えくすとら! その百八十一 ステータスとしての彼氏。
コロナに感染しました。今は熱も下がり鼻水程度ですが、体が全体的に怠い……来週は本調子になっていれば!!
「あー……なんかごめんね、西島さん」
ジト目を向けてくる西島さんに『たはは』と笑って見せる智美さん。そんな智美さんに小さくため息を吐いて、西島さんはぺたんと女の子座りをして見せる。
「ま、良いですけどね。友達にハブられたのだって元を正せばまあ私のせい――でも無い気もしないですけど……性格的に皆に愛される感じでは無いですしね、私」
面倒くさそうにそう言ってスマホを取り出していじり出す。そんな西島さんに、涼子さんが気遣った様な声を上げた。
「えっと、西島さん? なんか飲む?」
「ありがとうございます。それじゃ、鈴木先輩と同じものを」
『了解』と頷いた涼子さんがキッチンへ。程なくして戻ってくるとコップに入ったオレンジジュースを持って来た。
「……どうも」
「ううん、良いよ~。そもそもこれ、明美ちゃんの家にあったやつだし。お礼は明美ちゃんだよ~」
「……そうですね」
そう言って西島さんは居住まいを正して明美さんに向き直ると頭を下げる。
「……ありがとうございます、明美さん」
「オレンジジュース一つでそこまで畏まられるのも逆に恐縮するのですが」
「オレンジジュースだけではなく……その、今日泊めて頂くこともです。っていうか、今日は桐生先輩にもお世話になりましたし……」
ちらりと視線をこちらに向ける西島さん。まあ、北大路君とのデート、二人きりはちょっと……という事でお付き合いもしたしね。
「気にしなくても良いわよ」
本気で。正直、役得だと思っているし……楽しかったし。
「あー! 彩音、なんかニヤニヤしてる! どうせヒロとのデート、楽しかったとか思ってるんでしょ!」
「非常に惜しいわね。エスパーかしら?」
「その顔見ればわかりますよ~、だ! 良いな~、彩音ばっかり。今度私もヒロをデートに誘ってみようかな~」
「滅すわ」
「滅す」
「滅す」
「……どんな会話ですか、それ」
私と智美さんの会話に呆れた様に西島さんがため息を吐く。後、少しだけ羨ましそうに視線を私達二人の間で行ったり来たりさせる。
「……何かしら?」
「いえ……なんというか……ちょっと、羨ましいかな~って」
「羨ましい?」
「はい。その……ほら、私が……あー……ちょっと今、ハブられてるのって、こう……男女関係の痴情のもつれ、と言いましょうか……」
「……まあ」
痴情のもつれ、というかどうかはともかく……なんというか、色々と面倒くさい勘違いでなっているのは確かね。
「今日のゲームでも思ったんですけど、鈴木先輩も賀茂先輩も川北さんも、もちろん明美さんもですけど……皆、本当に東九条先輩の事が好きなんだな~って」
「……まあ、そうね。言ったでしょ? 『私がお願いして付き合って貰ってる』って」
「なんとなく、頭では理解しているつもりだったんですよ。ですが、実際に見て」
そう言って、西島さんは言葉を切って、少しだけ切なそうに。
「――皆さん、趣味が悪いな~って」
「表に出るかしら?」
上等ね、西島さん。戦争かしら? 忘れたの? 私、一応、悪役令嬢なんて呼ばれたりしてますけど!
「わわわ! じょ、冗談――でもないですけど! すみません、趣味が悪いは言い過ぎました! いや、東九条先輩って確かにバスケは上手ですし、頭も悪くは無いんだと思いますよ? 顔だって、よく見れば味のある顔してると思いますし!」
「味のある顔」
「無茶苦茶イケメン! って訳じゃないじゃないですか? 中の中、物凄く頑張って中の中の上、みたいな!」
「……私は好きな顔よ、東九条君」
「その辺は好みなので……でも、イケメン具合で云ったら古川君の方が絶対にイケメンじゃないですか! 特に鈴木先輩とか賀茂先輩、それに川北さんって古川君の幼馴染なんでしょ? それなのに東九条先輩を選ぶって……」
あ、智美さんが渋い顔してる。そうよね。智美さん、古川君に告白されて振ってるんだものね。
「そういうお話なら、北大路君はどうなのかしら?」
このお話が続けば地雷しかなさそう。そう思い話を変えるべくデート相手であった北大路君の名前を出して見せる。
「あー……確かに北大路君、イケメンですよね~。バスケも上手だし、お金も持ってそうですし……学力は良く分からないんですけど……」
困ったような笑顔を見せる西島さん。何を言って良いのか分からない、そんな私の言葉を奪う様に智美さんが言葉を継いだ。
「……なに? その奥歯にものが挟まったような返しは。北大路君は西島さんのオメガネに適わなかったってカンジ?」
「オメガネとか、私何様? って感じじゃないですか。そうじゃなくて……」
ふるふると苦笑を浮かべて手を振って見せる。
「……東九条先輩ってぱっと見、イケてる感じじゃないじゃないですか?」
「……そうね、とは言い難いけど」
「まあ、桐生先輩とか幼馴染ーずの皆さんの感情はともかく……一般的な評価で言えば古川君の方がイケてますよ」
「……」
「でも、そんな中で皆さん、東九条先輩を選んだんでしょ? 正直、幼馴染ーずの皆さんなら選びたい放題じゃないですか。女性の私から見ても皆さん、魅力的だな~って思いますし」
「……貴方も十分魅力的よ」
「ありがとうございます。でも、そうじゃないんですよね。あー……なんていうか……私って結局、男の子の事『ステータス』としか見て無いんですよね~」
「『ステータス』」
「はい。北大路君がイケメンってのも分かるし、優しいのも分かるんですよ。分かるんですけど、きっと北大路君とお付き合いしたらですね?」
私は、『マウント』を取れる、と。
「きっと、そう思うと思うんですよね? なんていうか……皆さんが東九条先輩を好きな様に、純粋に誰かを好きになるって無い気がするんですよ」
「……」
「まあ、女子高生……だけでもないですかね? 高校生の恋愛なんてそんなもんっていえばそんなもんでしょうけど。ミホ――ああ、私をハブってるヤツなんですけど、そいつの彼氏もまあまあイケメンなんですよね? 身長も高いし、運動神経も悪くない。勉強だって百番以内には常時いるらしいですし」
「トロフィー彼氏、というやつかしら?」
「そーですね。なんというか、そんな感じです。実際、その彼氏にしたって私にコナかけてきたくらいですし、もっと……そうですね、『条件』が良い相手を見つけたら、そっちに乗り換える程度の」
ペラい、感情。
「……そう考えると皆さん、凄いな~って。あのデカいのもそうですけど……皆、相手の事考えて、相手の為になることを思って……自分の事じゃなくて、相手の事を――だから、皆ライバルなのに仲良しなのかな~って。ステータスじゃなくて、相手の事を本当に思えるからなのかな~って。だから、そんな皆さんの事が」
私は、羨ましい、と。
「ま、私なんてどこまで行っても自分勝手ですからね~。承認欲求の塊ですし、私!!」
冗談めかしてそう笑う西島さんの笑顔は、なぜか儚く映った。




