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えくすとら! その百七十八 必ず呼び合う、東九条の絆


『来ました! 私、神引きです!!』なんてにこやかに笑う明美。そんな明美に少しばかり呆然とした視線を向けていると、智美が声を上げる。

「……盛り上がってるとこ悪いんだけどさ? そのカード、恋人『交換』カードなんだよね? んじゃそれ、明美が持ってても意味なくない? だってアンタ、おひとり様じゃん? だれと『交換』するのさ?」

「甘いですね! このカード、一人の場合は恋人を強奪できるカードになるんです! つ・ま・り! 強制的に浩之さんは私の旦那様です!! 略奪愛というやつですよ!!」

「……略奪愛って」

 だから色々と不味いんだって、このゲーム。いや、年齢制限あるからまあ、そういう事もあるかなとは思ってはいたんだが……

「というわけで浩之さん!! さあ! 藤原さんとお別れして是非、私の車に乗ってくださいな! 安心してください、浩之さん! 浩之さんには何のご不便もかけません! 私と共に生きて頂ければそれで良いのです! あ、そうです! 安心してください! 浩之さんと藤原さんのお子さんの教育資金は全部、私が払いますので!」

「……生々しいんだけど」

「ゆくゆくは私と湖のほとりの小さな一軒家で暮らしましょう! あ! 私、最初の子供は女の子が良いです! 浩之さんの『浩』と明美の『美』を取って浩美なんてどうでしょうか?」

「どうでしょうか、じゃねーよ。何言ってんだお前」

「何って……明るい将来設計です。安心してください、お金はありますから」

 いや、確かにひ孫の代まで遊んで暮らせる額はあるんだろうけどね?

「っていうか……そんなカード、本当にあるのかよ? いくら何でも都合がよすぎじゃないか?」

 いや、まあこのゲームに何を期待してるんだって言われたらそれまでなんだろうけどさ?

「こういうボードゲームって……なんていうか、『運ゲー』の所があるじゃんか? それなのにカード引いた瞬間、強制的にイベント成立って……」

 そういうゲームもあるのかもしれんが、流石にこれってノーリスクすぎないか?

「何を言っているのですか! 御伽噺をモチーフに全国を旅する鉄道ゲームだって引いただけで一気に情勢を引っ繰り返せるカードもあると聞きます! このカードだって、そんなカードと一緒、ノーリスクで約束された勝利が――」

 不意に、明美の言葉が止まる。なんだよ?

「……どうしたの、明美ちゃん? カード見て真っ青な顔して。ちょっと見せて」

「――っ!! だ、ダメです、涼子さ――」

「なになに……『最初にルーレットを回したチームを『1』、二番目にルーレットを回したチームを『2』として、出た数字のカップルのどちらかとカップルを交換出来る! 相手に飽きてきたら是非使ってね!! ※人数が合わない場合は『1』と『2』を一番の人、みたいにアレンジしてね☆』って……」

「……気付かなかったんです。ほんとに……もう、『恋人交換』しか見えてなくて……そんな……」

「……ま、そういう事だろうな」

 つまり、これも運ゲーって事だろ?

「ちょ、流石にそれは……」

「だな」

「そ、そうですよ! いきなりそないな事言われても……困る言いますか……」

 上から秀明、藤田、北大路の言葉だ。まあ、秀明と藤田んところはマジのカップルだし、北大路は北大路で明美とのお見合い回避目的で来てるのにこんな所でカップル成立は勘弁だろう。こんなゲームで何がと思わんでも無いが……まあ、秀明カップルと藤田カップルは良い感じに仲深めてるしな。万が一は避けたいだろう。

「で、では! 特別ルールはどうでしょうか!?」

「……特別ルール?」

「はい! 藤田さん、秀明さん、北大路さんペアを抜いた三ペアから選ぶという――」

「却下よ、明美様。それじゃ明美様と東九条君のカップル確率が上がるだけじゃない」

「そうですよ、明美ちゃん! そんな提案、受け入れられませんね! 私達にもメリット提示をしてくれいないと!」

「うぐぅ……お、お金はどうでしょう?」

「お金、ですか? いや、別にこのゲームで一位になっても――」


「諭吉先生、何人で手を打ってくれるでしょうか?」


「――まさかのリアルマネー!? ちょ、明美ちゃん!?」

「何言ってんだ、このバカ! んなもん、許せる訳ねーだろうが。却下だ、却下」

 驚いた瑞穂の声に俺も言葉を被せる。いや、最近マジでポンコツ度増してないか、こいつ?

「あ、明美ちゃん!! このカード、売却も出来るんだって! 誰かに売却は無理だけど、銀行が買ってくれるんだって! なんと百億!! どう、明美ちゃん? 此処は皆の平和の為にこのカード、売却したら? そしたら明美ちゃん、ホントにぶっちぎりで一位だよ?」

 涼子がこてん、と首をかしげながらそんな言葉を発する。そんな涼子に、『歯ぎしりとはどんな感じか?』と問われた時の例題みたいな綺麗な歯ぎしりを見せた後、それでも明美は胸を張った。



「――はっ! 上等です!! この東九条明美、与えられたチャンスを無にする様な事は致しません!! ええ、ええ、良いでしょう!! 私を除いた組数は六組! 1と2が出た場合は最初にルーレットを回した涼子さんと彩音様のチームとしましょう!!」

「いや……明美? やめとかないか? 嫌な予感しかしないんだが……」

「何を言っているのですか!! 良いですか? 東九条は東九条に引かれ、惹かれるのです!! 古からの『血』の繋がりを持つ私達なら、絶対に魅かれあうに決まっています!!  信じて下さい、浩之さん!! 行きます――っは!!」



 明美の言葉と共にルーレットが回される。一同、固唾をのんで見守る中、ルーレットはゆっくりとその動きを止めて。


「……うわ」

「……これは」

「……あー」

「……いや、でも……」

「うん。確かにこれは……」


「……明美さん? 流石にこれはちょっと……いや、まあ、ゲームなら仕方ないんでしょうけど……」


 疲れた様にそう言ってジト目を向ける秀明。そんな秀明に、わちゃわちゃと明美は手を振って見せる。

「ひ、秀明さんと、とは言ってません! 良いですか、このカード、『カップルのどちらか』なんです! で、ですので私は茜さんを――」


「……酷いよ、明美ちゃん」


 明美をじっと見つめ――潤んだ瞳で見つめる茜に明美の言葉が止まる。

「明美ちゃん、『良かったですね』って言ってくれてたのに……」

「ち、ちが!」

「……そうだね。秀明、男前だもんね……」

「そ、そうじゃないです! 別に、秀明さんが男前とか思ってないですよ!!」

「……え? お、思って無いの? 明美ちゃん、秀明のこと、嫌い?」

「そうじゃなくて!! その、一般的な評価はともかく、秀明さんとどうこうなるとは言ってません!! さっき言った通り、私は茜さんとカップルに――」




「……明美ちゃん、私と秀明を引き離すの?」




「うぐぅ!!」

言葉に詰まる明美をじっと見つめたままで。



「――明美ちゃん、嫌い」



「ぐはっ!!」

 茜の言葉がクリティカルヒット。そうだよな~。こいつ、茜の事も妹の様に可愛がってたもんな~。『嫌い』は堪えるよな~。

「……いや、でもちょっと感動したわよ、明美様! 本当に『東九条』を引き当てているんですもの。やはり、血の繋がりはあるのかしら……」

「……それ以上は止めてやってくれ、桐生。オーバーキルだから」

 流石にちょっと可哀想になってきた。そんな明美に同情の視線を向けていると。

「……皆さん」

 明美が居住まいを正して、丁寧に頭を下げる。



「――本当に申し訳ございませんが……今の、無かった事にして、このカードを売却の方向にさせて貰えませんでしょうか?」



 憔悴しきった明美の表情に同情した誰からの反対もなく、同時にゲームは色んなものを犠牲にした明美の勝利で幕を閉じた。うん、総資産一兆円ってなんだよ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 東九条の絆がかくも堅固なものとは(笑) 誰一人としてブレないところが良いですね。
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