第二十六話 きっと、全ての父親が思う事。どれがとは言わないけどね。
今回、凄い書きやすかった!
「……もしもし、お父様? ええ、私、彩音よ。私の電話に掛けたんだから私が出るに決まってるじゃない。え? なに言ってるのよ。うん……うん。今? 東九条君と公園に居るわ……え? で、デートじゃないわよっ! じゃあ、何してるのかって……ば、バスケット?」
俺に一言断って親父さんからの電話に出た桐生。なんの話をしているのか、いろんな意味で気にならん訳ではないが、なるだけ聞かない様に意識を遮断。まあ、桐生、声が大きいから普通に聞こえて来るんだが。
「だから……うん。うん……え? ええっと……ちょっと待って」
そう言って通話口を押さえてこちらに視線を向ける桐生。
「その……東九条君?」
「……なに?」
「ちょっと電話替わってくれってお父様が言ってるのだけど……」
……マジで?
「……拒否権無いやつ?」
「……無い訳じゃないけど……ごめん、一緒に居るって言ってしまっているから」
「……拒否権無いやつだ」
居留守じゃないけど、感じ悪いもんな。此処で電話に出ないなんて選択肢選んだら、『コイツ、俺と話したくないって事か!』ってなるもんな~。いや、正直許嫁のお父さんとかマジで話したくないランキングナンバーワンなんだが。
「……貸してくれ」
「……ごめんね?」
可愛らしいピンクのスマホ……桐生のイメージに超似合わないそれを受け取り、俺は耳に押し当てる。
「……お電話替わりました。東九条浩之です」
『……』
「……」
『……』
「……ええっと……は、はじめまして」
『……こうやって話すのは初めてだな。初めまして。桐生彩音の父、桐生豪之介だ』
「……」
『……』
「……あの……以後、よろしくお願いします」
……いや、親父さん? なんでほぼ無言なの? 俺に何を期待してるの? っていうか、親父さんから替わってくれって言ってきたんだし、出来ればそちらが話を進めてくれれば助かるんですが……
『……以後、よろしく……か』
「……ええっと……その、あんまりよろしくしたくない感じです?」
明らかに歓迎されて無いムード満々の電話に少しだけ怯えを感じ、そう問う。すると、電話口で息を呑む声が聞こえて来た。
『……いや、そうではない。以後よろしくする関係だし、君とは良好な関係を築いて行きたいと思ってはいる。ああ、すまんな。まずは君に謝罪をしなければならないな。前途ある若者をこの様な事に巻き込んで仕舞って本当に申し訳ないと思っている。許してくれ、となど毛頭言うつもりは無い』
「……それに関してはお互い様だと思っていますので……ほら、ウチの親父が……ええっと……」
どう呼べばいいんだろう? 親父さん? お父様? それともお義父様?
『……今すぐ私を父と呼べと言っても無理だろう。豪之介で構わん』
「……では、お言葉に甘えて。豪之介さんから借金しているのがそもそもの理由ですし」
『それにしても、だ。親の為した事に、子が責任を感じる必要はない』
「……俺……じゃなくて、僕自身、自分の会社の従業員にお世話になっていますし。可愛がって貰った従業員の皆が困るのは少し……と」
『……ふむ』
「……というか……一個だけ、聞いても良いですか?」
『答えられる質問なら』
「なんでウチの親父にお金、貸してくれたんです?」
『困っていたからだ』
「……ボランティアかなんかです?」
『無論、慈善事業のつもりはない。事業の将来性を視て融資した。篤志家ではないからな、私は』
「……事業の将来性、ですか」
いや、無いだろ? だってあの親父だぞ? 何処にそんな将来性があるんだよ? ちょっと考えられないんですけど……あれ? もしかして桐生の親父さんって人を見る目が無いの?
『……ふむ。その物言いだと、君は御父上の評価が然程高くない様に見える』
「いや、良い父親だとは思ってますよ?」
『良い父親は借金のカタに息子を差し出さんと思うが?』
「……それ以外は」
『冗談だ。まあ、君の御父上が家で何も言って無いのなら私から言う事はない。知りたければ自分で御父上に聞き給え。飄々としておられるが、優秀な方だよ、あの人は』
「……そうっすか」
『まあ、『東九条』との縁が欲しかったのも事実だ。彩音から聞いてないかね?』
「……こんなん言って良いんですかね?」
『構わんよ』
「その……成り上がりって随分馬鹿にされたって」
『事実だ。私自身も成金、金の亡者と随分毛嫌いされて来た。言い方は悪いが、私たちは金があってもそれしか無いからな』
「箔付けですか?」
『正直に言えば、『許嫁』までは出来すぎだと思っていた。東九条の血を持つ人間と良好な人間関係を築ければ、表立って馬鹿にされたり、無駄に突っかかって来る馬鹿はいないからな。それだけで十分だと思っていたさ』
「でも、現状許嫁ですよね? なんでです?」
『私がそれを申し入れ、君の御父上がその条件を呑んだからだ。東九条と良縁を築けるのはベターだが、縁戚を結べるのであればベストだ。経営者として、ベストな判断が転がっているのに選ばない選択肢はない。彩音自身、『名家の血』を入れる事に賛成していたしな。障害になるものは何も無いさ』
「……僕以外は、ですか?」
『そういう事だ。だから、君には申し訳ないと思っている』
「いえ……それは。僕自身が選んだ選択でもありますし」
『……そうか。ならばこれ以上は言うまい。藪を突いて蛇を出す必要もないし、君がそう思っているのであれば、それに乗っからせて貰うとしよう』
「ぜひ、そうして下さい」
このまま進めば、おれと桐生は結婚して、この人は義理の父になるからな。あんまり気を遣われ過ぎるのも肩が凝る。
『そうだな。と、長話になってしまった。本題がまだだ』
「本題?」
え? まだあるの?
『――手紙を読んでくれたかね?』
――OH……
「……読みました」
『どうだった?』
「……その……率直に申し上げて、娘さんの事をとても大切にされているのであろうことが分かる素晴らしい文章だったかと……」
『そうか。いや、失礼は承知で想いの丈を書いた。無論、君に迷惑を掛けている身でどの口がとも思うが――』
一息。
『……止まらなかったんだ』
「……」
『だって、そうだろう? 彩音は私が手塩に掛けて育てた、大切な一人娘だ。目の中に入れても痛くないぐらい可愛い可愛い、大事な娘だ! 妻は産後に寝込んだから、私がミルクを上げたり、おしめを替えたんだ! お風呂にも入れたし、夜泣きする度にあやしていたんだぞ!』
「……ご苦労されていたのですね」
『苦労? 苦労なモノか! 可愛い娘のためだ! そんなもの、苦労のウチに入らん!』
「……」
『まあ、確かに楽では無かった。手は掛かったさ。だが、娘のための労力を厭う事などせん! 私はあの子が笑ってくれるだけで……『パパ、パパ』と語りかけてくれるだけで十分だ! 正直、ずっと手元に置いておきたい!』
「……済みません」
『それを……美しくなったら、横から掻っ攫われるんだぞ? 納得が行くかっ! 勿論、こちらから提案した話ではある事は重々承知している。だから、私はこの程度で済んでいるが……もし、『娘さんを僕に下さい』なんて言ってくる輩が居たら』
「……居たら?」
『……富士の樹海の自殺者は、公表よりも多いのを知っているか? 発見されないご遺体が沢山あるらしい』
「……」
……怖すぎるんですけど。
『……そんな可愛い娘だ。親の欲目かも知れんが、美しく育ったと思う』
「それは……はい」
『……だから、彼女には幸せになって貰いたい。先ほど、私の事は恨んでくれて構わない、とそう言ったな?』
「……はい」
『その言葉に嘘はない。どう言い繕っても、私が君を金で買ったのは事実だ』
だが、と。
『――どうか、お願いだ。面の皮が厚い事は重々承知している。承知しているが、これだけ言わせてくれ。たとえ桐生豪之介を恨んでも』
――桐生彩音だけは、恨まないでやってくれ、と。
『……頼む。あの子を幸せにしてやってくれ』
「……はい。約束します」
『……済まんな。君には頼み事ばかりで……申し訳ない』
「……いえ」
恨むことなんてないさ。桐生は……思った以上に『良いやつ』だしな。にしても……
『……どうした?』
「いえ、なんでもないです」
桐生の親父さん……結構、良い人だな。なんか、もうちょっと怖いイメージがあったが、予想以上に喋りやすいし、結構面白い人――
『――だが、許嫁とは言え君たちは高校生だ。節度のあるお付き合いをしろ。も、もし……か、仮にだぞ? 高校在学中にわ、私が『お祖父ちゃん』になるような事態が起ったら……冗談抜きで、私は君を富士の樹海に送り込むぞっ!!』
――訂正。やっぱ怖いわ、この人。
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