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えくすとら! その百七十一 男は黙って……


「……なんだったんだよ、あの時間」

「役得でしょう、浩之さん? 美少女達のあんな艶やかな姿が見られたのですから」

「何が役得だよ、何が」

 一通り、ドレスやらメイド服やら女教師やらのお目見えが終わった女性陣により俺らは一旦、俺の家に帰らせられた。え? なんでって? んなもん『借り物ですし、今日はカレーですので。汚しても行けませんから、家に帰って着替えて来てくださいますか?』とか言われたからだよ! ちなみに智美は『こ、こんな格好で皆の前に出るの、無理!』と言って明美の寝室から出てこなかった。いや、マジで俺ら、何やってたんだろ?

「まあ、鼻の下を伸ばす浩之さんも見られましたし……残念でしたね、智美さん? 折角可愛らしいお姿でしたのに」

「あ、あんな恰好でヒロの前に出られる訳ないでしょ! っていうか貴方たち、なんでノリノリであんな恰好出来るのよ!? 頭、おっかしいんじゃないの!?」

 うん、智美、その意見には全面的に賛成だ。頭おかしいんじゃねえの、こいつら? つうか明美。

「えー。でも、ちょっとおもしろかったよ、智美ちゃん? ね、明美ちゃん!」

「ええ、そうです。それなのに智美さんは……不甲斐ない。むしろ、こういう事に一番ノリノリでやりそうなイメージがあるのに……彩音様もノリノリだったと言うのに……」

「明美様!? わ、私は違うわよ! あ、明美様が、ひ、東九条君が喜んでくれるって言うから……」

「でも、最終的にやったではないですか」

「……あう」

 顔を真っ赤にして視線を下げる桐生。うん、あんまいじめてやんな。コイツ、意外にノリが良いしな。

「……もういい。それで? カレーは?」

「後はご飯よそってカレー掛けるだけだからね~。折角だからサラダくらいは後輩ズにお任せしようかな~って。まあ、浩之ちゃんたちは座っててよ。私たちもゆっくりさせて貰おうかな~って」

 涼子のセリフに頷いて俺はリビングに置かれた大き目なテーブルの前に腰を下ろす。遠慮がちにその隣に腰を下ろした藤田が俺の顔を覗き込んで片手を口元にあてる。なんだよ?

「その……良いのか? 俺、手伝おうか?」

「良いだろ、別に。な、涼子?」

「うん。いいよ~」

「その……涼子さん? 先輩ズが座ってゆっくりして貰うってのは分かるんですけど、そしたら俺と北大路は行かなくていいんっすかね? 俺らも括り的には『後輩』ですし」

「そ、そうですよ! その、俺も料理とかしたことあらへんですけど、サラダなら、その……や、野菜をちぎるくらいは出来るか思いますけど……」

 後輩女子が料理をしている中、自分たちだけが座っているのが居心地が悪いのかなんとなくそわそわしながら、秀明と北大路が所在なさげに立ち上がる。この辺りは流石体育会系と言うべきか、一番下っ端の自分たちが座っているのが心苦しいんだろうな~なんて見ていると、涼子が大きくため息を吐いた。

「……ダメだ、この男の子たち」

「だ、ダメ?」

「ダメって……何が駄目なんですか、涼子さん?」

「そうだぞ、賀茂。カレー任せっきりでいうセリフじゃねーだろうがサラダくらいは……」

 三者三様の声に、涼子がもう一度大きくため息を吐いた。

「……はぁ。あのね、三人とも? 私だって別に料理男子を批判するつもりは無いんだけどさ? ほら、料理って言えば『女の子』の仕事! みたいな所ない?」

「お、女の子仕事? いや……」

「そ、そりゃ……」

「ま、まあ……」

「特に藤田君? 雫ちゃん、言ってたよ? 『藤田先輩のお弁当、本当に美味しいし、最近は栄養管理とかも気を使ってくれているんですよね? それは凄く嬉しいんですけど……彼氏より女子力低い彼女ってどう思います!? 涼子先輩!! お願いですから私に料理を教えて下さい!!』って」

「うっ……で、でもな、賀茂? 俺は別に気にしな――」

「馬鹿なの、藤田君? 藤田君の話をしている訳じゃないの。今は雫ちゃんがへこんでいるって話をしているの!」

「う……」

「秀明君もそうだよ? 茜ちゃん、『秀明はいつも優しくしてくれているし、時間付けて逢いに来てくれるんだ! 感謝の気持ちを込めて、秀明に手料理とか振舞ったら喜んでくれるかな……?』って」

「そ、それは……」

「秀明君だって憧れ、あるでしょ? 可愛い彼女の手作り料理なんて、男の子にしたら最高のご馳走じゃないの?」

「……ええっと……はい、その……まあ、嬉しいのは嬉しいです」

「でしょ? それで……北大路君、だっけ?」

「あ、はい! は、初めまして。北大路言います!」

「うん、はじめまして~。まあ、北大路君の事は二人ほど知らないから何とも言えないけど……今の会話で大体分かったよね? この二人、絶対キッチンいかないよ?」

「……」

「そんな中で男の一人、キッチン行く? 行くなら別に止めないけど……気まずいんじゃない? 知らない人ばっかじゃないの?」

「……おとなしく座っておきます」

「はい、よろしい」

 おとなしく席につく三人を見まわし、涼子も満足した様に大きく頷いて視線を俺に向ける。なんだよ?

「ほら、見てみなよ、浩之ちゃんを。女の子に料理させて、しかもそれを別の女の子の家で食べようとしているのに、まるで家主みたいに堂々と座っているでしょ?」

 おい!

「マテ。その言い方には悪意しか感じないんだが?」

「男の子はそれぐらい堂々としておけばいいんだよ。藤田君たちのその人に気を使える……っていうとちょっと語弊があるけど、まあそういう所は素敵だと思うけどさ? 魅力的かって言うと私個人としてはちょっとどうかな~って思うよ?」

 涼子の言葉に隣に座っていた明美も頷く。

「そうですね。涼子さんの言う通り、殿方は堂々と座っておけば宜しいのです。普段はだらしないくらいで、何か事が起きた時に頼りがいがあれば」

 いや、その考えは若干昭和ノスタルジーな香りがするんだが……

「ねえ、明美ちゃん! そう思うよね? だからまあ」

 そう思う俺をしり目に、涼子はにっこり笑って。



「――あとは、出てきたサラダに『美味しい!』って言ってあげればいいと思うよ?」



 まあ、メインは私のカレーだけど? と言いながら俺に流し目を送る涼子に降参の意を示すように俺は両手を上げた。涼子のカレーだぞ? 美味いって言うに決まってんだろ?



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