えくすとら! その百五十六 やっぱりスポーツによって人気、不人気はあると思うんだ!
「そんでさ?」
実家から持ってきたゲーム――レースゲームを数十回、俺と藤田は当然、秀明もまあ昔取った杵柄でそこそこいい勝負をしている中、一人で逆走やらコースアウトやらを繰り返してすっかり疲労困憊となった北大路に藤田が声を掛ける。
「? なんですか?」
「お前、どうなの? 琴美ちゃんの事」
「西島さん、ですか?」
「ああ。まあ、秀明は事情を知らんだろうけど……っていうか、浩之? 説明してるか、その辺」
「してねーよ」
お前らに会ったのも偶然だしな。つうか、説明要るのか?
「馬鹿、要るに決まってんだろ?」
「……なんで?」
「だってお前、俺は昔琴美ちゃんに告白してフラれてんだぞ?」
「……それが?」
それがなんか関係あるの? そんな俺の言葉に、藤田が小さくため息を吐く。
「北大路、イヤな思いするかもしれねーじゃん。人伝に聞いて、それで琴美ちゃんと北大路が巧く行かなかったらイヤだし」
「……考えすぎじゃね?」
北大路がそんな風に思うとは思えないんだが。そう思う俺に、北大路が苦笑を浮かべてこちらを見やる。
「いや、ホンマにそうですわ。昔、浩之さんにも言いましたけど……好きになったら、別に過去の男の事とか気にならん……というと語弊ありますけど、一々干渉しようとは思わへんです。誰と付き合ったとか、誰に告白されたとか……まあ、どうでもエエ言うのは語弊がありますけど」
そういって北大路は苦笑を微笑に変えて藤田を見やる。
「……ほいでも、そうやって気を遣ってくれはったのは有難いです、藤田先輩」
「……そっか。あ! ちなみに俺には今有森雫っていう愛しい愛しい彼女がいるからな? 心配すんな」
「そんな心配はしてへんですけど……っていうか、藤田先輩にも彼女さん、いてはるんですか」
「おう! つうか……こんなかなら独り身は北大路だけか。秀明にも浩之の妹ちゃんが居るし。浩之には桐生が居るしな」
「……あー……そうですね。皆さん、彼女持ちですか」
「ん? ちょっと羨ましいカンジか?」
「ええっと……まあ、興味がない言うたら嘘になりますよ? 俺やって男子高校生やし、こう……バスケが恋人! みたいな感じはちょっと寂しい言いますか……」
そういって少しばかり瞳に羨望の色を混ぜる北大路。そんな北大路に、秀明が首を傾げて見せる。
「でもお前、普通にモテんじゃねーの? あれ? 東洛って男子校だっけ?」
「いや、共学やけど……」
「それじゃあんじゃねーの? そういう甘酸っぱいカンジのやつ」
秀明の言葉に俺も頷いて見せる。だってこいつ、オトコマエだし性格も良いし、しかも良い所のお坊ちゃんで、加えてバスケも巧いんだぞ? 男子校で出会いがないとか言うならともかく。
「あー……まあ、共学は共学やけど……俺んとこ、バスケ部と剣道部、それに硬式テニス部は完全に別口やねん」
完全に別口……ああ、アレか。
「……スポーツクラスってヤツか?」
「そうです、そうです、浩之さん。ウチではTAクラス言うてますけど」
「TA?」
「トップ・アスリートの略です。まあ、東洛の中では『トップ・アホ』クラスって呼ばれてますけど。運動はともかく、お勉強からっきしですし、俺ら」
「……酷い」
「事実ですしね。それに……東洛ってバスケ界隈だったら名門みたいなイメージ、あるやないですか? ほいでも京都の方ではどっちかって言うと勉強の方が有名なんですよ。毎年、東大とか京大に二桁合格出しますし……勿論、そっちは特別進学クラスの功績です。そら、そいつらから見たら俺らなんてトップアホですよ。せやから、同じ『東洛学院』言うても殆ど別の学校なんですよ。辛うじて敷地は同じところにありますけど、校舎は完全に別ですし」
「それでも、共学なら女子生徒とかいるんじゃねーの? そのTAクラスには」
「おらんのですよ、それが。TAクラスは全員男子ばっかりのむっさいクラスなんですわ。女子の入学認めてないんで」
「……今のご時世じゃ問題になりそうだな、それ」
「そういうわけちゃいますけど……実際問題、バスケも剣道も硬式テニスもそこそこ強いんですよ。せやから、俺みたいにわざわざ地方から来る人間も居るんで」
「それが?」
「俺も寮住まいなんですけど……異性で同じ寮なんか住まわせる訳にはいかんでしょ? 多感な時期の高校生に。風呂とかトイレとか、生活空間も男と女じゃ随分違いますし……かといって、もう一個寮を建てるのは経済的に微妙や無いですか? 少子化言われてますし」
私立学校は商売ですからね、と笑う北大路。まあ、確かにな。男子と女子を一緒に……住まわせてる学校もあるかも知れんが、あんまりいい顔はされんだろう、世間様的に。
「まあ、そうは言うても特別進学クラスの子と付き合ってる先輩とかもいてるんで、全然可能性はない訳や無いんでしょうけど……」
そういって『はぁ』と大きくため息を吐く。
「……モテへんのですよね、俺」
「……そうか?」
さっきも言ったけど、十分優良物件だと思うが? 首を傾げる俺に藤田も頷いて見せる。
「それ、お前から行かないからじゃねーのか? 浩之や秀明みたいに最初から可愛い女の子侍らせてる奴はともかく……女の子と付き合いたいなら待ってるだけじゃダメだぞ? ガンガン攻めないと」
「酷い冤罪だが……説得力があるな、お前が言うと」
誰が侍らせてんだよ、誰が。だが……なんせこいつ、西島に一目惚れで出逢って速攻告白、玉砕だもんな。説得力、段違いだわ。アレを真似するのもどうかと思うが。
「そこまでの気合は無いですね。それに……まあ、俺が行っても相手されへんですし」
「そうか?」
「……俺の先輩で、物凄いエエ人、おるんですよ。顔も格好良いですし、性格もエエ人でバスケも巧いんです。まあ、TAクラスにおるんやから当然と言えば当然なんですけど……その人、好きになった同級生に告白しにいかはったんですよ」
「……うまく行かなかったのか?」
そんな俺の言葉に、北大路は顔を歪めて。
「――『ウチのバスケ部って強いのかも知れないけど……なんか、バスケって将来性ないでしょ? 野球とかサッカーならともかく』って言われたらしいですわ。知ってました、浩之さん? スポーツしたら誰でもモテるわけやないんですよ?」
悲哀に満ちた表情でそういう北大路に、俺は何も言えなかった。最近はそこそこ盛り上がってはいるけど、まあ、うん……他のスポーツに比べれば……ま、まあ……うん。




