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えくすとら! その二百四 悪役令嬢は三時間目の対人関係の授業、大体欠席です。


「……酷い目に会ったわ」

 楽しそうにお茶会をする四人を睨みながら、桐生が俺の隣にぽふっと座る。そのままジト目で睨みつける桐生に、智美が苦笑しながら手をひらひらと振って見せる。

「ごめんって、彩音」

「……全然反省しているように見えないけど、智美さん?」

「反省してます。これからは勝手に家に入りませんし……彩音がヒロにごろにゃんしててもからかいませーん」

「それが揶揄っているって言うのよ! というか何よ、ごろにゃんって!」

「え? 言っても良いの?」

「言わなくて良いわ! 絶対、ろくでもないもの!」

 ツンっとそっぽを向く桐生に、今度は涼子が苦笑を浮かべて見せる。

「まあまあ、彩音ちゃんも智美ちゃんもそれぐらいで。本当にごめんね、彩音ちゃん。もうこんな事はしないから」

「……約束よ」

「はーい。それで? さっきからちょっと気になってたんだけど……彩音ちゃん、その袋何? ショッピングモールの奴だよね? 服?」

 桐生の足元においてある袋に視線を向ける涼子。そんな涼子に、少しだけ頬を緩ませ紙袋を上げて見せる桐生。

「ええ、服を数点買って来たの。にし――琴美さんに見繕って貰ってね?」

「琴美さんって……西島さん? あれ? 彩音ちゃん、西島さんと名前で呼び合うくらい仲良かったっけ?」

 どういう事? と言わんばかりの視線をこちらに向ける涼子。あー……

「まあ、色々あったというか……ちょっと説明が難しいというか……」

「そこを簡潔に言うと?」

「桐生が悪役令嬢ムーブかまして、西島ハブってたやつを撃退した」

 うん、超端的に言うと、これが一番早い。一番早いんだから、そんな不満そうな目でこっちを見ないの、桐生。

「悪役令嬢ムーブって……そんなんじゃないわ。ただ、あの二人にお話しただけよ?」

「……と、容疑者はこのように言っておりますが……どうですか、解説の浩之さん?」

 誰が解説の浩之さんだ、涼子。でもまあ……

「……なんというか、煽るだけ煽りながら完膚なきまでに叩き潰してました、って感じかな?」

「……悪役令嬢の面目躍如だね、彩音?」

 俺の言葉に呆れた様に桐生を見やる智美。そんな智美に、彩音が不満そうに頬を膨らませる。

「でも、物凄く感じ悪かったのよ、あの二人。琴美さんを馬鹿にして……だからまあ、ちょっと言ってやったのよ。だって琴美さんとはもうお友達だし……悔しいじゃない、お友達が馬鹿にされているのって」

 思い出し怒りとでもいうべきか、ぷりぷり怒る桐生。そんな桐生に、一瞬驚いた様な表情を浮かべた後、智美がにこやかな笑みを浮かべる。

「……ん、そうだね。そりゃ、友達が馬鹿にされたら怒るよね?」

「そうよ」

「うん、そりゃ彩音が正しいわ。よく、完膚なきまでに叩き潰したね!」

 ぐいっと親指を上げて見せる智美。おい、あんまり言うなよ?

「……まあ、俺も思う所はあるが、あんまり言うな。勿論、戦うなって意味じゃないけど……あんな煽る必要はないからな? 俺も怖い目向けられたし」

「ご、ごめん!」

「ま、それはもう良いんだけど……感情の切り替え出来なくなるほど怒るな。な?」

 そう言って桐生の頭を撫でる。微妙に気まずそうに、それでいて嬉しそうに頬を緩める桐生に、明美が『けっ』と言いたげな表情を浮かべて見せる。

「……なにナチュラルにいちゃついてやがりますか。さっきの反省、全然いかせてないじゃないですか。全く……公衆の面前で」

 はぁとため息を吐いて紅茶を一口。

「……まあ、西島さんの事に関しては別に彩音様のやり方で問題ないのではないですか? お友達を庇う為に戦うのは素晴らしい事だと思いますし……舐められたら負けですしね、この界隈」

「……どの界隈だよ」

「主に、名家界隈です」

「……名家、怖い」

「ですが、社交界はメンツ商売の面もありますよ? ほら、秀明さんが社交界に参加したときの事を思い出してください」

「……ああ」

 茜がブチ切れた時のやつね。

「彩音様だってそうでしょう? 誰にも……その、気を悪くされないでくださいね? 『成り上がり』と馬鹿にされない為に、敵を叩き潰して来た訳ですし」

「……まあ」

 ……そう考えたら桐生も成長したよね。いや、どの目線でって話だけど桐生が友達守るために悪役令嬢ムーブとかかました訳だし。昔の桐生なら、絶対そんな事しないだろうしな。

「……」

 そんな俺らの話を黙って聞いていた瑞穂が少しだけ難しそうな顔を浮かべて見せる。なんだ?

「……どうした、瑞穂? なんか考え事か?」

「あ、いえ、考え事というか……彩音先輩、西島さんとお友達になったんですよね?」

「え、ええ、そうよ? 何か問題があるかしら?」

「いや、問題というか……」

 視線を中空に向けて。


「……雫と西島さん、そうは言ってもまだ別に『仲良し』ってワケじゃないんですよね? それでまあ、雫って彩音先輩にだいぶ懐いているじゃないですか?」


「……おお」

 友達の友達は友達じゃなかったパターンのやつだ、これ。

「いえ、彩音先輩が誰と仲良くするかは彩音先輩の自由ですし、別にそれは構わないっちゃ構わないんですけど……なんか、雫が猛烈に拗ねそうな気がして、ちょっと面倒くさいな~っていうか……」

 考えすぎだ、と言いたい所だけど……

「……そこは藤田に期待しよう」

「……ですね。ともかく……彩音先輩? 出来るだけ、平等に接してあげて下さいね?」

 少しだけ懇願するような視線の瑞穂に、桐生は真剣な顔で頷いて。


「ええ、分かったわ……難しいわね、人間関係って……」


 ……大体、小学校で履修するような事を言いやがりました。そうだね。桐生は三時間目の対人関係の授業、欠席だったもんね。


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