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えくすとら! その百八十九 女子力勝負は完敗


「凄かったね、秀明!! また上手くなってるじゃん!!」

「おう、さんきゅ! 茜も応援、ありがとうな!!」

「何言ってんのよ! 愛しのカレシの為だもん! ちゃんと応援に来るに決まってます!! あ、はい、これ! はちみつレモン!! 実家で作って来たから食べて、食べて!」

「実家? あ、あれ? 明美さんの家、泊まってたんじゃ……」

「うん? 始発で帰って作って来た!」

「……わざわざ?」

「……普段、そんなに応援できる訳じゃないし……こういう時くらいは、ね?」

 そう言って頬を染めて上目遣いで秀明を見やる茜。そんな茜の姿に、秀明が口元を右手で覆って視線を逸らす。

「……可愛過ぎね、俺の彼女?」

「でしょー? 秀明に夢中な、可愛い彼女だぞー!」

 一試合目、秀明率いる――別に率いてはないが、秀明の所属する聖上が東洛を下した。インハイ準優勝チームである東洛が、古豪とは言えども県ベスト4の聖上に負けるのは波乱の展開、と言いたい所ではあるが。

「……ま、ベストメンバーじゃなかっただろうしな」

「そうなの? 皆、物凄く上手だったけど」

 俺の独り言に桐生が首を傾げて見せる。まあ……

「勿論、インハイ準優勝チームだから下手くそな訳は無いんだけど……明らかに一年主体のチームだったしな」

 東洛側からすれば所詮はこの試合、練習試合にしか過ぎない。そうなれば、折角遠征までしてきている以上、次期主力になるだろう選手を使うのはまあ当然と言えば当然だろう。

「でも、古川君のチームは全力だったんでしょ?」

「聖上は県でもベスト4に入る強豪だけど……まあ、目の上にたんこぶ居るしな。気を抜いた試合なんか出来ねーだろ」

 はっきり言って聖上の方が格は一段、二段下だからな。胸を借りるつもりもあるんじゃね? 後はまあ、こないだ秀明も言ってたけど東洛とは練習に行き来する仲なんだったら今更戦力隠しても……ってのもあるかも知れんし。

「……くっそー! 秀明、ほんま腹立つわ! 俺がチビやから言うて頭の上からダンクなんかかましよってからに……ぐぐぐぐ!!」

 試合に勝ってご機嫌の秀明と、嬉しそうにはちみつレモンを差し出す茜の姿を恨めしそうに見つめる北大路。そんな北大路に、苦笑を浮かべて西島が手元のバスケットを差し出す。

「あはは。まあまあ、北大路君? お疲れ様! 結果は残念だったけど、充分大活躍だったじゃん! 昨日も上手だと思ったけど、やっぱり上手だね、北大路君!!」

「西島さん……ええっと、なんか申し訳あらへんな。折角応援に来てくれたのに、勝てへんで」

「全然良いよ~……と言うのは、北大路君に失礼かな? でも、勝ち負けは抜きにしてナイスゲームだったから私は大満足!」

「西島さん……」

「と、言う事で! 頑張った北大路君にはご褒美です! 美少女JKであるこの西島琴美お手製サンドウィッチ、進呈しまーす。あ、試合の合間だから食べられないって言うんだったら無理にとは言わないけど……」

「へ? 女子高生の手作りサンド!? い、いります! 試合もこの後は別メンバーで行くさかい、問題ないです!」

「あはは! それじゃ……ハイ、どうぞ! 私としてはこのローストビーフサンドがおススメかな?」

「おお! ローストビーフサンドって! なんやエラい豪華な……」

「まあ、ローストビーフ自体は作るのそんなに難しくないからさ? 最近は炊飯器で時短とかも出来るし、その割には結構豪華な感じ、するでしょ?」

「するする! やっぱり肉は――って、へ? つ、作った? ローストビーフって作れるん?」

「やだな~、北大路君。作れなかったらどうやって食べるのよ? お店で売ってるのも誰かが作ったものじゃない」

「あ、いや、そう言う意味やなくて。家で作れるんやって……」

「あ、そっち? さっきも言ったけど、ローストビーフは炊飯器とかで時短も出来るし結構メジャーな家庭料理じゃないかな? 炊飯器使わなくても時間かければ結構簡単だよ?」

「そうなん?」

「まあ、比較論ではあるけどね。それに! 家で作ったローストビーフの方が好みの味付けにできるしね! このソース、手作りだからぜひ食べてみて!」

 ニコニコ笑ってお弁当を差し出す西島。そんな西島からローストビーフサンドを摘まむと、口の中に放り込み――『うっわ! ヤバ! 今まで喰ったローストビーフで一番美味いやん!』とか、西島以上にニコニコ笑顔を浮かべる北大路。うん、なんとなく、仲良しの光景で素敵だ。素敵ではあるが。

「……彩音先輩、ローストビーフ作ったことあります?」

「……あるわね。もっとも、失敗して焼肉になっちゃったけど」

「……んじゃ簡単じゃなくないですか?」

「……それはもう……料理人のスキルの問題じゃないかしら? 私達には無理でも、西島さんには簡単ってことでしょう」

「……なんでしょう? なんか西島さんのああいう側面見ると……こう、物凄く『負けた!』って感じがするんですけど」

「……そうね。私も女性としての魅力を否定された気分になるわ。憧れじゃない。好きな子に手料理振舞って『美味しい』って言われるの」

「……彩音先輩はそれでも少しくらいは出来るんでしょ? 良いじゃないですか!」

「……正直、手際はまだまだ東九条君の方が上なのよね」

「そんな事言ったら私なんて藤田先輩に惨敗ですよ!!」

 二人で顔を見合わせて『はー』っと息を吐く。そんな二人を見ながら藤田が少しだけ呆れた様に。

「……そもそも、賀茂の料理にワンサイドゲームで負けてる時点で今更感はないか?」

「……分からんではないが、絶対に言うなよ?」

「当たり前だろ? みすみす自分で地獄に首突っ込むつもりはねーよ」

 ……まあ、あいつら、西島に含むところあるだろうしな。有森は西島とバチバチだったし、桐生は桐生で西島の事邪教徒とか言ってたしな。



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― 新着の感想 ―
[一言] 西島さん何気にハイスペだよなぁ。女子界のコミュニケーション能力以外 あざといのも好きな男には可愛く映るだろうし、姉にコンプレックスなければ物凄い逸材だったのでは?
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