えくすとら! その百六十二 茜ちゃんが正しく浩之君の妹なのは良いとして
「……まあ、それにしても」
私がなんとなく過去……というか、今までの会話を思い出していると明美様の出してくれた紅茶を飲みながら智美さんが口を開く。
「意外に仲良くやっていけそうな感じじゃん、あの二人」
クッキーをかじりながら、視線を某アニメ映画の猫とネズミ並みに仲良く喧嘩する雫さんと西島さんに視線を向ける。そんな智美さんの視線に釣られることなく、私は視線を茜さんに向けた。
「茜さんの功績、かしらね?」
「ふぇ? 私、なんかやっちゃいました?」
きょとんとした表情を見せる茜さんだが……二人の仲が良く? まあ、冷戦みたいな雰囲気ではなく、ああやってじゃれるくらいになったのは茜さんの力が大きい。自身の彼氏に色目を使った西島さんに『ああ』言い切って見せたことでなんだかちょっとだけ馬鹿らしくなったのか、雫さんも『藤田先輩が良いって言ってるんだったら私からいう事はないし……私も、ごめん』『……ううん。まあ、こっちも煽ったから。その……悪かったわよ』みたいな会話があったのだ。まあ、トランプであそこまで盛り上がったのはあの二人の相性が意外に良かったからだろうが……それでも最初にこの空気を作ってくれたのは茜さんだ。そう思い微笑む私とは対照的、可愛らしい姿を見せる茜さんに『ちっ』と舌打ちをしたのは智美さんだ。
「……やめて、茜。それ、なんかムカつく。具体的には最近ヒロに貸して貰ったネット小説原作の漫画の主人公っぽいから」
心持イラっとした表情を見せてクッキーを口の中に放り込む智美さん。ええっと……と、智美さん?
「どったの、智美ちゃん? なにそんなイライラしてるのよ? なに? その漫画に身内でも殺されたの?」
「そういう訳じゃないけど……なんか好きになれないんだよね、ああいう主人公が。生まれ持った才能でちやほやされてるくせに『これぐらい、普通じゃないですか? あれ? 違います?』みたいな態度がスカしてて感じ悪いのよね。後はまあ、なんか勘違い系みたいな感じで『俺が弱すぎるって意味だよな?』とか」
「……そんなにスカしてたかな、私?」
「別にスカしてた訳じゃないけど……そのセリフが嫌いなの」
そういってツーンとそっぽを向く。そんな智美さんに苦笑を浮かべて見せて『はいはい』と首肯して見せる茜さん。
「分かった分かった。ごめんね、智美ちゃん、もう言わないから」
「……ん」
紅茶を飲む智美さんに笑顔を浮かべて茜さんはクッキーを口に放り込む。お、おお……
「……これが東九条君の言っていた、例のヤツね」
「例のヤツ? おにぃ、なんか言ってました?」
「智美さんと涼子さんが喧嘩したら、茜さんと瑞穂さんが宥めるって。智美さんは瑞穂さんに、って思っていたけど……」
今回は喧嘩じゃないけど……こういう風に宥めてたんでしょうね、二人とも。
「ちょ、彩音? それじゃまるで私たちの方が茜と瑞穂に迷惑掛けてるみたいじゃん!!」
……え、ええ~? 智美さん、貴方、まさか気付いて無いの……? 私が愕然としていると、茜さんが苦笑を浮かべて見せる。
「まあまあ。ともかく、皆仲良くが一番ですよ」
にこぱーっと良い笑顔。うん……
「……やっぱり東九条――浩之の妹なのね、茜さん」
「そうですか?」
「うん。その、優しい所がそっくりよ」
何が、という訳では無い。無いがしかし、こうやって他者を慮れる所がよく似ていると思う。そういう意味では智美さんだって涼子さんだってそうだし……瑞穂さんもそうね。西島さんの境遇を一番心配していたのも瑞穂さんだったらしいし……
「……良い人の周りには良い人が集まるのね」
「……まあ、そうかも知れませんね? 彩音さんも良い人ですし?」
そういってにやっと笑って見せる茜さん。い、いえ、そういう意味で言ったわけじゃないのよ? なんかこれじゃ、『私も良い人です』って言ってるみたいじゃない!!
「わ、私は……その、無理やり一緒に居るって言うか……その……ともかく、許嫁だから一緒に居ただけで、その……み、皆とは、違う、から……」
そんな私の言葉に茜さんがまるで聖母の様な優しい笑みを浮かべて見せてくれた。
「……最初がダメなら全部ダメ、なんてことはありませんよ。自分の兄をこういうのも何ですけど……人を見る目はある人ですから」
だから、そんなおにぃが認めた彩音さんは。
「とっても、良い人ですよ?」
……やっぱりこの子、東九条君の妹ね。
「……最初がダメなら全部ダメ、なんて乱暴な理屈はないって東九条君にも言われたわ」
「あらま。やっぱり兄妹ですね、私達」
「ええ、本当に」
そういってクスクス笑う私達二人。そんな私たちに、智美さんが呆れた様にため息を吐いた。
「そうだよ。そもそも彩音、悪い子じゃないじゃん」
「……悪役令嬢って言われているけど?」
「それ、表面見ただけの悪評じゃん? まあ、もうちょっと言動とか気を使えばいいのに、とは思うけど……考えなしでやる訳じゃないだろうしね、彩音の場合」
「……」
「私らが良い人かどうかはともかく……彩音は良い人だよ。だってさ?」
そういってニヤリと笑い。
「恋敵が遊びに来ても喜んであげてくれる様な人だよ? 良い子に決まってるじゃん?」
「……智美ちゃん、煽ってる?」
「まさか。恋人も大事にしながら、それでも友達も大事にしてくれてるって事でしょ? 私たちがヒロの事好きなの知ってて……それでも、私たちの関係性とか考えてくれてるって事じゃん。でも、ヒロは絶対渡さない意思の強さもあるし……うん、間違いなく良い子だよ、彩音は!」
そういってぐっと親指を上げる智美さん。そんな智美さんに、私はなんだか気恥ずかしくなって瞳を伏せて。
「――ところで、東九条君から漫画を借りたって、どういう事? まさか……二人きりで逢ってた訳じゃないでしょうね……?」
……まあ、それとこれとは話は別だが。きちんと説明してくれるかしら、智美さん!!




