えくすとら! その百八十八 俺より強い奴に逢いに行く系主人公みたいな男です、秀明くん
遅ればせながら新年、明けましておめでとうございます。旧年中はお世話になりました。今年もよろしくお願いします!!
正南高校で行われた練習試合――きっと、後に『正南カップ』とか呼ばれるだろうその練習試合の一試合目は秀明の高校である聖上と、北大路の高校である東洛の対戦からだった。普通、こういう試合のオープニングゲームってのはホスト側の試合を一試合目に持ってくる気がしないでもないが、どうも電車の帰りの時間の関係で遠距離である京都の東洛の試合を早めにこなす必要があるとかでこんな試合構成になっている。と、まあそんな事よりも、だ。
「こい、秀明!」
「はん! お前に俺が止められるか!!」
今は秀明と北大路のマッチアップ。流石、インターハイ準優勝の東洛の次期エース。上手くて速い。右に抜きかける秀明をしっかりマークし、その上でパスコースを綺麗に塞ぐ。そんな北大路の動きに抜きかけた右を捨て、左にドライブ。
「それは予想通りや、秀明!」
「あ……めーんだよ!!」
そのまま体の後ろを回す様なノールックのパスを放つ。その場所で待っていたのは聖上のシューティングガード。
「ナイス、秀明!!」
「先輩!!」
シューティングガードの先輩がシュートモーションに入ると同時、秀明がゴール下に駆け寄る。その動きに合わせる様に北大路もゴール下に走り込む――んだけど。
「秀明、ゴー!」
「ナイスっす、先輩!! うらぁ!!」
「っく!!」
ピーっと審判の笛が鳴る。シューティングガードの先輩が投げた山なりのパスを空中で受け止めた秀明はそのままゴールに叩き込む。飛ぶのが少しばかり遅く、秀明のダンクに割り込んだ形になった北大路はそのまま吹っ飛ばされファールも取られる。アンドワン、ってやつだ。
「……あめーんだよ、北大路」
そう言ってニカっと笑った後に北大路に手を差し出す秀明。その手を握りながら立ち上がり、北大路がギロっとした視線を秀明に向ける。
「……ありがとさん。ほいでもお前、アレは反則やろ?」
「反則したのはお前だけどな?」
「うぐぅ……それはそうやけど……なんやねん、アリウープって。高校生のポイントガードのやる事ちゃうやろ。NBAちゃうんねんで?」
「成長痛の成果だな。恨むならチビに産んだご両親を恨め」
「チビちゃうわ! あー、胸糞悪い!! ホレ! さっさとバスカン決めへんかい! どうせ外せへんのやろ!?」
「ま、浩之さんの弟子だしな、俺」
「あー、マジムカツク! 覚えとけよ、秀明! 次は負けへんからな!!」
ビシっと秀明を指さした後、チームメイトに『すんません』と頭を下げた後に自身のポジションに戻る北大路。
「…………すげ」
そんな姿をポカンと見つめてポツリと藤田が言葉を零す。そんな藤田に苦笑を浮かべていると、慌てた様に藤田が視線をこちらに向ける。
「ちょ、浩之!!」
「なんだよ?」
「な、なんだよアレ!? 秀明、とんでもねーぞ!? な、なんだ? アイツ、あんな上手かったのか!? こないだの試合と別人みてーじゃねえか!! ああ、いや、上手いとは思ってたけどよ!」
「少し落ち着け。まあ、言わんとしていることは分からんでは無いが」
「なんだよ! あいつ、こないだの試合、手でも抜いてたのか!? ああ、いや、秀明はそんな事するやつじゃねーし……」
尚もブツブツ言う藤田に苦笑の色を強くする俺。ああ、そうじゃねーよ。
「なんだ? 秀明ってこう……天才肌っつうかな?」
「……天才肌? そうなのか? なんか秀明ってこう……一生懸命に練習して、みたいなキャラな気がするんだが……」
俺の言葉に首を捻る藤田。あー……
「天才肌、っていうとちょっと違うかもだけど……あいつ、小学校の頃って俺並みにチビだった訳だよ」
「あー……なんかそれ、聞いたことあんな」
「だからポジションもポイントガードだったんだけどさ? 中学校の頃、メキメキ身長が伸びて今じゃセンターも出来るだろ?」
「……」
「お前もちょっとは分かるだろうが、バスケのポジションって何でもできる方が好ましいんだよ。ポイントガードでもリバウンドをガンガン取れるのなら取れた方が良いし、センターでもゴール下だけじゃなくてアウトレンジでシュート打って決める様な奴が最強だろ?」
「……まあな。理想論だけど」
「そうだよ。それって理想論なんだよ。でもな? 振り出しがポイントガードのアイツはリバウンドの練習なんて殆どしてないわけ。スクリーンアウトも、ジャンプのタイミングも、それ以前のポジショニングも。それなのに、聖上でベンチメンバーに入れてるんだぞ?」
「……だから、天才肌って訳か」
「ああ、違う」
「……ん?」
「秀明って練習は勿論一生懸命やるやつだし、バスケのセンスも凄いんだよな。でもな? だからっていうか……こう、ムラがあるっていうか……」
「……ムラ?」
「……自分で言うのもなんだけど、小学校まで秀明にポイントガードして負けたつもりはねーよ。中学校に入ってからは知らんが……まあ、身長伸びる毎にポジション変えてたんなら、そこにはそこの『専門家』が居たって事だろ? 有森が小学校からセンター続けて来たみたいな、そんな専門職が」
「……まあな」
「秀明はそいつら『専門家』に勝たなくちゃいけない。じゃないと試合にも出れないし、そうなると……」
一息。
「あいつ、パフォーマンスが上がるんだよ」
「は?」
ぽかん顔の藤田。うん……そんな顔になるよね?
「…………な、なにそれ? 相手が強いやつほど自分も強くなるってか? 漫画の主人公かなんかなのか、アイツ?」
「……気持ちは分からんでもないが……まあ、そうだ」
いや、マジで。俺も最初、漫画の主人公かなんかかと思ったぞ。アイツ、俺相手のワンオンワンとかすげーいいプレイするのに、相手がちょっと弱いチームだったりすると途端にミスが多くなるんだよな~。しかも決して手を抜いてる訳じゃなくて……何て言うんだろ?
「こう、相手抜いた後に『あれ?』みたいな顔して途端に動きが鈍くなったり、なんでもないシュート外したりするんだよな~」
「感覚が鈍るとか……そういう話か?」
「大体あってる……と思う」
この辺は俺もマジで分からん。分からんが……がむしゃらにプレーしているといつも以上のプレーが出る事はママあるし、秀明の場合は常に相手が自分より格上の状態だったからそういうプレーがずっと続いていたというか……そんな感じだと思う。マジで漫画の主人公みたいなやつだとは思うが。
「こないだの試合は相手のセンター、殆どゴール下べったりだっただろ? だからそこまでマッチアップが無くて目立たなかっただけだし……お前との練習はホレ、お前だって秀明追いつめられるほど上手いとは思ってねーだろ?」
「……まあな。なるほど、秀明にとって『俺相手』の全力と『北大路相手』の全力でも全力の……質? 質が違う感じか」
「そんな感じか? 誓って手を抜いたりはしてねーぞ、秀明。何時だって全力は全力だ」
まあ、今の北大路とのマッチアップはギア全開でアクセルベタ踏み、藤田のはアクセルこそベタ踏みだがギアは一速、みたいな感じだろう。そしてそのギアチェンジが自分では出来ないというか……まあ、ムラがあるやつだよ。
「……なんか逆にすげーな。そんな奴、漫画でしか見た事ねーけど……」
そういう藤田に俺は頷いて――そして、心の中で小さくため息を吐く。
「……俺も秀明以外では一人しか見た事ねーけど。つうか、そいつの動きで秀明のこと、納得できた気すらしてる」
「ん? 秀明以外にそんな漫画みたいなキャラいるのか?」
心の中で『お前だよ!』って突っ込みを入れながら俺は曖昧な笑顔を浮かべる。だってお前、有森の前じゃポンコツだろ? 幾ら彼女でも、そこまで極フリでパフォーマンス下がるやつ見た事ねーぞ? 秀明とは逆の意味で漫画の主人公だろ。まあ……藤田の場合、ラブコメの方だろうけどな。




