんだが……

「いや、よくよく考えて見たら桐生と西島って結構似ている所、あるしな?」

「似ている所?」

「顔だって可愛いし、頭だって悪くない。運動神経も良かったし……」

 なにより。

「二人とも結構、努力家だしな」

「琴美ちゃんもか?」

「少なくとも才能の上に胡坐掻いてます、ってタイプではないというか……」

 上にスポーツ万能な姉と、勉学優秀な姉がいてなお、腐る事なくその二方面で努力をしてきたのは間違いないだろう。そういう意味では瑞穂にも似てるっちゃ似てるが……まあ、瑞穂の場合好きだから出来ただけだしな、バスケ。

「桐生、そういう子結構好きだしな。何もせずに結果に文句言うやつは大嫌いだろうけど、一生懸命努力している人間の言葉は聞くし……そういう意味では相性が良いのかもしれねーよ」

 同族嫌悪の可能性もなくは無かったが……まあ、良い方に転んだんだろう。

「うううー! なんですか、アレ! 東九条先輩!! なんであんなに西島は彩音先輩に懐いているんですか!! 彩音先輩、盗られちゃったんですけど!!」

 ……こっちは良い方向性では無かったみたいだが。あと、盗られたとか言うな。桐生はお前のもんじゃねーよ。俺のだ。

「ま、まあまあ有森。落ち着け。な?」

「ううう……ふじたせんぱーい! 彩音先輩が、彩音先輩が!! 彩音先輩、私の先輩なのに!!」

 藤田の胸倉を掴んで前後にガクガクと揺らす有森。お、おい、有森。見て見ろ。お前の愛しのカレシ、首の座ってない赤ん坊みたいにぐらぐらしているぞ! やり過ぎだ!!

「……別にアンタだけの先輩じゃないじゃん。彩音先輩は」

 そんな有森の言葉に、西島が反応する。有森も有森で、赤べこばりに首を振っていた藤田の胸倉を離すと、西島にガンを飛ばす。

「は?」

「なによ、『は?』って。え? あれあれ? 一言しか喋られないんですかー?」

「は? そんな訳ないじゃん。そもそも西島、アンタ彩音先輩にビビってたくせに、何言ってんの? 『アンタだけの~、せんぱいじゃ~、ないから~』って。バッカじゃないの?」

「馬鹿はどっちよ、このバカ。最初ビビったのはアンタもでしょ? つうか、一年で彩音先輩にビビらねーやついねーから!」

「ざーんねーんでしたぁ! 私は全然、ビビってないもーん。最初から彩音先輩と普通に喋れてました! ねぇ~、あやねせんぱーい」

 くるっとこちら――西島から解放され、逃げる様に俺の側に寄って来た桐生にそう問いかける有森。そんな有森に、ぎこちない笑みを浮かべて。


「え、ええ。確かに雫さんは最初から普通だったわよ? で、でもね? ちょっと待って? なんかさっきから私のこと、ちょっと馬鹿にしてないかしら? なによ、一年の間で怖がられてるみたいな――」


「ほーら! 見たか、西島!! 私はビビってません!! だから――」

「……まあ、雫の場合は私が教えたからでしょ? 彩音、実は良い子だって」

「――私のって、智美先輩!? しぃー! お口にチャックでお願いします!!」

「はははっ!! なーにが『私はビビってない』よ!! カンニングで高得点取ってうれしいでちゅか~? そんなオツムじゃ――ああ、アンタ成績悪かったんだっけ? そう言えば掲示板に張り出される順位じゃないもんね~。運動が出来るだけのおバカは彩音先輩に相応しくないんじゃない?」

「は? こっちは彩音先輩最古参勢だぞ? この新参者が!」

「古いだけが偉いなら神社の御神木でも拝んでおきな! 付き合いは浅くても、私は彩音先輩に好きって言って貰ったもーん!」

「残念でしたぁ! 私だって彩音先輩に可愛い後輩って言って貰ってますぅ!」

「私は友達! アンタは後輩!!」

「私だって友達だもん!!」

「はぁ!?」

「最初はビビってた新参はすっこんでろ!!」

「カンニングして古参とか超ダセーんですけど!! 彩音先輩の怖い中にある優しさに気付いたの、私は!!」

「私だって知ってるよ!! 他ならぬ、アンタを追いつめている時の彩音先輩でね!!」

「アンタ、あの場所いなかったじゃん!!」

「藤田先輩に教えて貰いました~」

「またカンニング!! アンタ、それしかやり方無いの!?」

 ヒートアップする二人。そんな二人に、そろそろ不味いかと止めに入ろうとして。


「……ねぇ」


 くいっと服の袖をひかれる。桐生だ。

「……私が悪いのは分かっているのよ? そもそも、口が悪いのは自覚しているもの。でも、最近はちょっと気を付けて……色んな人に配意しているつもりなのに」


 涙目でこちらを見上げて。



「――私……怖い、かなぁ……?」



 もう止めてあげて!! 桐生を取り合う言い争いで、桐生が一番ダメージ受けてるから!! 桐生さんのライフはもうゼロよ!!


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