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えくすとら! その百八十六 桐生さん、完全敗北。

先日、人間ドックの結果が悪かった為再検査で生まれて初めて全身麻酔をしてきました。あれ、凄いですね! 絶対、『おちる』瞬間を記憶してやるって思ってたんですけど、気が付いたら違うベッドで寝てました。あれ、どうやって移動したんだろう……すげーわ、マジで。


「いや、邪教徒って。どんな悪者ですか、私」

 プルプルと震える人差し指で西島を指す桐生に『お行儀が悪い』とぺいっとその指を左手で叩いた後、西島は少しだけ呆れた様にため息を吐いて見せる。

「で、でも! 恋愛ってそんなものじゃないでしょ! そ、その……ほ、本当に好きな人と、そ、その……か、関係性を深めて!」

 西島に尚も食って掛かる桐生。そんな桐生に木場も『うんうん』と頷いて見せる。その姿をじとーっとした目で眺めた後、西島は先ほどよりも深くため息を吐く。

「桐生先輩はそうかも知れないですけど――っていうか、あれ? 貴方、こないだの市民大会で東九条先輩たちと戦ってた人?」

「え? あ……はい、そうですけど……」

「やっぱり! あの上手かった人でしょ? っていうか、そっちのチーム、皆本当に上手かったよね! 一年生でしょ? 同い年であれだけ上手いなんて、やっぱり一芸極めた人は違うな~って思ってたんだ!」

 少しだけ眩しそうに木場を見つめる西島に、そんな視線を向けられた木場が少しだけ『もにょ』とした表情を浮かべて見せる。まあ、手放しで称賛されればそら、嬉しいよな。対して西島の表情も……まあ、彼女の過去とか聞いた今じゃなんだかちょっとだけ可哀想に聞こえんでもない。まあ、何様だという話ではあるが。

「あれ? それじゃ今日、もしかして女子の部の試合もあるんです、東九条先輩? なんか北大路君とか古川君とかの男子の部だけって聞いた記憶があるんですけど……」

「いや、男子の部だけだよ。木場は……応援?」

「え、ま、まあ……はい」

「応援? ええっと……木場さん? だっけ? 木場さんのガッコって東桜女子でしょ? ああ、あれか! 一緒のチームになった正南の応援?」

「そ、その……ま、まあ、正南の応援っていうか……」

「……? ……! ああ、あれか! どっかのチームに彼氏でもいるって話か!」

 納得したようにポンっと手を打つ西島。そんな西島に木場が顔を真っ赤にする。と、そんな木場を庇うように一歩前に出た桐生が西島に対峙した。

「そ、そんな事より! な、なによ、桐生先輩はそうかも知れないって! 西島さん、貴方は違うという事かしら?」

 猫だったら『ふしゃー!』とばかりに全身の毛を逆立たせる桐生の姿に、本当に面倒くさそうに西島が肩を竦めて見せる。

「いや、そりゃそうじゃないです? 前もちょっと話したと思いますけど……別に高校生の彼氏彼女ですよ? よっぽど運命的な出逢いでもしない限り、そりゃフツウはそんなもんじゃないです? 桐生先輩と東九条先輩、それに有森と藤田先輩みたいな恋愛が特殊ケースですよ? あんなクッソ重い感情で付き合ってんの。まあ……交友関係狭そうな桐生先輩の周りの鈴木先輩も賀茂先輩も川北さんもクソ重感情持ってますし、気持ちは分からないでも無いんですが……っていうか、東九条先輩? マジで洗脳とかしてませんよね?」

「してねーよ!」

 酷い冤罪だ。酷い冤罪だが……

「あれ? 明美はそうでもないのか?」

「何言ってんですか、東九条先輩。明美さんですよ? 良かったですね?」

「何が?」

「この国が法治国家で。あの人、法の縛りが無かったらきっと、東九条先輩の事監禁ぐらいは普通にするタイプですよ? クソ重いどころの話じゃありません。激重でヤバ重です」

「激重でヤバ重と来たか」

 明美の評価が酷い。

「く――お、重いかもしれないけど! で、でも貴方! 昨日ちょっと言ってたじゃない! う、羨ましいみたいなこと!」

 絶望を覚える俺をしり目に、桐生が吠える。そんな桐生に西島は肩を竦めて見せた。

「いや、羨ましいのは羨ましいですよ? 凄く純粋な感じもしますし。でも、私も昨日言いましたよね? 私はそういう恋愛出来ないって」

「うぐぅ……そ、それは……」

「別に皆さんの考えを否定する訳じゃないんですけど……でも、やっぱりある程度恋愛事って妥協の産物だと思うんですよね? だって、そうじゃないです? 『この人、大好き! ずっと一緒に居たい!』って付き合う……のはまあ、あんまり想像つかなくないです? 告白されて、『まあ、悪くないか~』で付き合うパターン、多くないです?」

「わ、分からないじゃない! 相思相愛かもしれないじゃないの!」

「まあ、そのパターンも無いとは言いませんけど……でも、そうだとしても、恋愛って結局『始まった瞬間』が最高潮な訳じゃないですが? カレカノになったら相手の嫌なところも見えてくるというか……そういうの、分かりません?」

「そ、それは……そ、そこも愛してこそ、真実の愛じゃないかしら!!」

「うわ、クソ重……まあ、百歩譲ってそうだとしてもですよ? その理論で行けば恋愛結婚のカップルに離婚なんてありえないわけじゃないですか?」

「ぐぅ……」

「付き合ってみて、一緒に生活してみて、結婚してみて、お互いの考え方や生活習慣、それこそ食事の食べ方が汚いとか、お金にだらしないとか、掃除洗濯が出来ないとか、そういうマイナス面が見えてくる訳じゃないですか? そこ、全部愛するって言うんですか? 流石に無理がありません、それ? 私、絶対に嫌ですもん、クチャラーとか」

「……」

「最初百点満点だった彼氏とか彼女の嫌な面が見えてきて、マイナス点が積みあがって、ボーダーライン越えたら別れる、って言うのが恋愛じゃないですかね? まあ、一緒に暮らして加点があったりする、つまり『その小さな欠点を補って余りあるプラス点がある』って可能性は全然あると思いますよ? 思いますけど、だからって言って『そんなダメな所も好き!』なんて、絶対碌な恋愛できませんよ? ダメな所はダメな訳ですし……そこも指摘できないで盲目的な大好きなんて……なんでしょ、マジで洗脳じゃないですか」

「……う、ううう……」

 ……もう辞めてあげて、西島。桐生のライフがゼロだから。

「だから……まあ、私は『恋愛は減点方式』なんですよ」


「ううう……ひがしくじょーくん! 西島さんがいじめるー!!」


 ひしっと俺に抱き着いてうるうるとした桐生の頭を撫でて、俺は小さくため息を吐いた。うん……でもごめん、桐生。俺、西島の言う事、ある程度分かる気がするんだわ。俺も邪教徒かもしれん。



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― 新着の感想 ―
[一言] ラフ”警察、撤収!www
[気になる点] 作者様の体調? [一言] クチャラーは無理!まあ鼻が悪いとか事情は人それぞれあるかもですが。 出来れば食事の同席はしたくないね。 よかったな浩之くん、桐生さんが減点方式なら既に破局……
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