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えくすとら! その百五十三 色んな意味で規格外


「……浩之」

「……言うな」

「桐生……何言ってんだ?」

「だから言うなって!!」

 いや、でもマジで何言ってんの、桐生さん? そんな俺らのジト目に、桐生は顔を真っ赤にして手をわちゃわちゃと振って見せる。

「ち、違うわよ! そ、そういう意味じゃなくて!! そ、その……ま、前に雫さんが言ってたの! そ、その……ふ、藤田君に、ぎゅってされたって」

「……何言ってんだよ、あいつ」

 右手で目を抑えてあちゃーみたいな仕草をする藤田。

「だ、だから! そ、その……バスケの時に緊張っていうか、そういう事ってあるのかな~って……」

 そんな桐生の言葉に困ったような顔を浮かべた後、藤田は口を開く。

「あー……まあ、その、なんだ。彼氏彼女としてのお付き合いをしている訳だし、そういう事もまあ、無いわけじゃない」

 だよな。お前、昔『物理的に口をふさぐ』とか言ってたもんな。

「んじゃ、緊張する要素なくね?」

「それとこれとは話が別っつうか……なんかさ? 練習中にそんなよこしまな事、考えられなくね?」

「まじめか」

 良いことだとは思うが……なんつうか、難儀なやつだな。

「ともかく、練習中はそんな事は考えられねーんだよ。だからこそ、緊張もするんだよな」

 肩を竦める藤田に、少しばかり納得した様に頷く桐生。そんな俺らを見ていた秀明が口を開いた。

「藤田先輩の修行僧みたいな生活は分かりましたが……ともかく、もう一本! もう一本行きましょ!」

 ボールを持ってニカっと笑う秀明。そんな秀明に、北大路も『おお!』と声を上げかけて。

「……えっと……西島さん、大丈夫か?」


「む……む、り……」


 コートの右端、スリーポイントラインでペタンと女の子座りして肩で息をする西島が、きっとした視線をこちらに向ける。

「な、何考えてるんですか、先輩方!! 普通、こういう所のバスケってもうちょっと和気藹々するもんじゃないんですか!? ガチじゃないですか!! 素人、いるんですよ!? もうちょっと気を使っ――ケホケホケホ!!」

「ああ、西島さん!? 水! 水呑んで!!」

 咳き込む西島に慌てた様子で駆け寄りペットボトルを手渡す北大路。『ありがと』とそのペットボトルを受け取るとキャップを開けて半分くらいを一気で飲み干すと、再びきっと視線をこちらに向けてくる。

「……男前な飲み方だな」

「東九条先輩、うるさい!! ともかく! 私はもう無理です!!」

 もう一度ペットボトルから水を飲むと、そのペットボトルを北大路に手渡す。

「その……ありがと、北大路君。それと、ごめんね? 折角東九条先輩とバスケ出来るのに我儘言うようだけど……流石に私、ちょっとこのレベルには付いていけないカモ……」

「いや、こっちこそ悪かったわ。せやな、西島さん未経験者やもんな。そんな風に見えへんくらい上手かったから勘違いしてたわ。俺の方こそ申し訳ない」

「ううん。折角楽しみにしてたのに……その、一緒には出来ないけど見るのは良いよ? もしアレなら桐生先輩と二人で見学してるけど……」

 と、そこまで言って西島はじとーっとした目を桐生に向ける。

「……っていうか、桐生先輩、どれだけ体力あるんですか? いえ、成績優秀、運動神経抜群ってのは聞いてましたけど……」

「そ、そうかしら?」

「そうですよ!! っていうか男の子と一緒にバスケして涼しい顔って……」

 まるで化け物でも見るような目で桐生を見るような西島に、桐生が嫌そうに顔を顰める。そりゃまあ、化け物扱いは嫌だよな。

「……脳筋?」

「今まで受けたことのない評価なんだけど、それ!!」

 ……まあ、確かに桐生の評価では無い評価だろうな、多分。

「まあまあ、桐生さんも西島さんも。ともかくバスケはもうええですわ。浩之さん、ありがとうございました!!」

「良いのか?」

 西島もこういっているし、俺的にはもうちょっとやっても良いぞ? ありがたい話、楽しみにしてくれてたんだろ、俺とのバスケ?

「まあ、これが最後って訳でもないでしょ? また次回の楽しみにしておきますわ。折角西島さんもおるんやし、今度は西島さんのしたいこと、しましょう」

 そういってにっこり笑う北大路。そんな北大路を少しだけ眩しそうに見つめた後、西島は俺にジト目を向ける。なんだよ?

「……これですよ、東九条先輩」

「……何が?」

「さんざん、人の事性根が腐ってるとか捻じ曲がってるとか言ってますけど……このやさしさですよ。分かります? あんな事ばっかり言ってたら愛想尽かされますよ、桐生先輩に」

「……すまん」

 なんか関係ない事で責められている気がせんでもないが……まあ、すまん。

「性根が腐ってる? 何の話です?」

「何でもないよ、北大路君! それじゃ、折角だし私の好きな事、させて貰おうかな?」

「おお、エエで! 西島さん、なんや好きな事あるんか? テニス? 卓球?」

「流石にスポーツはもういいかな? 折角アラワン来てるんだし、カラオケとかどう? 北大路君、歌うの嫌い?」

「いや、嫌いやないで。まあ、めっちゃ好きかって言われたらそんな事も無いけど……ほいでもええやん。たまには若者の遊びもしてみようかいな」

「若者って。同い年じゃん、北大路君。でもバスケで忙しいから、あんまりそういう遊びはしないのかな?」

 まあ、北大路はゲームも殆どした事ないって言ってたしな。バスケ強豪校ならバスケ漬けの毎日かも知れんな。

「たまーに打ち上げとかで行くで? そないに歌手とか知らへんけど……」

「大丈夫、大丈夫! カラオケなんて楽しんだもん勝ちだし! あ、そうだ! 桐生先輩ってどんな歌、歌うんですか? やっぱりクール系の女性歌手とかす――」


「鳳千賀子」


「――きなんで……へ?」

「だから、鳳千賀子よ。演歌界の新女王と呼ばれる、今後の日本を代表する演歌歌手ね」

「……」

「……」

「……」

「…………楽しんだもの勝ちなんでしょう?」

「っ! そ、そうですね!! た、楽しんだもの勝ちですよ!!」

 ……うん、気持ちは分かる。分かるけど、『こいつ、やべー』みたいな顔するな。いいじゃねーか、演歌好きな女子高生が居ても。



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