えくすとら! その百八十三 ラブ警察、今日も元気に活動中!
「……ええっと……東九条先輩、ですよね? 先日はその……お世話になりました」
「いや、別にお世話しちゃねーけど……」
なんとも言えない雰囲気の中でチラチラとお互いを見やる。あー、なんだろう? この気まずい感じ。なんか見ちゃいけないところを見ちゃったっていうか……
「……え、えっと……なんだ? 小林も試合、出るのか? それ、試合用のユニフォームだろ?」
話を逸らすようにそう言ってみる。俺の話題に、小林があからさまにほっとした表情を浮かべて見せた。
「出れるかどうかは分かりませんが……背番号を頂くことが出来ましたので」
「へー! そりゃすげーな!」
正南は全国常連の名門校だ。秀明や北大路だってすげーけど、小林も大したもんだな!
「そうでもありません。水杉だって背番号貰ってますし……それに、俺の場合はチームの戦略的な所もあるんですよ」
「戦略?」
「ほら、俺はそんなに体格も良い方じゃないでしょう? だから、少しだけ外からのシュートも練習してるんです。ウチの先輩方は体格も良いので、ゴール下でも当たり負けしませんが……俺は違うので。それで、物珍しさで入れて貰っただけにすぎません」
「……物珍しさ、ね~」
確かに小林は身長こそ高いが体格はそこまで良いとは言えんしな。ひょろ長い、っていうと言い方は悪いが、ゴール下の戦場ではフィジカル勝負になりがちだし、小林の体格なら吹っ飛ばされかねんし。でも。
「中がガチガチに固まった展開では小林を投入して外から打って広げる感じか?」
「そこまで巧く行くか分かりませんが……まあ、練習はしていますね。それが自分の生きる道でもあると思いますし。そういう意味では本当に先日はお世話になりました」
「だから、お世話した覚えはねーよ」
俺の言葉に小林は黙って首を左右に振る。
「いいえ。先日の東九条先輩のチームのパワーフォワードの方、綺麗なシュートフォームで打っておられました。他の動きは……失礼ながら、明らかに素人だったのにも関わらずです」
「……まあな」
「きっと、想像もつかない努力をされていたのでしょう」
「あー……アイツ曰く、努力じゃねーらしいけどな。好きだからやったらしいぞ?」
その言葉にきょとんとして見せた後、小林は少しだけ苦笑を浮かべて見せる。
「……敵わないですね」
「まあな」
「ともかく、あのパワーフォワードの方の動きを見て俺も考えたんですよ。幸い、シュート練習は一人でも出来ますし、外から打てるセンターは昨今の流行りでもありますしね。正直、小学校からセンターでしたのでそこまでアウトレンジのシュートは得意では無かったのですが……」
「だろうな。小六で何センチ?」
「180は超えてましたね」
「それじゃ、ゴール下は無双状態だろ」
下手すりゃ他所のチームのセンターが飛んでも、小林立ったままで超えてる可能性すらあるぞ、おい。
「高さに甘えていた、という自覚はあります。俺がシュート打てばブロックは全然手が届かないですし、ゴール下のシュートだけ決めてれば良かったですね」
「……そっからアウトレンジのシュート練習か。そりゃ、苦労しただろ?」
「……ええ。正直、どうすれば――」
「――そーなんですよ、東九条先輩!!」
「――……木場」
不意に話に入って来た木場。瞳をキラキラさせて俺にずいっと近づいてくるその姿に思わず一歩下がってしまう。
「ええっと……何が?」
「学校からの帰りに公園からバスケボールの音がするな~って覗いてみたら小林君が居て! 一生懸命、練習してたんですよ!! チームメイトにバレないようにわざわざ遠くの公園まで来て練習するんですよ? 凄くないですか!!」
「……そうなの?」
「……まあ」
「なんで?」
「アウトレンジのシュート、本当に苦手で……あまり努力している姿を見せるのも……その、器の小さな話ですが……少し、格好悪いかな、と……」
「……男の子だな、小林」
「東九条先輩もでしょうに」
まあ、気持ちは分からんでは無いが。
「ほんで? その練習に木場が付き合った、ってか?」
「はい! 私、ガードですしアウトレンジのシュート、得意なんですよね!! それで一緒に練習して、少しだけアドバイスして……」
「――恋に落ちた、という訳ね?」
木場の言葉を引き継ぐよう、心持――訂正、思いっきり瞳をキラキラさせて木場を見やる桐生ラブ警察警視総監殿。その桐生の言葉に、木場があわあわと両手を振って見せる。
「え、えっと……桐生先輩、ですよね? い、いえ! べ、別に恋に落ちたとか、そういう訳じゃなくてですね!?」
「あら? 良い人が居て、その人に惹かれるのは生物としてなにも照れることでは無いわ。まあ、言葉にするのは恥ずかしいでしょうから、頷く、と行動に出してくれても良いのだけれど」
「で、ですから! わ、私はその、ちょ、ちょっと練習に付き合っただけで! そ、そりゃ、毎日毎日、練習後も電車に乗ってシュート練習する姿はまじめだな~とか思ったりはしますし、尊敬もしてますけど! べ、別に好きとか好きじゃないとか――」
「――それがもし……わざわざ電車に乗ってまで公園に行くのが貴女に逢いに来る為だったら、貴女はどう思うの?」
「――めちゃくちゃうれし――はっ! ゆ、誘導尋問ですか!?」
「……惜しいわね」
「桐生先輩!!」
もー、と言わんばかりに顔を真っ赤にして詰め寄る木場に、あらあらと言わんばかりの余裕の笑みを見せる桐生。そんな桐生に俺は苦笑を浮かべて。
「……東九条先輩」
「……なに?」
「その……試合前ですので、こう、もう少し俺も集中したいと言いますか……というか、あんな人でしたっけ? あの女性の方って。なんかイメージが……」
「……ごめん」
たまにポンコツになるんだよ、あいつ。




