えくすとら! その百六十八 なかなかいい趣味をしてらっしゃる。
有森の言葉に、藤田、秀明、北大路が微妙そうな表情でこちらを見てくる。ちゃ、ちゃう! ちゃうねん!!
「……浩之……お前……」
「ま、待て、藤田!! 流石にそんな変な趣味はない! と、というかだな! 俺はそもそもそんな変な本、持ってないぞ! お前と一緒にするな、藤田!」
そ、そうだよ! うん、俺は別にそんな本とか持ってないし! だ、大体だな? 俺らまだ、高校生な訳じゃん? 年齢制限で買えないよね、うん!
「……無理があるんじゃねーか、それ?」
「む、無理じゃなくてマジでない――」
「あ、ちなみに情報源は涼子先輩です!」
「――!! 涼子ぉーーーー!!」
アレか!? あいつ、実家の俺の部屋掃除してたりしたからか!
「『浩之ちゃんも男の子だしね~。別に気にしては無いけど……隠し場所、ちょっと甘いかな~』だそうです」
「マジで!? 俺、結構頑張って隠したつもりなのに!?」
幼馴染、怖すぎるだろ!? ベッドの下とか、本棚の裏とか安直な場所じゃないのにぃ!?
「……どこに隠してたんだ、浩之?」
「……言えるか。だが、ちょっとやそっとじゃ見つからない場所だとだけ言っておこう。正直、見ようと思っても中々見れない場所に隠した」
「……それ、本末転倒じゃね? 隠すことに必死になってないか?」
いいんだよ! っていうか、俺のお宝本の話はともかく!
「……そ、それで……桐生がその恰好をしている、と?」
「はい!」
「……えー……」
……どれだろう? いや、そんな変なのは無いはずだが……
「……不味い感じか?」
「……分からん。分からんが……」
藤田、秀明、北大路の三人を見やる。
「……お前ら、留守番しててくんね?」
どんな格好か分からんが……少なくとも、なんだろう? そういう『色っぽい』桐生を誰かに見せるのはちょっと抵抗があるんですが。
「……はぁ」
頭を抱える俺に藤田がため息を一つ。
「……まあ気持ちは分からんでも無いが……おい、有森? 流石に桐生もそんな無茶苦茶な恰好をしている訳じゃねーんだろう? 極端に露出が多いとか」
「そうですね。露出自体はそうでもないんですけど……ほら、彩音先輩って美人さんですから。無茶苦茶似合ってます! 綺麗で、可愛くて……」
ほぅ、と艶めかしい吐息を漏らす有森。いや……なんかマジで行きたく無いんですけど? いや、行きたいのは行きたいよ? どんなコスプレしてるのかは知らんけど、そこまで言われる桐生を見てみたい気はするんだよ? でもな~……こいつらも見るんだよな~……
「ま、それなら大丈夫だろ。秀明、北大路? 浩之が嫉妬の鬼になるからあんまり桐生の方、見るなよ?」
「だ、大丈夫です! なるだけ見んようにします!」
「よし。秀明? お前も大丈夫か?」
「……俺も大丈夫です。というか……茜が居るのに桐生先輩の方を見てたら……」
「見てたら?」
藤田の言葉に、秀明が神妙な面持ちで。
「……正直俺の命が危ないんで……そういう意味でも絶対に見ません、桐生先輩のこと」
「ははは! 命が危ないって! 流石に大げさだろ。浩之の妹ちゃん、可愛らしい子だったじゃないか。だから――」
「……」
「……」
「……」
「……え? なんで三人とも、俺から目を逸らすの? あ、有森? お前、中学校一緒だったよな?」
「……茜の中学時代のあだ名、『狂犬』なんですよ、藤田先輩」
「……あれ、マジな話だったんだ」
何とも言えない顔でこっちを見る藤田に肩を落として見せる。
「まあ、ともかく行きましょうよ皆さん! 涼子先輩も待ってますし、私もお腹空きました! 東九条先輩も心配せずに、可愛い彩音先輩を堪能してください!」
藤田の手を引きながらそんな事を言う有森。その姿にもう一度深く、深くため息を吐いて俺は二人の後に続く。
「行くぞ、秀明、北大路」
「はい」
「はい……ええっと、浩之さん? 俺、桐生さんの事なるだけ見んようにしますさかい、そんなに気になされず言うか……」
「……ありがとよ」
まあ、自分でも器の小さい話だなとは思うんだがな? でもなんか嫌なんだよ、自分の彼女がそういう目で見られるのは。
「それじゃ東九条先輩、開けて下さい!」
明美の部屋のドアの前に立つと、『どうぞ、どうぞ』と言わんばかりに横にずれドアに向かって手を差し出す有森。
「……分かった」
……さて、鬼が出るか、蛇が出るか……そう思い、俺は明美の部屋のドアを開けて。
「――ち、遅刻よ? 東九条君……そ、そんな悪い子には、先生が『オシオキ』するんだから」
背中まで届く長い髪を、ハーフアップに纏め、トップスは光沢のある白のシャツで胸元がいつもより心持開いている。膝よりも少しだけ高い位置の丈の、タイトな黒のスカートとその黒のスカートの対であろう、こちらもタイトな黒ジャケット。足元は網目の細かいタイプの黒の網タイツをガーターベルトで吊っており、極めつけはアンダーブローの赤いつるの眼鏡を掛けた――
「……さあ、早く……せ、先生が……こ、『個人授業』……し、してあげるから」
――『女教師』姿の桐生さんが、そこにいました。
「……良い趣味してんな~、浩之」
やかましいわ!!




