えくすとら! その百六十七 彼女として、やってはいけないことと、浩之君の巻き込まれ事故
2023年3月、おかげさまを持ちまして第二巻発売決定です!! ありがとう……本当にありがとうございます!!
さて、二巻発売まで随分と間が空いてしまったので、お詫びもかねて中編である『許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい? すぺしゃる!』をアップさせて頂いています。上部の『悪役令嬢許嫁シリーズ』からそちらにも飛べますので、宜しければぜひ……!
玄関先から聞こえてくる藤田の声に俺は慌てて室内を飛び出して玄関に向かう。藤田のあの切羽詰まった様な声、一体何があったのかと不安になり、一刻も早く玄関に向かわなくちゃと――
「……何してんだ、有森?」
ドアを開けて飛び込んで来た光景に俺は目を丸くする。玄関に立って真っ赤に顔を染めた有森がそこに立っていたからだ。え? 立っているぐらい良いだろうって? うん、俺もただ有森が立っているだけだったら何にも言わない。何にも言わないんだけどさ?
「あ、あう……そ、その……こ、これは! あ、明美先輩が! 明美先輩がやれって!! 『絶対、藤田さんも喜びます』って!!」
顔を真っ赤に染めたまま、視線を地面に向ける有森。
「ちょ、藤田先輩!? なんかすごい声が――」
「藤田さん? なんやあったんです――」
藤田の声に驚いたのか、俺の部屋で着替えていた後輩二人も顔を出して、その顔を俺同様に愕然の色に染める。視線は有森に釘付け、秀明がごくっと喉を鳴らし、北大路が大きく目を見開いたままで、ポツリと。
「……なんか……その……物凄い、こう……え、エ……いや、なんでもないです」
……うん、賢明な判断だ。『え』の後に何が続くか、大体分かるけど……有森、完全に泣きそうだもんな。
「――っ!! お、お前ら! 見るな!!」
俺らの視線に気づいたのか、藤田が来ていたジャケットを慌てて有森に着せることによって、有森の姿が俺らの視線から隠れる。
――そう、チャイナドレスを着た、有森の姿が。
……いや……なんだろう? 有森ってバスケ部で適度な運動もしてるし、上背もあるんですらっとした格好が似合うのは似合うんだよ。この間のクラシカルなメイド服姿も似合ってたし。
「……攻めすぎだろう、流石に。藤田の理性が飛ぶぞ?」
……が、今日のはちょっと扇情的というか……側面のスリット、腰の所くらいのマジでギリギリまで上がってたし、ぴちっとした服だからか体のラインがこう、如実に出て……
「有森!? お前、何考えてんだよ!? そんな恰好、俺が喜ぶとか、何考えてんだよ!!」
「で、でも!! 藤田先輩だって常々『有森はスタイルが良いし、体形がしっかり出る服の方が似合うよな』って言ってたじゃないですか!! そ、それに……ちゃ、チャイナ服だって好きじゃないですか!!」
「なにそのデマ情報!? 俺、チャイナ服が好きなんて一言も言ってないんだけど!?」
「か、香織ちゃんから聞きました!! 『今日、漫画借りようと思ってお兄ちゃんの部屋に寄ったんですけど。その時ベッドの下から――」
「それ以上は喋るな!! ち、違うから!! 誤解だ! それは誤解だから!!」
いや……それはもう、誤解は苦しいんじゃないか? にしても……哀れな、藤田。妹爆弾、恐るべし……
「そ、その……べ、別に藤田先輩がそ、そういう本を持っていても怒ったりはしないんです。ふ、藤田先輩も男の子なんだから、仕方ないって思いますし。で、でもですね! そ、それはそれとして、藤田先輩の好みがチャイナドレスなんだったらわ、私だって……そ、その、藤田先輩好みの女の子になりたいって言うか……たまには藤田先輩に恩返しというか……」
赤い顔のまま、それでも上目遣いで見やる視線は逸らさない有森。そんな視線を受けて藤田が『うぐぅ』と喉に何かを詰まらせた様な声を漏らして中空に視線を飛ばす。その間数瞬、やがて何かを悟ったかのような菩薩の様な笑顔を有森に向けた。
「……ありがとうな、有森。その……うん、凄く嬉しいし、有難いよ? でもな? 流石にそんな恰好はどうかと思うんだよな、うん」
「で、でも! そ、その……この格好の方が、藤田先輩が……」
「うん……もう、素直に言うな? 正直、『何やってんだよ!!』とか言いながら『ひゃっふー! 有森、やっぱスタイル良いからめっちゃ似合うじゃん!! なんか扇情的で色気たっぷりだし、俺の彼女マジ最高!!』って思ったよ、うん」
「あ、あう……そ、その……あ、ありがとう……ござい、マス……」
顔を真っ赤に染めたまま、それでも嬉しそうに微笑む有森。そんな有森を優しい目で見やり、藤田が有森の頭をそっと撫でる。
「……でもな? さっき、北大路も言ってただろ? その恰好、すげーお前に似合ってるけど……その、なんだ」
あー、うー、と言い淀み。
「――まあ、端的に言ってちょっとエロい。彼女のそんな姿、他の男に見られて喜ぶ男はそうそういねーよ。誘ってるのかと思われるじゃん」
真剣な藤田のその視線に、有森が困惑の表情を浮かべた。
「え、えっと……す、すみません!! わ、私、そ、そこまで考えて無くて! そ、その、た、ただ藤田先輩に喜んで貰いたいってだけで……か、勘違いしないでください!! ほ、他の人を誘おうとか、そんなことは思ってないんです!! 本当です!!」
「分かってる……つうか、信じてる。でも、誤解するのは男の勝手だからな。だからまあ、その恰好はすげー似合ってるし、ぐっと来たけど……やめとこうぜ?」
藤田の言葉にこくんと頷く有森。少しばかり後悔の念を含めたその視線のままで。
「――でも……藤田先輩の前だけなら……良いですか? やっぱり……藤田先輩には、魅力的って思ってもらいたいんです……」
「……手加減してくれると、助かる」
……希望と絶望の同居した藤田のあの表情よ。そら、嬉し苦しって感じだろうな、あれ。そんな藤田に、少しばかり同情の視線を向けていると何かに気付いたかの様に有森は視線をこちらに向けて。
「そうだ! 東九条先輩も楽しみにしててください! 彩音先輩、凄く綺麗でしたよ!! でも――東九条先輩って……『ああいう』趣味、だったんですね……」
ちょっと待って!? なに? 何処から俺の情報が洩れてんの!? 怖すぎるんですけど!!




