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えくすとら! その百七十二 バカップル

過日、本作の二巻が発売されましたが、皆様の暖かいご支援のお陰で三巻、発売できる運びになりました。本当に有り難うございます!!


 涼子お手製カレー&後輩ズのサラダがテーブルに運ばれ、両手を合わせて頂きますをして、いざ実食だ。

「……うめぇ……」

 まあ、出てきた時から約束された勝利ではあったのだが……やっぱり涼子のカレーはマジで美味い。俺同様、うんうんと頷く秀明の隣で藤田と北大路が目を丸くしている。うん、分かる。初回の感動はそうだろうよ。

「……なんやねん、これ!? え、ほんまに旨い!!」

「……だな。こないだ賀茂のカレーご馳走になったからある程度予想してたけど……ガチの賀茂のカレーってこんな美味いんだな」

 涼子のカレーはスパイスふんだんに使った所謂『インドカレー』みたいなカレーではない。本当に素朴な、なんというか『ご家庭で味わうカレー』みたいな感じのカレーだ。これ、何が凄いってスパイスからカレー作っているはずなのに、カレールーで作ったみたいな味出すんだよな~。

「俺も一遍、涼子にスパイス聞いて作ってみた事あるけど、味が完全に『インドカレー屋さん』で食べるインドカレーなんだよな。別に不味い訳じゃねーんだけど……」

「まあ、日本のカレールーは日本人の舌に合う様に作られてるって聞いた事あるもんな。インドカレーは好き嫌いあるかも知れん」

「だからまあ、俺的には『お家のカレー』っぽい涼子のカレーが一番美味いと思ってる。普通のルーみたいな味なのに、スパイスから作ってるから深みが違うっつうか……辛さの中にも甘みがあるというか……上手くは言えんが」

「だな。まあ、美味いのは美味いで良いだろ。んで、賀茂? これってレシピとか……」

「それは企業秘密だよ、藤田君?」

 藤田の言葉ににっこり笑って両手をバッテンにして見せる涼子。だよな~。

「かたくなにレシピ教えてくれねーもんな、涼子」

「そりゃそうだよ。カレー……というか、家事は私のアドバンテージだしね。こればっかりは浩之ちゃんにも教えてあげないよ? 私の価値、無くなっちゃうじゃん」

「いや、別にお前の価値がなくなる訳じゃ……」

「冗談だよ。でも、折角なら好きな人には美味しいご飯を自分で作って振舞いたいからさ? その為にレシピは秘匿しておくのです」

 そういって再びにっこり。その笑顔に降参の意味を示して両手を挙げる。と、涼子の隣に座っていた有森が『ハイハーイ!』とばかりに手を挙げた。

「藤田先輩!! これ! このサラダ、私が作りました!! ぜひ、食べてみてください!! お願いします!!」

 そう言って挙げてた手を降ろすとそのままボウルに入ったサラダをずいっと藤田に向けて見せる。そんな有森に『お、おぅ』と若干引きつつ、ボウルの中からサラダを取り分けて自身の皿に移した。まあ、流石にあれだけぐいぐい来られるとそら、引くわな。

「……ん、美味い。このドレッシングって、手作りか?」

「はい! 手作りです!!」

「すげーじゃねえか、有森! 成長してるな!! 手作りで作れるなん――」

「……瑞穂のですけど」

「――……」

「そうです! リハビリだったら体もあんまり動かさないですし、料理の勉強したんです!! さあ、浩之先輩!! 食べてみてください!!」

 いつの間にか俺の隣に来た瑞穂がキラキラした顔でそう言って差し出したサラダを皿で受けて口に運ぶ。ふむ……

「……ん、美味い。若干酸味が効いててカレーにも合うんじゃねーか?」

「でしょ!!」

「ああ。いや、びっくりした。料理は智美並みだったお前が此処まで出来るとは……」

 俺の言葉に『えへへ~』と嬉しそうに笑う瑞穂。と、ちらりと視線の端に映ったのはちょっとしょんぼりした有森と、あわあわしている藤田の姿だった。

「い、いや! でもさ? この野菜の切り方とか上手だぞ!」

「…………それは理沙が」

「……ゆ、ゆでたまご! ゆでたまごの茹で加減とか完璧じゃん!! 俺、半熟よりも堅めの方が好きだしさ!!」

「………………それは西島さんです」

「……」

「……」

「……有森、何したの?」

「…………盛り付けです」

「…………りょ、料理は見た目も大事なんだよ! な、浩之!」

「……俺に振るなよ」

 ……っていうか、盛り付けしただけでアレだけ自信満々に『サラダ、作りました!!』と言うとは……いや、確かに料理は盛り付けも重要な要素ではあるのだが。

「あ、あはは~。雫ちゃんにもちょっとは良い所見させて上げようと思ったんだけど……これ、やっぱり私の監修が必要だったかな?」

 心持申し訳無さそうな涼子に肩を竦めて見せる。

「ま、いいんじゃねえか? どうせ藤田が上手くフォローするだろ」

 凹んでいる有森に一生懸命話しかける藤田の姿を見ながら、俺はそんな事を思いながらカレーを口に運ぼうと――あれ?

「……スプーンは?」

 手元に置いておいたハズのスプーンが無い? あれ? 何処に置いて――


「――ひ、東九条君? そ、その……あ、あーん」


 ――聞こえてきた方向に視線を向けると、そこには若干頬を染めてこちらにスプーンを差し出す桐生の姿があった。えっと……え?

「……何してんの?」

「な、何してんのって……あ、『あーん』よ! お、男の子は嬉しいんでしょ、『あーん』!!」

 いや、別に嫌いじゃないけど……

「な、何よ! 良いじゃない!! 私たち、恋人なのよ!?」

「そうだが……若干、恥ずかしいというか……」

 嬉しいよ? 嬉しいけど、流石にこれだけみんなが見ている中で『あーん』はちょっと。

「だ、だって! 涼子さんのカレーを美味しいって褒めて、瑞穂さんのドレッシングも褒めるんだもん!」

「……桐生」

「貴方は私の恋人なのよ!! だから、私が一番じゃないと――」


 最後まで、言わせない。


「……ん。美味い」

 スプーンからカレーを食べて微笑みかける。

「……ごめんな? 不安にさせたか?」

「ふ、不安じゃ……で、でも、皆貴方に褒められて羨ましかったから……い、今から料理なんかできないし、せめて『あーん』くらいは……」

「……うん、美味しかった」

「……涼子さんのカレーが?」

「桐生が『あーん』してくれたから、だな」

「……ばかぁ」

 擽ったそうにそう笑う桐生。俺はその頭を優しく撫で――



「――イチャイチャは他所でやって貰えませんかね? 食事中なのですけど?」



 ……物凄い怖い顔で明美に睨まれた。やべ、忘れてた、みんなの存在。


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