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えくすとら! その百五十二 男子高校生なんて大体、バカ


 予想外に上手かった西島の活躍により、試合は秀明チームのワンサイドゲームになった――訳、では無かったりする。

「っく! 藤田先輩、ウザいっす!!」

「先輩にウザいとか言うな、秀明!!」

 西島の打ったシュートがリングに嫌われ、高々と宙に舞ったボールに秀明と藤田が飛びつく。身長差、ジャンプ力、どれを取っても藤田に勝ち目はないはず、なのだが。

「浩之!!」

「任せろ!!」

 お互いに掴み損ねたボールを藤田がタップで俺に送る。そのボールを貰いワンドリブル、こちらに北大路が迫って来るのを視界に捉えて。

「桐生!!」

 進行方向とは逆にノールックパス。スリーポイントラインで綺麗に足を揃えた桐生の下に配球されたボールをこれも綺麗に受け取ると、桐生はスリーポイントを放つ。弧を描く用に宙を舞ったそれは、リングに触れることなくネットを潜り抜けた。

「ナイス、桐生!!」

「東九条君もナイスパス!! それに、藤田君もナイスよ!!」

「任せとけ!! へへーん、どうだ、秀明!! これだけは有森と練習していたんだよな!!」

 そういってニカっと笑って親指をぐっと上げる藤田。なるほど……

「……そういう事かよ。お前、スクリーンアウト巧いと思ったら……」

 スクリーンアウトとはバスケに置けるゴール下でのポジションの取り合いの事だ。体力、フィジカルが要されるプレイになるが、それだけにスクリーンアウトで良いポジションを取れるとかなりリバウンドの成功率は上がる。まあ、タイプに寄るのだが。

「有森、小学校からセンターだもんな」

 センターはバスケのポジションの中で結構専門職な所が多い……と、俺は思っている。例外もあるっちゃあるが、ほれ、元々ミドルレンジやロングレンジのシュートとかパス、或いはドリブルのイメージってセンターにはあんまり無いだろ? 豪快にリバウンド取って、周りを吹き飛ばしながらダンクを叩き込む、あんなイメージだ。どちらかと言えばオールラウンドになんでもこなすというより、一点特化というか……職人みたいなもんで、まあ、経験がモノを言うポジションではあると思う。野球で言うとこのキャッチャーとか、そんなイメージだ。あれも一日で出来るもんじゃねーんだろ? 知らんけど。

「くそっ! そういう事ですか、藤田先輩!! やけにスクリーンアウト巧いと思ったら……」

 対して秀明はバスケ人生の振り出しがポイントガード、センターと真逆と言ってもいいポジションだ。中学校からメキメキ背が伸びたと言っても、センター的なプレイでは……まあ、身長差やフィジカル抜かせば、初めからセンターである有森の方が一日の長はある。その弟子である藤田が巧くなるのも一理あると言えばあるのだが……

「……にしてもお前、巧くなりすぎじゃねーか?」

 そう。それはあくまで実力が近しいもの同士の話で……秀明と藤田なら雲泥の差があるはず。そう思い首を傾げる俺に、藤田が遠い目をして見せる。

「……浩之」

「……なんだよ、その目」

 訝しむ俺に、藤田は少しだけやさぐれた様な目をして。



「……知ってるか? 男ってな? ――エロい生き物なんだ」



「………………は?」

 何言ってんの、コイツ? バグった? 見ろよ、桐生の顔。ドン引きじゃねーか。

「……それは……なに? 藤田君、練習の名のもとに、そ、その……あ、有森さんの……か、体にさわれ――っ!! と、ともかく! そういう目的で練習してるって事かしら!? ふ、不潔よ!!」

 ……まあ、スクリーンアウトとかバスケの中でもモロに接触プレイだしな。そんな桐生の言葉に、藤田が物凄く嫌そうな顔をして見せる。

「……桐生の中でどれだけ屑なんだよ、俺。ちげーよ。ほれ、俺、バスケの時に……その、有森と練習とかすると……アレだろ?」

「……ああ。あの超ヘタレモードな」

「……まあ、否定はせん。それで、たまに有森とバスケの練習っていうか……まあ、付き合うんだけど、『これじゃ練習になりません!』って」

「……だろうな」

 あのままじゃ役に立たねーだろうな、藤田も。

「それで、荒療治と言うか……まあ、そんな感じでスクリーンアウトの練習と言うかコンタクトの多い練習をしている訳で……」

「……」

「……でもな? 俺だって健康な高校生なワケじゃん? 加えて、相手は愛しい彼女のワケじゃん? そんな彼女がお前、汗の匂いさせて密着してきてさ? 冷静で入れると思う?」

「……思わない」

「だろ? でもな? そうやってテンぱったりすると、有森に『まじめにやれ』って怒られるワケだ。なら、どうする?」

 遠い目のままで。


「――全てを忘れるくらい、集中するしか、ないだろ?」


 ……地獄か。

「なんだよ、その修行僧みたいな生活」

「それが部活の無い日、週に二、三回続けよ? 集中力も付くし、巧くもなる。なんせ、エロい生き物である男子高校生が、そのエロを押し込めてやってるんだぞ? これで巧くならなきゃ詐欺だ」

「……なんも言えねえ」

 いや、マジで。

「でもお前、週に二、三回って……部活の無い日は毎日じゃねーのか?」

 確か週四くらいだろ、ウチの女バスって。

「デートとか連れてってやんねーのかよ? ヤラシイ話、バイト代も入ってるだろ、お前?」

「有森、頑なに奢らせてくれねーからな。たまにバイト代が入ったから! って奢るとなんか物凄く申し訳無さそうな顔するんだよ。かといってアイツ、バイトもしてないし……お小遣いじゃ限界あるだろ?」

「……まあな」

「そりゃ、俺もたまにはどっかに……とか思わんでもない。浩之も言ったけど、金に余裕が……まあ、バイトしてないやつよりはあるしな。精々、ゲーム買うくらいの物欲くらいしかねーし、俺。でもな? 『お金も掛からないし、バスケ巧くなりたいですし! ……っていうか……何よりも藤田先輩と一緒に居られる上に、大好きなバスケ付き合ってもらうなんて……し、幸せなんです』とかはにかんだ顔で言われてみろ? 頷くか、一生懸命頷くかの二択しかないだろう」

「それ、一択のヤツ。ともかく、ご馳走様」

 だが……まあ、ある程度は納得だ。そりゃ、その邪な気持ちをすべてスクリーンアウトにつぎ込んでいるなら巧くなるだろうな。努力家だし、センスもあるもんな、コイツ。

「そ、その……」

 そんな藤田に小さく手を挙げる桐生。

「どうした?」

「その、そういう事情なら……ごめんなさい、失礼な事言ったわ」

「いいよ、別に。俺の言い方も悪かった……というか、敢えて誤解を招く言い方したし。主に、この苦しみを浩之に分かってもらう為に」

「……痛いほど分かる」

「そ、それよ!!」

「どれだ?」

「そ、その……二人はお付き合いを初めてもう、そこそこ経つでしょう? その……な、なんていうか……し、身体的接触とかは無いのかな~って」

「身体的接触?」

「そ、その……て、手を繋いで帰ったり、あ、頭を撫でたり……」

 一息。


「ちゅ、ちゅー、したり……とか」


 顔を真っ赤にしてそういう桐生さん、うん、滅茶苦茶可愛いんですが……口元抑えてチラチラこっち見るの、やめない? 絶対、誤解――っていうか、バレるから!!



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