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第二十八話 風邪引くとどうしても体も心も弱るよね。


「……けほ……」

 翌朝、桐生の言いつけを守らずにリビングで寝た俺だったが、翌朝起きてみたら見事に風邪を引いていた。

「……ねえ、なんで? なんでお前が風邪引いてんの?」

 ……桐生が。

「……けほ……う、うるさいわね。なんだか眠れなくて、本読んでたのよ……けほ……そしたら、湯冷めしたんでしょうね……けほけほ……」

 心持顔を上気させてこちらを睨む桐生。これは恥ずかしいからか、純粋に熱が上がったからか判断に迷う所だが……

「……とりあえず、さっさと寝ておけ。学校には……俺から連絡は不味いよな?」

「そうね……けほ……私から連絡するわ」

「出来るか?」

「声は出るもの。そんなに心配しなくても大丈夫……けほ」

「……本当かよ」

「本当よ。ホラ、早く学校行きなさいよ。遅刻するわよ?」

 そう言って布団を目元まで上げる桐生。いや、学校って……

「……昼飯、どうするんだよ?」

「……な、なにかデリバリーでも頼むわ」

「……アホか。風邪ひいてるときにそんな栄養の無いもの食うな」

「それじゃ、おかゆでも作ろうかしら?」

「……まあ、お前、米炊くのは上手いもんな」

 上手いけど……にしても風邪っ引きにそんなのもさせられないしな。

「……分かった。俺も休む」

「はぁ!? なんで貴方が――けほけほっ!」

「ほら、大きな声出すなって。心配すんな。俺はこう見えて普段の生活態度は良いからな。一日サボった所で大目玉を食らう様な事はない」

 胸を張る俺。そんな俺に、桐生が胡乱な目を向けて来た。

「……貴方が生活態度が良いの?」

「……まあ、目立たず騒がずって所だが。お前みたいに悪目立ちしないだけで」

「……半分は私のせいじゃないわよ? 別に私が目立ちたくてしてるワケじゃないんだし。絡んでくるから叩き潰してるだけで」

「……普通、女子高生の口から『叩き潰す』って単語、出ないよな~」

 流石、悪役令嬢。

「まあ、そういう訳で俺は結構ちゃんとしてるから一日ぐらい授業を休んでも大丈夫。お前と違って友達もいるし、ノートぐらいは見せて貰えるの」

「……そんな嫌味、言わないでくれるかしら?」

 半眼でこちらを睨む桐生。悪いな。

「ともかく、お前はゆっくり寝てろ。おかゆ作ったら持ってきてやるから」

「あ、ちょっと!」

「なんだ? 俺はやると言ったらやる男だぞ? 一度サボると言った以上、男に二言はない。全力を持ってサボってやる」

「何馬鹿な事言ってるのよ。そうじゃなくて……」

 上気させた頬のまま、こちらを見やり。


「……ごめんね……その……あ、ありがとう」


「……お、おう。と、とりあえず、早く寝て置け」


 若干弱気な態度に、これ以上見てたらなんだか不味い事になりそうで、俺は慌てて部屋のドアを閉めた。


◆◇◆


「……ん……もう昼か」

 朝、おかゆを作って食べさせた後、風邪薬を飲ませてひんやりシートを頭に張ると、直ぐに桐生は眠りに付いた。それを見届けた俺は室内を軽く掃除し、リビングで昨日の続きの本を読んでいた所で腹の虫が鳴った。

「……桐生は……起きてるのかな? あいつ」

 リビングを出て桐生の部屋の前へ。トントントンと部屋のドアをノックすると中から『どうぞ』という声が聞こえて来た。

「……おはよう、東九条君」

「おう、おはよ。熱は?」

「三十七度二分。だいぶ良くなったわ」

「そっか。そりゃ良かった」

 朝は三十八度超えてたし、だいぶ良くなったか?

「そうね。これも貴方のおかげね。ありがとう」

「いや、俺がしたのはおかゆ作って食わしただけだぞ?」

「正直に言うと朝は本当にしんどくて……私だけだったら、ご飯作らずに寝てるだけだったと思うもの。ぼーっとして、目も霞んでいたわ」

「俺がイケメンに見えただろ?」

「三人に見えたわ」

「誰得だよ、それ?」

 こんな冴えない男子高校生が三人に分裂って。

「そうかしら? 喜びそうな人に心当たりはあるけど……ま、良いわ。ともかくお礼は言うわ。本当にありがとう、東九条君。おかげで明日は学校に行けそうよ?」

「そりゃよかった。それで? 昼飯だけど、食えそうか?」

 返事は無かった。


「――っ! こ、これは! せ、生理現象なの! し、仕方ないでしょ!」


 返事の代わり、可愛らしい音が桐生のお腹から聞こえて来たから。

「くっく……しょ、食欲のあるのは良い事だな」

「だ、だから! 笑うな! 仕方ないの! これは……し、仕方ないの!」

「ははは! すまんすまん。それじゃ、何が喰いたいよ? あんまり重たいものはアレだけど」

 真っ赤な顔でこちらを睨みつける桐生。だが、それも数瞬、諦めた様にため息を吐いた。

「……もう良いわよ。それで、食べたいもの? 食べたいものかぁ……」

 悩むように顎に人差し指を当てて中空を睨む。と、なにかに思い至った様にぱーっと顔を綻ばせた。

「そうだ! 昔から食べたかったのよ! ほら! 魔法使いの女の子が宅配便屋さんする話に出て来る、アレ!」

「あれ?」

「ミルク粥!」

「……ああ」

 アレか。

「っていうかお前、ああいうのも見るの?」

「基本好きよ、あそこの作品。もっとも、原作から入ってのパターンだけど」

 原作、あるんだな。知らんかった。

「私、一度風邪引いたら食べてみたいと思ってたの! ねえ、作れない?」

「そりゃ作れるけど……」

 調理自体は簡単だし、材料もある。あるが……

「風邪の時に乳製品はあんまり良く無いんだがな」

「そうなの?」

「お腹、弱ってるかも知れないだろ?」

「うー……そうなのか……折角のあこがれの一品なのに……」

 残念そうにしょんぼりする桐生。なんだかその姿は心にクルものがある。

「……まあ、大丈夫か」

「え?」

「此処まで元気なら大丈夫だろ。ミルク控えめにするけど良いか?」

「ホント!? うん! 大丈夫!」

 全身で喜びを表現するように万歳をする桐生。そんな桐生に苦笑を浮かべ、俺は桐生の部屋を後にし、キッチンに戻る。冷蔵庫から材料を取り出し、調理開始!

「出来たぞ~」

「わー! 美味しそう!」

 調理する事しばし、完成したミルク粥を持って桐生の元へ。目をキラキラさせた桐生に苦笑を一つ、俺はミルク粥の入った皿を差し出した。

「熱いから良く冷まして食べろよ?」

「うん!」

「なんなら『あーん』してやろうか?」

「魅力的なお誘いね? でも遠慮しておくわ。今より熱があった朝は自分で食べれたのに、熱が下がった今『あーん』してもらう必要が無いもの」

「そうかい」

 これだけ喋れて冗談も言えるならもう大丈夫だろ。

「んー!! 美味しい!」

「美味いか? そりゃ良かった」

「うん! とっても! 東九条君、本当に料理上手ね?」

「別に料理上手ってワケじゃねーよ。作れるのってこんなもんぐらいだし」

「そうなの? でも、普通はミルク粥なんて作らないんじゃない?」

「茜――ああ、妹な? 妹は小さいころ体弱かったし、すぐ熱出してたんだよ。両親忙しかったし、看病は俺の仕事なの」

 まあ、一個しか違わないから看病と言ってもたかが知れているが。

「その時、あいつも言ってたからな。『ミルク粥たべたーい』って」

「……幼いころの話よね? え? 私、幼子と一緒?」

「心配するな。あいつは今でも熱出したら言うから」

 消化に悪いから止めとけと言うんだが……どうしても譲らない。あれ? もしかして『ミルク粥』は妹の味とか言い出すんじゃねーだろうな?

「……ちなみにミルク粥作った事は内緒な?」

「? なんで?」

「主に、俺の平和の為に」

 麻婆豆腐イタリアンの悪夢再び。そう思って口に出した俺の言葉に首を捻りながら、それでも桐生は頷いてくれた。良かった。俺の平和は守られた。

「……ふう。ご馳走様。美味しかった!」

「お粗末様でした」

「なにがお粗末なものですか。素晴らしい料理だったわ!」

 そりゃ良かったよ。

「それじゃ、後は薬を飲んでもうちょっと寝ろ。そうすりゃ明日にはピンピンしてるさ」

「……」

「なんだ? あ、アレか? もう寝れないってか?」

「うー……まあ。寝すぎなくらい、寝たから」

「そうは言っても、寝ないと治らんぞ?」

 風邪を治す一番の薬は睡眠だし。

「わ、分かってるわよ! だから、寝るんだけど……そ、その、ちょっと寂しいし……」

 もごもごとそう言って、桐生は布団に潜り込む。こんもりと膨らんだ山がそこに出来上がった。なに? 某落ち物ゲームのコスプレ?

「……その、ね?」

 布団から目だけを出し、こちらを上目遣いで見やる。



「……眠るまで……手、繋いでくれない?」



 片付けもあるし、掃除も途中っちゃ途中だ。やる事は結構あるんだが。


「……仕方ねーな」


 おい、桐生。そんな嬉しそうな顔するな。俺の理性、しっかり仕事しろよ!


『面白い!』『面白そう!』『続きが気になる!』『っていうか続きはよ』と思って頂ければ評価などを何卒お願いします。

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