えくすとら! その百六十一 東九条の血筋はなんかおかしい
京都から茜さんが到着し、私と――それ以上に涼子さんとの再会を喜び――す、拗ねてないからね! そりゃ、涼子さんの方が付き合いが長いんだし? 久しぶりに会ったんだろうし? 『あ、彩音さん。こないだぶりです』という私と『きゃー!! 涼子ちゃん、久しぶり!! 元気にしてた!? 私は超元気!! あ、秀明と付き合う事になったんだ!!』と涼子さんと接する時のあからさまな態度の違いに拗ねている訳じゃないんだからね!!
……コホン。まあ、ともかく、その後西島さんと茜さんが挨拶を交わし和やかなムードだったのだが、智美さんが瑞穂さん、雫さん、理沙さんを連れて部活終わりにこの家に直行したところで若干の緊張感が走った。まあ、雫さんと西島さんの二人、犬猿の仲とも言えるこの二人が、一部屋に介したのだから当然と言えば当然、呉越同舟みたいなものだし。
『……どうも』
『……ええ』
『えっと……どうも』
『……どうも』
なんて、まるで某国営放送のぬりかべもどきみたいな会話を繰り広げた二人に私も思わず頭を抱えそうになった。これ、さっそくダメなんじゃないかなって思ったんだけど……此処で声を上げたのが茜さんだった。
『……なに、この感じ? 雫と西島さんってあんまり仲良くないカンジ? え~』
『ちょ、茜! そ、そういう訳じゃ……ええっと、無いわけじゃないとは言い切れないけど……こう、流石にそこまで仲良し……というのはアレだけど……』
『……何言ってんの、瑞穂?』
『……何言ってんだろ、私。ともかく! アンタ、デリカシーなさすぎ! 見れば分かるでしょ!? あの二人が微妙な感じなの!!』
『分かる。分かるけどさ~。私だって折角京都から遊びに来たんだし? 和気藹々とやりたいのに雫と西島さんがバチバチじゃ楽しめないじゃん』
『そ、それは……ま、まあ』
うん、正直私もそれはそう思う。昔の……それこそ、出会ったばっかりの西島さんならともかく、今の西島さんには然程思う所は無いし、仲良くやっていくのはやぶさかではない。
『まあ、二人に何があったかはまた聞くとして……ともかく! 仲直りしてよ!! じゃないと折角のお泊り会、楽しめないじゃん!!』
そういってニパっと笑う茜さん。そんな茜さんに、雫さんが微妙な表情を浮かべる。
『……そうは言うけどさ~』
そんな雫さんの言葉に、きょとんとした表情を浮かべて理沙さんを見やる茜さん。
『……なに?』
『いや……雫ってこんな子だっけ? どっちかって言うと皆仲良くっていうか……少なくとも、こんな場で空気読まず敵愾心バリバリな子じゃないって言うか……』
『……色々あるんだよ、茜』
『そうだよ、茜。茜だってホラ、秀明馬鹿にされたらどう思うよ?』
『腹抱えて笑う。何言ってんのよ、瑞穂? 当たり前じゃん』
『……う、うん。そうだね、茜はそういう子だよね。でも……そうだ、秀明利用されたら?』
『あー……それはまあ、あんまり面白くないって言うか……』
そういってジト目で西島さんを見やる茜さん。
『……なに? 西島さん、雫の彼氏利用したって事?』
『……まあ、否定はしないよ。藤田先輩使って、東九条先輩や古川君に近づこうとしたし。っていうか、東九条さんって古川君の彼女なの? え? なにこれ? 私、今結構修羅場ってない?』
……確かに。西島さんの意中……というか、ちょっかいを掛けた東九条君、古川君、それに……ちょっかい? まあ、利用しようとした藤田君の彼女がそろい踏みだ。私だったらちょっと耐えられないかも知れない、この環境。修羅場じゃなくて地獄だ。
『……ちょっと待って? 西島さん、秀明に近づこうとしたの?』
『……そうよ。でも大丈夫、今は別になんとも思ってないから。東九条さんには申し訳ないけど……まあ、イケメンだし、古川君。バスケの時も格好良かったし、ちょっと良いなって思っても良いでしょ? その時彼女が居るなんて知らなかったし、悪気は――』
『え、なに? めっちゃ良いやつじゃん、西島さん!』
『――ない……は? い、良いやつ?』
『ああ、『やつ』は感じ悪かった? ごめんごめん! でもさ! 秀明の良さに気付くって凄い良い人じゃん! だよね~! 秀明、実は結構格好いいよね!!』
『………………は? ちょ、はぁ!? な、なに言ってんのアンタ? 私、アンタの彼氏にコナ掛けたんだよ!?』
『その時はまだ付き合って無かったし~! ノーカンだよ、ノーカン! それより、秀明の良さに気付いてくれたのが嬉しいし!! それにおにぃも良いって思ってくれたんでしょ? 嬉しいよね、彩音さん!!』
『……まあ』
その……あんまり東九条君の周りに女性の影がちらほら見えるのは勘弁……というか、既にお腹いっぱいではあるのだが……ま、まあ? 恋人が『格好いい』って言って貰えるのはその……自分の事より嬉しいし。
『いや、でも! 私、古川君の事とか完全に顔だけだよ? あ、いや、プレイは格好いいって思ったけど……』
『顔が良いのも秀明の魅力じゃん? まあ、それだけじゃないからそこに気付けないのはまだまだじゃの~とは思うけど……それはそれで良いんじゃない? それにプレイしてる時の秀明、格好いいよね~』
『そ、それは、まあ……い、いや! ちょ、ちょっと? っていうか良いの? 自分の彼氏が他の女に褒められてるのよ? しかもコナ掛けた相手に! 不安とかなんないの!?』
『全然』
『な、なにそれ? 私、愛されてる~とか?』
『まあ、愛されているのは愛されてるだろうけど……まあ、誰がコナ掛けようが関係ないね!』
そういって茜さんは胸を張り。
『――私が、秀明を逃がすハズないじゃん! 誰が相手でも完膚なきまでに叩きのめすまでよ!!』
『……ねえ、桐生先輩』
『……何かしら?』
『……明美さんといい、東九条さんといい……東九条の血筋はちょっとおかしくない?』
『…………浩之はマシな方だと思うわよ?』
『……よく考えたらハーレムラブコメの主人公みたいな東九条先輩が一番、ヤバい気もするんですけど?』
……確かに。




