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えくすとら! その百九十六 桐生さんの新ししょー


 桐生の提案によりショッピングデート……デート? ともかく、西島と三人になった俺たちは駅前に繰り出した。お目当ては西島行きつけのセレクトショップ、ではなく。

「……此処で良いの? 西島さんの行きつけの服屋さんじゃないのかしら?」

「さっきはああ言いましたけど……桐生先輩、初心者ですし、初心者向けということで」

「……良いのかしら? なんだか申し訳ないわ」

「良いですよ。それに、案外馬鹿に出来ないんですよ、こういう所も」

 やって来たのは駅前にある、とある大型ショッピングモールだ。鉄道系百貨店ならともかく、どちらかと言えばロードサイドにある郊外店のイメージの強い大型ショッピングモールだが、このモールに関しては駅から直接乗り入れが出来る珍しい店舗である。此処に来れば食料品、日用品、本やCDや服から靴からなんでも揃うという事で休日の今日はいつも通りの盛況さだ。

「こう……言ってはなんだけど、西島さんはもうちょっとオシャレなショップとかに行くと思ってたのだけど……」

 小さい子供が走り回るショッピングモールだ。いや、別に馬鹿にするわけじゃないけど、確かに西島のイメージとは合わん気はするな。そんな俺らの視線に西島ははぁ、と小さくため息を吐いて見せる。

「いや、流石桐生先輩ですね」

「ど、どういう意味かしら?」

「お嬢様って事ですよ」

 もう一度、ため息。

「そりゃ、私だってデパートとかショップで買い物することもありますよ? 今日もまあ、そのつもりでしたし。でもね? 流石にそんな頻繁に百貨店とかショップに行くお金、普通の高校生が持ってると思います? 私、まだ一年ですし? バイトもこれから探そうかな~って感じですし」

「……あ」

「それに……さっきも言いましたけど、こういう所も馬鹿に出来ないんですよ? そりゃ、品質とかに限って言えば有名店の方が良かったりすると思いますけど……」

 そう言って西島はきょろきょろとモールの中のショップを見回す。と、何かを見つけたか歩みを一つのお店に向ける。

「に、西島さん?」

「西島?」

 急に歩き出した西島に驚いて後をつける俺ら。店の前まで来ると、西島は店の前に飾ってある一着の服を手に取って見せる。

「……例えばこれ。これって今年の春夏の流行だったんですけど……知ってます? フリンジデザインって」

「……なんだ、フリンジって」

「房飾りの事ですね。歩くたびに飾りが動くので、『動』のコーディネートというか……まあ、動きがあるんですよ」

「……なに、動のコーディネートって」

 なに? コーディネートに動とか静とかあんの? スポーツなの、オシャレって?

「感覚的な話ですけど……例えば着物とかってあんまり『動!』って感じしなくないです? 凛とした佇まいというか……それこそ、東九条先輩の好きな大和撫子って感じじゃないですか? 逆に、バスケをするときの……ラフなTシャツにハーフパンツとか、明らかに『動』な感じじゃないです?」

「……確かに」

 言わんとしている事は分かる。

「でも、これってそこまで動……? かしら? どちらかと言えば静かな感じというか……」

「それはボトムスの合わせ方ですかね? 例えば……」

 そう言って店先にあるロングのスカートを手に取ると、フリンジ? のあるシャツを俺に手渡す西島。なんだよ?

「東九条先輩、もうちょっと高くそれを持ちあげて貰えます?」

「……こうか?」

「もうちょっと高く……ああ、そこで良いです」

 そう言うと俺の持っているシャツの下にスカートを合わせて見せる。

「ほら、こう見るとフェミニンな感じになるでしょう? でも、これに……そうですね」

 そう言って、今度は少しだけダボっとしたズボンを持ってくるとスカートの代わりにそれを合わせて見せる。

「こうするとどうです?」

「……カジュアルに見えるわ」

「でしょう? このフリンジって結構便利に着こなせるんですよね~。フェミニンにまとめたいときも、ちょっとカジュアルにしたい時もどちらにも使えますので。で、まあ今年の流行だって事でどこのブランドも出しているんですけど……」

 そう言って西島はズボンを俺に押し付けるとスマホをちょいちょいと操作し、画面を俺らに向ける。

「……これ、私の好きなブランドなんですけど……このフリンジのお値段が」

「……わお」

 ……マジか。シャツ一枚にこの値段って……あれ? 桁間違ってね?

「文字通り、『桁違い』なんですよね。だからまあ、ポンポン買える訳もないですし……そういう時にランクをちょっと落とす――じゃ言い方悪いんですけど、ファストファッションのお店とかで似たようなデザインを試しに買ってみるんです。手持ちの服との着回しとか、自分に似合うかとか、まあそういったあれやこれを試す、みたいな感じですかね?」

「……」

「さっきの話じゃ服を一着買っておしまい、って感じじゃないですよね? 桐生先輩、手持ちの『装備』を全部東九条先輩に知られているのがイヤなんだったら着回し込めても……最低でもトップスとボトムスで二点くらいは必要って事でしょうし、そうなると私の好きなブランドなら更に桁が一桁上がりますし」

「……だろうな」

 あのフリンジとか云うシャツであの値段なら、合計四点買えばマジで桁が一個増えるぞ。

「桐生先輩なら心配ないかもですけど、流石に高校生が一回で使う金額にしては明らかに大きすぎますよ。それに、さっきも言いましたけど桐生先輩は綺麗系ですから。試着は勿論しますけど、本当に似合うかどうかは分かりませんし、それなら流石にギャンブル過ぎませんか? そう思ってこっちにしたんですけど……」

 駄目ですかね? と、少しだけ不安そうな西島。そんな西島の右手を桐生は両手で握りしめて。



「――師匠と呼んでもいいかしら?」



 キラキラした目でそう言いきりやがった。まあコイツ、カモリン一目惚れとかで買ってるしな。ある意味ではこういう量販店的な買い物はしたこと無いのかも知れん。



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