番外編 愛しき聖夜の為に 前編
どうも、疎陀です。メリクリ!!
流れぶった切ってすみません、番外編です。せっかくのクリスマスですし、クリスマススペシャルな感じで!
後編も今日中に投稿いたしますのでそちらもぜひぜひ!
「……さて」
12月23日。平成時代はともかく、令和の今では残念ながら休日とはならなかった今日この日、俺は藤田と二人で駅前のデパートに来ていた……というか、藤田に頼み込んで駅前のデパートについて来てもらったのだが……
「……さて、藤田。どうだ?」
「……なあ、俺、もう帰っていいか?」
俺の真剣な表情に、心持面倒くさそうな表情を浮かべる藤田。そんな藤田に俺はジト目を向ける。
「……お前、親友じゃなかったのかよ? もうちょっと付き合ってくれてもよくねーか?」
「……今日、終業式で半ドンでそれからずっとで……今、何時だ?」
「……」
「目を逸らすな。何時だ、浩之?」
「………………五時」
「そうだ。五時だぞ、五時! 五時間だぞ? 五時間も――」
ビシっと人差し指で俺を指して。
「五時間も付き合ってやってんだぞ!? そろそろ決めろよな、桐生へのプレゼントくらい!!」
そう。
12月24日という……恋人の為の日といっても過言ではない日の前日のこの日。
「そもそもだな!! イブ前日にプレゼント決まってないってお前、なにやってんだよ!!」
……話は午前中まで遡る。
◇◆◇
「浩之~。今日暇か? 有森部活あるっていうし、暇ならちょっとゲーセンでも――浩之?」
午前授業で学校も終わり、通知表という悪魔の――最近は俺、勉強そこそこ頑張ってるんで例年ほど目を覆いたくなる惨状では無かったが――便りを手に入れた学生たちが三々五々と散っていく中、俺のもとに来た男がいた。藤田だ。
「……藤田か」
「藤田だけど……どうした、お前? この世の終わりの様な顔して。そんなに成績悪かったのか? 大丈夫、気にすんな! 知らんけど、多分俺の方がひどいし!」
「胸張って言うな、馬鹿野郎。そんなんじゃねーよ。そんなんじゃねーけど……」
ちらりと視線を藤田に向けるとはてな顔を浮かべて見せる藤田。
……仕方ない。背に腹は代えられん。迷惑だとも思うが……助けてくれ、藤田!!
「その……藤田?」
「なんだ?」
「……有森へのクリスマスプレゼントって……もう買ったか?」
「有森への? ああ、買ったぞ」
「何を?」
「何をって……部活で使うタオルだな」
「た、タオル?」
え? 恋人へのクリスマスプレゼントがタオル? え? そんなんで良いの?
「何を思っているか大体わかるが……前、言わなかったか? 俺ら、お互いの欲しいものを言い合って、プレゼントし合うことにしてるって」
「……ああ」
言ってたな、そんなことも。
「有森、『タオルがいいです、藤田先輩! 藤田先輩からのタオル貰って試合に臨めば……そ、その、いつも藤田先輩が側にいてくれる気がして心強いんで……』って言うからよ? ちょっとお高めのスポーツタオル、プレゼントさして貰う予定だ」
容易に想像がつくな、その時の有森。きっと、顔真っ赤だっただろうな。藤田のこのにやけ切った表情見る限り。
「ま、その時の有森は無茶苦茶可愛かったぞ。そんで?」
「……そんでって、何が?」
「俺が教えたんだから、お前も言えよ。何買ったんだよ、桐生に?」
そんな藤田の言葉に思わず『ぐっ』と息が詰まる。そんな俺の表情の変化に気づいたか、藤田の顔が若干引きつる。
「……まさかお前……」
「……頼みがある、藤田」
「……なんだよ?」
「……桐生のプレゼント選びに……付き合って、下さい」
……マジで、すまん。でも、もうどうしようもないんだよ! 助けて、藤田!!
◇◆◇
以上、回想終了。
「……お前な? 五時間だぞ、五時間。五時間もプレゼント探す奴があるか! 女子かよ」
「……男女差別、反対」
「あん?」
「……スンマセン」
ぎろっとこちらをにらむ藤田に身を縮ませる。そんな俺の姿に、藤田がはぁとため息をつく。
「……まあ、桐生はお嬢様だし欲しいものはなんでも手に入るだろうから、考えるの難しいのも分かるけどよ? それにしたってお前、なんかちょっとあんだろうが? 桐生が欲しそうなものぐらい。同棲してんだろ?」
「……まあな」
休憩代わりに立ち寄った喫茶店でコーヒーを啜りながら、俺は小さくため息を吐く。
「そもそも……桐生、お嬢様だけどそこまで好き勝手買ってくることはねーんだよ。節約だって嫌いじゃないタイプだし……」
「そうなの?」
「ああ。だからこう……逆に物欲がないっつうか……何あげたら喜ぶかわかんねーんだよ」
服とか靴とかはサイズ的な問題もあるしな。アクセサリーも考えたけど……この間プレゼントしたし、さすがに連続で上げるのは芸がない。本好きは本好きだけど、それこそ趣味嗜好もあるし……花束は、貰ってうれしいのかそもそも分からん。
「インテリアとかは?」
「それだって趣味嗜好あんだろうが」
「まあ……ああ、でも待てよ? 桐生だぞ? 浩之大好き桐生だぞ? 桐生なら浩之から貰ったもの、なんでも喜ぶんじゃねーか?」
「……」
「……あれ?」
「いや……まあ、うん、俺もその……そうじゃないかなって思ってはいる」
「あれ? のろけ?」
「いや、そうじゃなくて……ああ、でもそうなのか? 桐生が俺から貰って嬉しくない顔は……なんか、あんまり想像できん。俺だって、桐生から貰ったらなんでも嬉しいし」
「……ごちそうさま。それじゃ良いじゃねーかよ。何あげても喜んで貰えるんだったらさ」
「いや、そりゃそうなんだろうけどさ? でも……何貰っても喜んで貰えるんなら、尚更もっと喜んで貰えるもの、あげたくないか? 桐生が本当に心の底から喜んでくれる様な、そんなものを送ってあげたいって言うか……」
付き合って初めてのクリスマスだし……なにより、桐生は大事な女の子だ。こう、思い出に残るっていうか……とにかく、人生で最高に楽しいクリスマスにしたいんだよ、俺は。
「……まあ、気持ちは分からんでもないな。むしろ、よくそこまで桐生の事想ってるなってちょっと感心してる」
「……」
「ただ……正直、前日まで悩むのはどうかと思うが」
……ぐぅ。
「……さっきも言ったけど、気持ちは分からんでもない。だがお前、此処まで来たら決まらんだろう?」
「……まあな」
だから五時間も迷ってるんだし。そんな俺に、藤田はもう一度ため息を吐く。
「……本当はあんまりおすすめも出来んが……どうだ? ちょっとだけ、チート技使わねーか?」
「……チート技だ?」
首をかしげる俺の前で藤田がフリフリとポケットから取り出したスマホを振って見せる。
「……カンニング」
「…………は?」
「だから、カンニングだよ。有森にお願いして、『桐生の欲しいもの』を聞いて貰うってこと」
「……は? い、いや、お前、それはダメだろうが!! 流石にそれは――」
「んじゃお前、このまま決まらずに適当なもの渡すか? このショッピングモールだっていつまでも開いてるわけじゃねーぞ? 時間切れギリギリで取り合えずでプレゼント買うか?」
「そ、それは……いや、だけど」
「有森が聞けば桐生だって欲しいもの、言いやすいんじゃないか?」
……一理ある。あいつら二人、なんだかんだ仲も良いし……
「……まあ、浩之の気持ちは分からんでもない。でもな? 俺はもう十分だと思うぞ?」
「……十分?」
「浩之が桐生の為に、桐生に喜んで貰いたい為に一生懸命選んだんだろ? それで色々と悩んだことに価値があるんじゃね?」
「……そうか? でもそれ、俺の自己満足だし」
「んじゃ、聞き方を変える。桐生が浩之の為に、一生懸命考えてくれたと考えてくれると……嬉しくないか?」
……。
………。
…………まあ……う、うん。
「……にやにやすんな、気持ち悪い。その上で俺を通して桐生が浩之の欲しいもの聞いて、嫌がるか、お前?」
「……そこまでしてくれたんだな~って思う」
「だろ? だから――」
その時、藤田のスマホがプルプルとなる。
「……誰?」
「有森。ええっと――あちゃー」
そういって藤田が手を額に当てる。な、なに?
「いや、有森に『桐生の欲しいもの、聞いておいて』って聞いたんだけどよ?」
「おま、なんで勝手に聞いてんだよ!? まだ許可出してないんだけど!!」
「いや、別にいいだろ? 俺が勝手に答えを知ってもお前に伝えなきゃいいだけだし。お前が聞きたいって言えば教えればいいだけで、そうじゃないなら俺の胸にしまっておくだけだ」
「……た、確かに」
「そもそも……付き合うぐらいはしてやるけど、さすがに五時間はやりすぎだしな。悪いがそろそろ帰りたい」
「……すまん」
「そういう意味で、先に聞いておこうと思ったんだよ。思ったんだけど……」
そういってポリポリと頭を掻いて。
「……わりぃ。桐生に聞いて貰ったんだけどよ? 『東九条君と一緒に過ごす時間が一番、欲しい』だってさ」
愛されてるね~、なんていう藤田の言葉に、俺は嬉しいやらほっとしたやら……そして、結局、何をプレゼントしていいのか分からず、肩を落とした。




