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えくすとら! その百七十五 開けてはいけない、扉


「「「「「………………」」」」」

「は、ははは~」

 桐生、涼子、智美、明美、それに瑞穂からのじとーっとした視線を受け、若干気まずそうに頬を掻く藤原。いや、まあ……うん。

「……それじゃゲーム、始めるか?」

「ちょっと!?」

 何時までもこの空気は耐えられない。そう思って視線を逸らした俺に、慌てた様に明美が声を上げた。

「……なんだよ?」

「なんだよ? ではありませんよ、浩之さん!! やり直し!! やり直しを要求します!! こんなの、あんまりですよ!!」

 うがーっと俺に言い募る明美。そんな明美に、俺は小さくため息を吐いてジト目を向ける。

「……なんでだよ? 一回勝負だろ、こんなもん。ほれ、お前らはお前らでさっさとペアを決めろよ? 皆、待ってるぞ?」

「ちょ、ちょっと待ってよヒロ!! 理沙は無いでしょ、理沙は!! 理沙? 理沙だって別にヒロとペアじゃなくて良いよね!! ちょっと、私と変わって貰えない!? 週明けの練習、厳しくない方が良いよね!?」

「ひぅ!?」

「……おい、智美。それはダメだ。強権発動するな」

「で、でも、浩之ちゃん? わ、私もちょっと納得行かないんだけど? ねえ、理沙ちゃん? お願い! 本当にもう一回、チャンスくれない? レシピ――は理沙ちゃん、そんなに料理しないよね? それじゃホラ! 今度お弁当に好きな料理、作ってくるからさ!」

「買収もするな、涼子。とにかく決まりだ、決まり。ほれ、さっさと他のペア決めろ」

 三人の声を一蹴する俺に、なおも不満そうにぎゃーぎゃー騒ぐ三人。と、そんな三人の後ろから手が上がった。瑞穂だ。

「なんだ、瑞穂?」

「いや……まあ、正直私もあんまり納得いってないんですけど……でも、なんて言うんでしょうかね? 浩之先輩、なんか受け入れている気がするんですが……あ、いや、勝負で決まったんでそれが正しいんでしょうが……なんでしょう? 浩之先輩……も、もしかして、理沙とペアが良いとか……い、言いませんよね?」

 ……何言ってんだ、お前? 藤原とのペアが良いかって? んなもん――



「考え得る限り、最高のペアだろうが」




「「「「「………………あん?」」」」」



五対、十個の瞳が絶対零度の視線を向けてくる。『ひゅっ!』ってなった!! 何処とは言わないけど『ひゅっ!』ってなった!!

「ひ、東九条――ひ、浩之? え? か、考え得る限り最高? え? え? ひ、浩之、もう、私に飽きちゃったの? り、理沙さんに乗り換えちゃうの? そ、そんなのイヤ!! き、嫌われない様にするから……す、捨てないで……」

 俺の袖をぎゅっと握って涙目でこちらを見つめる桐生。へ?

「す、捨てる? いや――っ!! ち、違う!! 誤解だ、誤解!!」

 桐生の視線でさっきの発言が不味かった事を悟る。いや、違う! すまん、言葉が足りなかった!!

「別に桐生に――彩音に飽きたとか、そういう事じゃねーよ! そりゃ、俺だってお前とペアが良いよ! でもな!!」

 ……良く考えてみて欲しい。藤原が抜けた後は五人でのじゃんけん合戦になるのだ。それはつまり、桐生の勝つ確率は――まあ、桐生が滅茶苦茶じゃんけんに強いとかじゃない限り、五分の一、二十パーセントしかねーって事だろ? つうことはお前、高い確率で桐生以外の誰かとペアになるって訳だ。

「……それを考えたらホラ……その、なんていうの? 藤原は……あー……その、『そういう』のじゃないだろ?」

 誰と組んでも揉める未来しか見えん。そう考えれば藤原は……

「なら、他の誰かと組むよりは藤原と組む方が……そうだな、最高って言い方が悪かったか。ベターだ、ベター。最良だよ」

 ベストじゃなくてベターね? ベストは桐生と組むことだ――いや、待てよ?

「……俺とお前が組んだら、なんか他の面々にやんのやんの言われそうでそれはそれで面倒くさい気がしないか?」

「……確かに」

 俺の言葉に納得いったのか、涙目になった目を拭く桐生。そう言ってにっこり笑ってこつん、と俺の腕に頭を引っ付ける。

「……心配、したじゃない」

「心配するなよ。つうか、そこまで軽いと思われているのか、俺?」

「そ、そうじゃないけど……でも、理沙さんも可愛らしいじゃない? この機会に、浩之に――って考えると……不安になっちゃった」

「……心配するな。俺には」


 お前しか、いないから。


「……うん。信用、してるよ?」

「ああ、そこは信用しろ」

「……うん!!」

 そう言って、桐生は俺の腕から顔を上げてにっこりと――


「「「「――なに、いい雰囲気を出してやがる」」」」


 さっきは視線、今度は声。絶対零度再びに震えあがる。お、お前ら! マジで怖いから!! っていうか明美さん!? 目のハイライトが仕事、放棄してませんか!?

「……というか……浩之さん、私たちと組むのがそんなにお嫌ですか? そこまで拒否されると流石に傷つくのですが……そこまで言われると、私にも考えがあるのですが……」

 そう言って相変わらずハイライト消したままでこちらににっこりと微笑む明美。だから、怖いって!!

「……お前らの事を蔑ろにするつもりはねーし、だからこそじゃんけんで決まったんなら受け入れようとは思っていたんだよ」

 俺だって空気くらいは読むし。

「じゃあ!」

「だから、じゃんけんで一遍決まったんだから諦めろ。言っておくけど、最初から『絶対にイヤ』ってごねても良かったんだぞ? そうしないだけ、大人だと思ってくれ」

「……ううう!」

 いやいやと首を左右に振る明美。そんな明美の肩に涼子がポンと手を置いた。

「……ま、確かに今回は浩之ちゃんの言う通りだね。理沙ちゃんも参加した以上、結果は結果だよ」

「で、ですが! 藤原さんは……」

「ま、理沙ちゃんは多分浩之ちゃんとのペアなんてどうでもいいだろうけど……でも、勝負は勝負だしね?」

 優しく微笑む涼子に、明美も諦めたのか肩を落とす。そんな明美の姿に、これ以上は抵抗も無駄と諦めたか、智美も小さくため息を吐いた。

「……はぁ。仕方ないか~。じゃあ、私らでペア決める? っていうか明美? これ、私らでペア決める意味あんの? 男女ペアとかじゃないの、普通?」

「……昨今の情勢を反映しておりますので、同性同士のパートナーでも楽しめる仕様になっておりますよ。ですのでまあ……とりあえず、ペア決めをしましょうか。皆様をお待たせするのもなんですし……はぁ……」

 見てて可哀そうになるほど肩を落とす明美。なんとなく、申し訳なさもあるのだが……と、そうだ。

「……なんかすまんな、藤原?」

「はい? すまん? 何がです?」

「いや……俺なんかのペアになったのに、こう、なんていうか……ベター、みたいな……」

 ……正直、藤原がペアは俺にとって『都合が良い』のだ。藤原自身、別に譲っても良いのだろうが……なんというか、俺が屁理屈こねて藤原とのペアを続行したみたいで。

「……ああ、そういう事ですか。気にしないでください。東九条先輩の言ってる事も分かりますし……まあ、勝負に参加したのも私ですしね~」

 そう言ってにっこり笑う藤原。

「ですので、気にしないでください。それに……なんというか、これはこれでアリかな、と」

「アリ?」

「ああ、別に東九条先輩の事、いいな~って思った訳じゃないですよ? 訳じゃないですけど?」

 そう言って、少しだけ頬を赤く染めて。



「――さっきの彩音先輩、可愛かったですね~。私、今まで理解は出来なかったんですけど……いや、正直、たまりません! これが……ああ! これが、ネト――」



「理沙~? ちょっとお口、閉じようね~?」

「そうよ、理沙さん? ちょっとお口にチャックしましょうか?」

 後ろから羽交い絞めするように瑞穂は藤原の口を塞ぎ、桐生が俺と藤原の間に体を滑り込ませる。な、なんだ?


「……ったく。理沙? これ以上変な扉、開けないでくれる?」

「そ、そうよ! 別に理沙さんのせ、せ……へきを否定はしないけど! 流石にこれはダメじゃないかしら!」

「いや~、すみません、二人とも。私、別に興味は全然なかったですし、流石にリアルではちょっとなんですけど……これ、ゲームのペアの話じゃないですか? そう考えたら……なんだかさっきの彩音さんの表情見ているとゾクゾクしまして! いや、ごちそうさまです!!」

「……なんなの、この子」

「……もしかして理沙さんが一番、キャラが濃いのではないかしら?」


 三人でこそこそ喋る姿に、俺は首を傾げた。え? な、何の話?



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