えくすとら! その百七十六 一生ゲーム、開幕! ……しない!!
一生ゲーム。
このゲームは所謂ボードゲーム、すごろく系のゲームになる。いや、名前聞いた時点で大体お察しではあるだろうが、まあそういうゲームである。ゲームであるのだが。
「……自由度、高過ぎない?」
「曰く、『一生遊べるゲームを目指して作りました!』との事です。だから、『一生ゲーム』と」
「いや、それは完全に後付けじゃね?」
明美の返答に胡乱な答えを返しながら、俺は説明書に――ちょっと、色んな意味でヤバめの説明書に目を通す。
「……結局、どうしたらクリアになんだよ、このゲーム?」
卓上に置かれた一生ゲームの盤面に目を落とす。そこには『∞』みたいなマスが二重、三重、四重……と、目が痛くなるほど描かれた盤面があった。ゴール何処よ、これ?
「説明書によると、ゴールは自分自身で設定して良い事になっています。一応、目安としては百週……一週一年なので百週すればゴールとなります。十五週以降は同じマスを何度回っても良い仕様になっていますし。人生百年時代ですしね」
「……なんで十五週?」
「義務教育が終わるでしょう、十五で。その後は進学マス、就職マス、好きなマスに行けば良いらしいですね。目当ての高校に行けなかった場合、浪人も可能という事ですね」
「……そうかい」
まあ、何も言うまい。
「……それじゃ、さっそくゲーム始めるか。えっと……今回はこの『カップル仕様』ってやつ、使えば良いのか?」
このゲーム、止まったマスには『指定されたカードの種類の中の、上から何枚目を引け』みたいな文言が書かれており、その文言に従って捲ったカードを使いながらゲームを進める流れになっている。当然、俺たちはカップル仕様のカードを使うのだが。
「……ええ。あなた方はそれを使って下さい。私はこの『おひとり様仕様』のカードを使いますので」
……厳正なじゃんけんの結果、ペア分けは智美&瑞穂のバスケ部ペアと、桐生&涼子の自炊頑張るペアに分かれた。厳正なじゃんけんの結果で仕方ないのは仕方ないんだろうが……
「……なんか私の未来を暗示しているようで若干不気味なんですが……」
……うん、なんか明美がどよんとしてる。そんな明美に、瑞穂がほっぺを膨らませながら口を開いた。
「明美ちゃん、何不吉な事言ってるんですか! 私なんて智美先輩ですよ? これ、絶対尻にしかれる未来しか見えないんですけど! それなら独り身の方がまだましです! 絶対、智美先輩家事とか手伝ってくれ無さそうだし!」
「なにをー! 瑞穂、アンタなに偉そうな口叩いてんのよ! アンタだって家事レベルは似たようなもんでしょうが! あーあ! 『主婦は大変なんです!』とか言って、買って来たお惣菜を食卓に並べる様な未来しか見えないね!」
瑞穂の言葉に反応した智美がギン、と擬音が付きそうな視線を瑞穂に向ける。お前ら、喧嘩するなよ?
「私たちは平和に行こうね~、彩音ちゃん?」
「ええ、そうね。涼子さん。仲良く過ごしていきましょう?」
「そうだね~」
そう言って二人で笑いながらイベントカードをチラチラ見る二人。うん、こっちは仲良さそうでなによ――
「……あら? 『自宅購入イベント』なんてあるのね?」
「ほんとだ! あ、しかもこれ、買う物件や場所まで選べるんだ~。ええっと……ああ、ゲーム終了後は買った物件、固定資産として資産計上されて順位に加点されるらしいよ?」
「なんというか、無駄に凝っているというか……でも、良いわね。それじゃやっぱり一軒家かしら? 海沿いとかどうかしら?」
「……え?」
「……え?」
「い、いやいや彩音ちゃん! 海沿いの物件はやめておこうよ? だって潮風とか浴びると痛みが早くなるし……それに! 私、ちょっと明美ちゃんとか彩音ちゃんのおうち、あこがれてたんだ! やっぱり高層マンションじゃない? 資産価値も下がりにくそうだし!」
「い、いえ、涼子さん? やっぱり一軒家じゃないかしら? 人間、誰しも地に足を付いた生活を送りたいでしょう? それに、海沿いの物件なんて素敵じゃない? 毎日がオーシャンビューよ? ロマンチックじゃない!」
「い、いやいや彩音ちゃん? オーシャンビューなんて三日もすれば飽きるって! 此処はやっぱり、大都会の夜景を見下ろす様な高層マンションが良いんじゃないかな?」
「や、夜景なんて見ようと思えば何時でも見れるじゃない! 此処はやっぱり海よ! 母なる海よ!!」
「そりゃ、彩音ちゃんは見慣れているかもしれないけどさ! 此処はやっぱり、人間の営みを感じる事の出来る夜景でしょ!」
「……」
「……」
「……ふう。まあ、それは追々考えましょう? ペアと言っても個人資産も関係あることだし……どうかしら? どちらがより、ペアに貢献しているかで決めるのは?」
「……いい考えだね、彩音ちゃん。そうしよう」
「……ふふ」
「…………ふふふ」
「「………………ふふふふふふふふふ!!」」
……怖いんだけど。あかん、あそこはあそこで混ぜたらあかんペアだ。どっちも意外――でもなんでも無いが、我が強いし、結構頑固だしな。
「……お前らは喧嘩、するなよ?」
藤田・有森ペア、北大路・西島ペアをみるとそんな俺の言葉を聞いて、藤田が肩を竦めて見せる。
「ゲームだろ、これ。むしろあいつら、なんであそこまでマジになれんだよ?」
「……子供なんだろ、両方」
「……ま、いいけどよ。取り合えず俺らが喧嘩することはねーよ。な、有森?」
「はい! 藤田先輩の後ろを常に三歩下がってついていく立派なお嫁さんになります!!」
「……いや、そういう意味じゃないんだけど……」
張り切って右手を挙げる有森に、藤田が肩を落とす。そのまま視線を西島に移すと、西島は呆れた様にため息を吐く。
「藤田先輩じゃないけど……ま、楽しくやりますよ。ね、北大路君!」
「せやな! 喧嘩せんと仲良くやってこ!!」
「おー!」
二人でにこやかに笑いながらパンっとハイタッチを決める二人。うん、このペアは大丈夫そうだ。さて、残り一組は……
「……ねえ、秀明? 自宅購入イベントだって? 何処がいい? 海沿い? 山の近く? 一軒家? 高層マンション?」
「何処でも良いぞ。茜が好きな所で」
「ぶぅ! 二人で住む家だよ? 秀明もまじめに考えてよ!!」
「あー……んじゃ、職場から近い所が良い」
「そういうんじゃないんだって!! もっとあるじゃん!! こう、ロマンチックな所が良いとかさ~!! なによ! 秀明はどうでも良いの?」
「あー……ま、どうでも良いっちゃどうでも良いかも?」
「は? な、なによ!! まさかアンタ、ゲームだからどうでも良いって言うの? それとも、ま、まさか私のこと、もう捨てるつもり――」
「何処に住んでも茜と一緒だろ? なら……ま、それだけで十分だし……茜が喜んだ顔してくれるんだったら、茜の良い所に住んだ方が俺も幸せっていうか……そんな感じだ」
「――好き! 秀明、大好きっ!!」
「ちょ、バカ! 人前で抱き着くな! は、恥ずかしいだろ!!」
「やだー! 私、愛されてる!!」
「……愛してるに決まってんだろうが」
「――っ! ~~~っ!!?? ひーでーあーきー!! 好き!!」
……うん、あそこは放っておこう。幸せそうでなによりだ。




