えくすとら! その百九十九 悪役令嬢桐生さん
今年最後の投稿になります。令和6年もお世話になりました。来年の春先には本作の文庫版5巻、加えて来年中にはコミカライズの方の一巻も出る……予定となっております! 来年も変わらぬご愛顧のほど、お願い致します。
不意に掛かった声に西島の体がビクリと震える。恐る恐るといった感じで振り返った西島の視線を追う様、俺もそちらに視線を向けて。
「ホントだ~。何してんの、琴美? 一人でさ~?」
男二人、女二人の四人組。女性の方は……まあ、普通よりはちょっと上、レベルの顔面をしたギャル風の女子だ。男子の方の片方はそこそこ身長が高く、百八十センチを超えるくらい、もう一人の男子は俺とそこまで変わらない身長の男子だった。
「……友達か?」
あの西島の反応と――まあ、若干馬鹿にした様な声音で大体分かるが一応西島に声を掛けてみる。そんな俺の言葉に西島は首を左右に振って見せる。
「元、が付きますよ、東九条先輩。知ってるでしょ? 私をハブってるやつがいるって。その首謀者ですよ、首謀者」
疲れた様にため息。その後、西島は作り笑いの様な表情を浮かべて二人に視線を向ける。
「……久しぶりじゃん、ミホ、シズカ。なんか用?」
「えー。別に用は無いけどさ~? 街で『オトモダチ』にあったら声かけるじゃん? ねえ、シズカ?」
「そうそう。私達、『オトモダチ』でしょ? それで? アンタは何してたのよ、琴美? また懲りずに男漁り~?」
ショートカットの女子から『シズカ』と声を掛けられたサイドポニーの女の子が小馬鹿にした様に西島に声を掛ける。そんな『シズカ』の言葉に、西島は唇を噛みしめて二人を睨む。
「男漁りなんかしてないわよ。たまたま……友達と一緒に服を買いに行っただけで……」
「え~? おともだちぃー? いやいや、琴美? アンタ、何言ってんのよ? アンタにオトモダチなんていないでしょ?」
嘲笑を浮かべる『シズカ』と『ミホ』。おお……なんだろう、完全に見下した様なその表情、物凄く醜い。良いのかよ、おい。ダブルデート相手を前にしてそんな顔をして。
「……そのくらいでいいじゃねーか、ミホ」
「でも、タケルせんぱーい。琴美に色目使われたって言ってたじゃないですかぁ~」
男子の方は男子の方で気まずそうにミホと呼ばれる女子を押しとどめようとする。うん、まあ、そりゃそうだよな。西島の言葉を信じるなら、別に西島が色目を使ったわけでもなく勝手にあの『タケル先輩』が西島に惚れたっぽいし。下手に触れられると面倒くさい事になりそうだし。
「……おい、もう良いだろ。行こうぜ」
「むう、タケル先輩……あ、そうだ! ねえねえ、お姉さん?」
タケル先輩の言葉にぷくっと頬を膨らました後、ミホという少女は視線を桐生に向ける。
「……私かしら?」
「ええ、そうです。お姉さんも気を付けた方が良いですよ? この子、直ぐに人のオトコに手を出そうとするんですから! まあ、お姉さん程綺麗な人なら琴美程度の魅力じゃ無理かも知れませんけど~? でもまあ、アドバイスですよ、アドバイス」
含み笑いを浮かべてチラリと西島に視線を向けた後、桐生に媚びた様な視線を向けるミホ。そんなミホの言葉に、桐生は深々とため息を吐いて見せる。
「西島――」
一息。
「――『琴美』さん?」
「っ!? は、はい?」
「彼女はこう言っているけど……事実なのかしらね?」
桐生に名前呼びをされ一瞬きょとんとした後、その言葉の意味を理解して西島がぶんぶんと首を左右に振って見せる。
「ご、誤解です!! べ、別に私は色目を使ったわけじゃありません!! 前も言いましたけど、私はただ差し入れを持って――」
「でしょうね」
「――行っただけ……え?」
「いえ……そのお話、前も聞いたわよね? でもまあ、貴方は前科もある訳だし? 完全に信用できるかって言うとまあ、ちょっとだけ疑念はあったのよ。恋愛観も私とは分かり合えない気もしてたし」
そう言ってクスクスと笑った後、見惚れる様な笑顔をミホに向け。
「――でも、納得したわ? そうね? 貴方が本当に色目を使ったのであれば、『この程度の魅力しかない女の子』から恋人を奪えないワケ、ないものね?」
……場に静寂が降りた。桐生の言っている事は『お前よりも西島の方が全然可愛いし、魅力的』という意味であり、その意味を理解したミホは。
「? ……っ!? はぁ!? アンタ、何言ってんのよ!!」
「何を言っているか分からないかしら? 貴方より琴美さんの方が何倍も魅力的だと言っているのよ」
「あ、アンタ、私の何を知っているのよ!!」
「何も知らないし、知ろうとも思わないわね。まあ、琴美さんの事だってそんなに詳しい訳じゃないけども……」
そう言って視線をちらりと西島に向けて。
「でもまあ、ある程度予想は出来るわね。どうせ、貴方のカレシとやらが、差し入れを持って来ただけの西島さんに懸想したのでしょう? そして、それが悔しいから、西島さんを悪者にして仲間外れにしたという話でしょう? 馬鹿らしい」
「ば、バカってなによ!!」
「あら? 馬鹿じゃない? 自分に魅力がないのを棚に上げ、目移りした男を責めるでもなく、ただ善意から差し入れを持って来た西島さんを仲間外れにした。これが馬鹿じゃなかったら何が馬鹿だって言うの? 馬鹿らしい。別に貴方の男性を見る目に興味も関心もないけど、少しくらいは男性を見る目を養った方がいいのではなくて? 少なくとも私のカレシは他所にフラフラ目移りはしないわよ?」
ねぇ~? と甘える様に俺にしな垂れかかる桐生。そんな桐生を睨みつけ、ミホは口を開きかけ。
「あー! あ、貴方、桐生彩音!? あ、悪役令嬢の!?」
ミホの言葉を遮る様なシズカの絶叫に。
「ご紹介に預かり、どうも。『悪役令嬢』の桐生彩音と申します」
桐生はにっこりと微笑んで、そう告げた。




