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えくすとら! その百九十八 他の誰とも違う、友達


 ちょんちょんと両手の人差し指を合わせながら、庇護欲をそそる様に上目遣いをして見せる桐生。そんな桐生に『うっ』と言わんばかりの顔をしてみせて西島が顔を逸らした。

「……ねえ、東九条先輩?」

「……なんだ?」

「マジであの捨て犬みたいな顔、止めさせてもらえません? なんか断ったらこっちが罪悪感感じそうなんですけど?」

「……可愛くね?」

「……このバカップル共が」

 視線を逸らしながらそういう俺に西島が吐き捨てる様にそういう。いや、でも、ねえ? 可愛いじゃん、あの桐生。

「そ、その……に、西島さん? だ、駄目かしら?」

 西島の袖をちょんと握り、懇願するようにそう言う桐生に本日二度目の『うっ』が西島の口から洩れた。しばし、中空に視線を彷徨わせた後、西島は諦めた様にため息を吐いた。

「……はぁ。わかりました」

「じゃ、じゃあ!」

「ああ、いえ、分かったのは『お友達』という事です。そうですね、考え方次第ではあるでしょうが……確かにこんだけ付き合いがあれば友達と言っても良いかも知れません。最初の出逢いはともかく、ですが」

「入口が駄目なら全部ダメ、なんて暴論は無いわ。大事なのはこれからだもの」

 にっこりと笑ってそういう桐生に虚をつかれた様に目をパチクリさせる西島。

「……良い事言いますね、桐生先輩。流石、才女」

「お褒め頂き光栄だけど……私の言葉じゃないわ」

「なんかのドラマか映画のセリフですか?」

「いえ」

 そう言って照れくさそうに桐生はこっちを見て。


「……東九条君が、言ってくれたの。許嫁ってだけで、彼の側に居る資格あるのかなって思った私に……東九条君がそう、言ってくれたの」


 ……おお。見ろよ、あの西島の砂を噛んだ様な顔よ。

「……なにクサい事言ってんですか、東九条先輩」

「……やかましい」

「キャラに合わないこと、言わないでくれます? それ、イケメンにだけ許されることですよ? 粗食の類の癖に」

「マジでやかましいわ!!」

 どんだけ擦るんだよ、粗食ネタ!! つうか、藤田はスルメ扱いするし、コイツは茶漬け扱いするし……なんなん、お前ら? もうちょっとマシなたとえしろよな!! そう思いジト目を向ける俺に西島は苦笑を浮かべて桐生に視線を向ける。

「ええっと……東九条先輩の恥ずかしいセリフはともかく……そう言って貰えると嬉しいですよ? 正直、桐生先輩とは性格的に合わないかと思っていましたが……」

 苦笑を微笑に変えて。

「……でも、桐生先輩ってよくよく話して見ればそこまで怖くはないですし、何より思って以上に可愛いですしね」

「……怖くはないって言われたのを嘆けばいいのか、可愛いって言われたのを喜べばいいのか難しい所ね」

「何を今更。怖いなんて学校中が知っている事じゃないですか。まあ、可愛かったのは意外ですがね」

「……桐生、二年の三大美女の一人じゃねーの?」

『悪役令嬢』並みに桐生の美貌に関しても有名だと思ったんだけど、違うのか?

「桐生先輩に『可愛い』なんて印象抱いている一年生、いませんよ? ああ、これは桐生先輩が不細工だと言う意味では当然なくて……こう、桐生先輩って孤高の存在というか、絶対的な美貌というか……そうですね、『綺麗な人』の印象、でしょうか」

「……」

 ……それはまあ、うん。なんとなく分かる。

「……まあ、そんな訳で桐生先輩に『可愛い』なんてイメージ持ってる一年生はいないんですよ。まあ、有森とか藤原さんとか川北さんとかはアレかもしれませんけど……どっちにしろ極一部ですしね」

 そう言って少しばかり気まずそうに視線を横に逸らす西島。

「ま、まあ……そんな桐生先輩ですけど? 東九条先輩の事になると乙女でちょっとばかりポンコツになりますし? それにまあ……さっきのみたいに純粋な好意をこう、示されると……ま、まあ? 『可愛いな』とか思ったり、思わなかったり……し、しないでも無いですよ?」

 頬を軽く染めてチラチラ。そんな、少しばかり居心地の悪そうな、それでいて満更でも無さそうに口のあたりをもにょもにょとさせる西島のその姿に。


「…………うわぁ」


「『うわぁ』ってなんですか、東九条先輩!?」

 ……すまん、心の声が漏れた。

「ああ、いや、すまん。その、なんだ? 悪い意味じゃないぞ?」

「『なに言ってんだコイツ?』みたいな顔で『うわぁ』って言っといていい意味な訳がないでしょうが!! なんですか、東九条先輩!? 喧嘩売ってます!?」

「い、いや、別に喧嘩を売っている訳じゃないんだけど……なんだろう? こう、違和感がブラック企業並みに仕事してるっていうか……」

 そもそもコイツ、俺の中では悪役令嬢よりのイメージだし。そんな西島が、なんていうか……桐生に対して『デレ』を見せると脳が理解を拒むと言いましょうか……

「……本当に失礼ですね、東九条先輩。桐生先輩、本当にこんな人が彼氏で良いんですか?」

 ジト目を俺に向けながらそういう西島に、桐生も少しだけ苦笑を浮かべて見せる。

「そうね。東九条君が恋人なのは満足しかないけど、今のは西島さんに失礼よ、東九条君。少なくとも……私はちょっと嬉しかったんだから。ありがとう、西島さん」

 にっこり微笑んでそういう桐生に、西島も俺に向けるジト目をやめて桐生に視線を移す。

「……はぁ。そういう所ですよ、桐生先輩。まあ、ともかく……仲良くして頂けるのは有り難いです。でもまあ、今日の所は遠慮しておきますよ」

「え? 予定が……」

「予定は特にないですが……まあ、言ってみれば『一人になりたい』って感じでしょうか? その……『友達』と遊ぶのも嫌いじゃないですけど、誰にも何にも気を遣わずにぶらぶらするのも私、好きなんですよ。そもそも今日はそのつもりでしたしね」

「……服選びに付き合って貰ったの、ご迷惑だったかしら?」

「いいえ。アレはアレで楽しかったので問題ないです。でも、当初の予定も大事にしたいので。そういう意味では桐生先輩の……その、他の『お友達』よりは付き合いが悪いかもしれませんが……それでも」


 私と、友達になってくれますか、と。


「――もちろんよ!!」


 そんな西島に、桐生は笑顔を浮かべて。




「――――――あれ? 琴美じゃん? 何してんの、『一人』で」




 後ろから聞こえるそんな声に、西島の顔が強張ったのが見えた。




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