えくすとら! その百六十 仲良し! ……仲良し?
今回は桐生さん視点です。
「ダメですよ、彩音さん。涼子ちゃん、カレーは絶対に手伝わせてくれませんから」
「だよね~。あの状態の涼子って誰でも――ヒロでも絶対にキッチンに入れさせないもんね。『此処は私の城!』ぐらいの事思ってそうだし」
涼子さんのカレーのお手伝いをしよう――として、『彩音ちゃんはゆっくり座っていてくれたらいいから』と断られた私は心持しょぼんとしながら、手持ち無沙汰にソファに腰を降ろしてみるとは無しにテレビを見ているとそんな声がかかる。茜さんと智美さんだ。
「東九条君でも?」
「むしろおにぃは絶対に入れないと思いますよ?」
「だよね~」
「……私が下手だから、じゃなくて?」
「それは無いと思いますよ? っていうか、彩音さんってお料理苦手なんです?」
「……目下、練習中といった所かしら」
私の言葉に微妙な表情を浮かべる二人。そんな二人の向こうに見える、お玉で掬ったルーを口に入れてへにゃっとした笑顔を浮かべる涼子さんを見るとは無しに見る。そうなの?
「そうです。ですから、別に彩音様の料理の腕云々で断った訳ではありませんよ?」
コーヒーを入れたカップを乗せたお盆を持った明美様が苦笑しながら涼子さんを見やり、そのお盆をテーブルの上に置く。
「先ほども申しましたが、カレーは浩之さんの『幼馴染の味』ですので。涼子さんが手伝わせてくれることはありません。なのでまあ、涼子さんは……放っておきましょう。それよりコーヒーでも飲みませんか? そこの――」
そういって、明美様は視線を部屋の隅っこ――トランプに興じる四人に向ける。
「――見切った!! こっちだ、西島!!」
「へへーん!! ばっかじゃないの、有森? それはババでーす! ざーんーねーんでした~」
「う、うぐぅ!! ふ、ふん! いいもん! 別に、『2』を取られなければどうという事はないんでしょう!! 次はアンタがジョーカーを引く番だ!!」
「ふん! 私が何度もそんな間抜けな事をする訳ないでしょ!! あんたこそ、ビリを味わいなさい!!」
「……どうでも良いけど早く終わってくれないかな? 暇だよね、理沙?」
「……うん。さっきから十分くらい続けてるしね。どーする、瑞穂? 余ったトランプでなんかする? スピードとかどう?」
「そだね~。ま、スピードなら三枚少なくてもどうとでも出来るか。うし! 負けないぞ、理沙!!」
「おーい!! そこの二人!! 友達甲斐、なくない? 今、私と西島がプライドを賭けた勝負をしているんだよ!! 応援してよ!!」
「ふん! 友達の応援が無ければ勝てないの~? ダッサ!」
「うぐぅ! ふ、ふんだ! そんな事言ってるから、友達からハブにされんじゃないの~? ダッサ!」
「ぐぅ! アンタ、流石にそれは酷いんじゃない!?」
「あ、ご、ごめん! 今のは流石に無かった! あ、謝る。ごめ――」
「決めた。やっぱりアンタはぶっ飛ばす、この大女が!」
「――んって、あん? 誰が大女だ、誰が? やんのか?」
「へー? んな事言って良いの? アンタの大好きな藤田センパイはそんな乱暴な女の子、嫌いじゃないの~?」
「ふ、藤田先輩は関係ないじゃん!!」
「アンタに幻滅した藤田先輩、アンタと別れるんじゃない? そうしたら――そうだね? 今回は迷惑掛けたから、代わりに私が藤田先輩を慰める役でもやって上げようかな? あの人、昔、私の事好きだったみたいだし? 少しくらいは優しく――いた!! ちょっと! あんた、抓むのは禁止で――」
「……やめて。謝るから……やめて」
「――ああああ!! もう!! そんな泣きそうな顔しない! 悪かったわよ! 冗談だから! 大丈夫、自信持ちな! あの底抜けにお人よしなおバカな先輩はアンタに夢中だから!! 私がちょっとアプローチしたくらいじゃ落ちないから!!」
「そ、そんなの……分かんないじゃん。ふ、藤田先輩の事は信じているけど……でも……」
「……はぁ。あんね? こんなの、私が言う事じゃないんだろうけど……アンタの彼氏、ちゃんと立派な人だから。だってそうでしょ? こんな根性捻じ曲がったようなヤツでも助けてくれようとしてるんだよ? 普通、フラれた相手に此処までする? しないでしょ? そんな人が、今付き合ってる人間を蔑ろにすると思う? それは藤田先輩に失礼だよ?」
「し、信じてる! 信じてるけど……で、でも! そんな藤田先輩だって人間だよ? 昔好きだった、アンタみたいなかわいい子に優しくされたら……」
「……面倒くさっ! ちょっと、アンタら! この女の友達でしょ? そろそろコイツ、引き取って――」
「「――スピード!!」」
「はい、はい、はい――瑞穂? なーんで『2』を止めるのかな~? ゲーム、進まないでしょ? 早く置きなよ」
「理沙こそ、その右手に持ってる『3』をゆっくりとテーブルに戻しなさい。話はそれからだよ?」
「瑞穂、左手に持ってる『A』はなに? っていうか、両手持ち、反則じゃない?」
「ウチの地元では手札が全部無くなれば両手持ち、オッケーでーす」
「は? なにその邪道ルール? 片手プレイでしょ、普通。バッカじゃないの?」
「は? むしろなんでそんな縛りプレイしたいの? 変態?」
「おい! アンタらはアンタらでなに勝手にスピードしてるのよ!! 良いから引き取ってよ、この子!」
「あー、西島さん? そうなった雫、面倒くさいからちょっと相手してやってよ」
「そうそう。なんか二人、意外に相性良さそうだし……ああ、別に雫を引き取るのが面倒くさい訳じゃないよ? こっちはこっちで真剣勝負してるし、雫の面倒とか見てられないっていうか? ねえ、理沙?」
「そうだね~。っていうか、そろそろ雫の藤田先輩とのことで一喜一憂になるのちょっとお腹いっぱいだしね~。よかったよ、西島さんが居てくれて!」
「うん! これからもよろしくね、西島さん!!」
「……ねえ、有森? 私が言う事じゃないだろうけど……アンタもちょっと友達、選んだ方が良いんじゃない? っていうか、この有森の面倒見るとか……マジで面倒くさいんですけど……」
「――……仲が良さそうで良いですね。放っておいてコーヒー、飲みましょうか?」
そういって明美様はふいっと視線を逸らした。う、うん、仲が良い……良いのかしら? ま、まあともかく、こんな空気になったのは今から少しばかり、時計の針を戻さないといけない……
来週はテストなんでお休みします。




