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えくすとら! その百八十五 桐生彩音の楽しい恋愛講座


 目をきらきらとさせた桐生に少しだけ気圧されながらも、それでも木場はちょいちょいと自身の髪を弄りつつ、視線をチラチラと桐生に向ける。

「え、ええっと……そ、その、小林君とは、本当になんでもないっていうか……こう、ただバスケを教えてあげる……っていうのもおこがましいんですけど……一緒に練習しているだけって言うか……」

「……分かるわ。一人、黙々とシュート練習をしている彼の姿を見つけ……そして、思ったのでしょう? 『この人のシュートはダメだ』と」

「だ、ダメとは……でも、元々小林君、センターの選手だしアウトレンジのシュートはそんなに得意じゃなくて。し、知らない仲でも無いですし、『その練習、効率悪いよ?』って」

「ふむふむ。そしたら、『どうすればいい?』と小林君が貴女に教えを乞うて来た訳ね?」

「そ、そうなんです! あ、でも、そんなに上からじゃなくて! 『申し訳ないけど、教えてくれないか?』って……」

「ええ、そうでしょうね。それで……彼が必死に練習したのでしょう? 見ている貴女が不安になるほどに」

「っ! そ、そう! そうなんです! 正南も強豪校だし、毎日の練習キツイはずなんですよ! だから、『そんなに練習したら体壊すよ?』って! で、でも! そしたら小林君が――」


「「――『勝ちたいから』って言った」」


「――っ!!! な、なんで分かるんですか、桐生先輩!?」

「ふふふ……言ったでしょ? 私は恋愛の伝道師だから」

「す、すごい……凄いです、伝道師!!」

「いや……これ、カンニングじゃね?」

 細部は違えど……殆どこれ、藤田と有森の焼き直しだもん。あれ? バスケ少女って恋に落ちるパターン、一個しかないの? んな訳ないよね?

「カンニングとは失礼ね? 小林君の試合の最中に見せたあの咆哮、木場さんの乙女な表情と、小林君の満更でも無さそうな顔……そして、バスケの練習を二人でしていたという事実が組み合わされば」

 良い笑顔でピンっと、人差し指を立てて。


「――簡単な帰結ね?」


「……探偵かなんかなの、桐生?」

「違うわ。伝道師よ。もしくは警視総監」

「……なんも言えね」

 いや、まあ……桐生はなんだ、優秀なのは優秀だからな。そりゃ、幾つかの状況証拠と証言が組み合わされば、これぐらいの推察はして見せるだろうことは分からんでもない。分からんでも無いが……なんだろう? 優秀さの無駄遣いが甚だしいと言いましょうか……いや、本人が納得いってるんならこっちから口出す事じゃないけどさ?

「あれ? 東九条先輩に桐生先輩? 何してるんですか、こんな所で。試合、始まっちゃいますよ? 早く行きましょうよ」

 ふと、そんな俺の背中に掛かる声があった。振り向いた視線の先には飾り気のない白のTシャツにミニスカート姿の西島の姿が。手には木で編んだっぽいバスケットを持っている。ボールじゃねえぞ? 籠の方だ。

「? 本当に何しているんですか? あ、お知り合いとお喋り中です? お邪魔なら先に行ってますけど……」

「いや、別にお邪魔って訳じゃないけど……っていうか、なんだ、その荷物? なんか重そうだけど、持つか?」

「ナチュラルに口説かれてます、私? お申し出は有り難いですが、そーいうのは桐生先輩にしてあげて下さい。それにそんなに重たくも無いですし。中身、サンドウィッチですし」

「サンドウィッチ?」

「北大路君も古川君もお腹空くかも知れないじゃないですか? だからまあ、作って来たんですよ、サンドウィッチ。試合の合間にちょこっと摘まめるものがあればいいな~っていずみちゃん、言ってましたし……あれ? 食べたらダメな感じですか?」

「いや、ダメって訳じゃないけど……まあ、チームによっては渡すの難しいかも知れんが」

「まあ、渡す機会が無ければ皆さんで食べても良いんじゃないかなって。昨日はお世話になりましたし、そこそこ食べれるもののハズですしね。東九条先輩の分もありますよ?」

「……そうか。それじゃまあ……有難くご相伴にあずかる」

「ええ、そうしてください。それより! どーです、今日の私の服装!!」

 そう言ってくるっと回って見せる西島。なに? 嬉しいの?

「どう、とは?」

「昨日、茜ちゃんとか川北さんに聞きました。東九条先輩、女子の服装褒める――違うか。正当な評価、してくれるんですよね?」

「正当な評価って。まあ、似合う似合わないくらいは言うが」

「似合ってます?」

「似合ってる」

 昨日の『清楚』みたいなことを言っていた服装よりは西島に似合っていた。昨日のも似合ってるのは似合ってるが……こいつはもうちょっとこういう露出が多い方が『ぽい』気がするからな。

「似合ってるが……どうした? お前、昨日北大路には『清楚系』で責めるとか言って無かったか?」

 俺の疑問にちっちっちと指を振って見せる西島。

「甘いですね~、東九条先輩。昨日は清楚系、今日は小悪魔系で責めるんですよ! 試合後にお話しする機会もあるでしょうし? まあ、ちょっとくらいボディタッチを増やして篭絡と言いましょうか!! これできっと、北大路君も私の魅力にメロメロになるんじゃないですかね~!!」

 ぐっと拳を握る西島。見える。西島の後ろに肉食系の獣の顔が。

「……ねえ、西島さん?」

「へ? なんですか、桐生先輩?」

「さっき、篭絡って言ってたけど……北大路君のこと、その……良いな、とか思ってたりするの?」

 瞳を再びキラキラさせた桐生。そんな桐生の問いに、西島は顎に手をやって『んー』と考える。

「……あー……まあ、悪くはないかな、と。バスケは巧いし、イケメンですし、お金持ちなんでしょう? 優良物件というか……まあ、そんな感じですかね?」

「……え?」

「何様か、と言われればあれですけど……そうですね、合格点と言った感じでしょうか?」

「ご、合格点って……」

「彼氏にしたいか、と言われればイエスです。まあ、性格とかもちょっと可愛いな~とは思いましたけど……言って、昨日初対面ですし? そんな深いところまで分かりませんから」

 そう言ってけらけらと笑って見せる西島。そんな西島に、桐生は震える指で西島を指す。

「あ、貴方……そ、そんな感じで男女交際をしても良いと思ってるの!? もうちょっと、こう、お、お互いの良い所を知って、仲を深めて、この人と離れたくない、一緒に居たいって思って付き合うものでしょう! 恋愛ってそういうものじゃないの!?」

「何を今更。桐生先輩だって知っているじゃないですか? 私と北大路君、そもそも『そういうもの』だって。そもそも私」

 そう言ってにっこりと笑って。



「桐生先輩と違って、恋愛は足し算じゃなくて引き算だと思ってますんで」



「……東九条君……邪教の教えを信奉している邪教徒に出逢ってしまったわ……」

「……邪教とかあんの、お前の所の宗派」

 ……まあ、桐生の考えるハッピーエンドからは遠いかもな。



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