えくすとら! その百五十一 好戦的な人々
「……マジかよ」
俺――だけではなく、桐生も藤田もポカンとした顔をしてみている。いや、こっちのチームだけじゃない。秀明も北大路も『マジで?』みたいな顔をしているんだが。っていうか……いや、マジで?
「? どうしたんですか、皆さん。そんなハトが豆鉄砲食らったような顔をして?」
俺らの視線にきょとんとした顔をして見せる西島。いやいやいや!
「……お前……なんだよ、今のシュート」
「なんか変でしたか? 普通のシュートのつもりなんですけど……」
「変じゃねーよ。いや、変って言えば変だけど……」
女子バスケのスタンダードとして、ボースハンドシュートというのがある。いや、ボースハンドシュートは概ね日本女子バスケ界での話になるので、スタンダードというと語弊があるのだが、所謂ツーハンドシュート、或いは両手打ちとか呼ばれるシュートフォームだ。アレだ、『女の子投げ』って言えば想像がつきやすいかも知れない。
「お前ワンハンドで打つのかよ、シュート。しかもスリーって……半端ないな、おい」
男子バスケの様なワンハンドシュート、つまり片手で打つシュートよりも女子はツーハンドの方が多い。当然と言えば当然だが、片手よりも両手の方が掛かる力が大きく、一般的な筋力量の関係で女子バスケではボースハンドが多用される。ちゃんと練習している女子バスケ選手でも両手なのに、素人の筈の西島が片手打ちは正直違和感というかなんというか……
「お前、経験者なのか?」
こういう感想しか出てこないんですけど。つうか、経験者と言われた方が納得できる、そんな綺麗なシュートフォームだったんだが。
「バスケですか? いえ、経験は無いですよ? そりゃ、体育とかではした事ありますけど……部活とか、スポーツ少年団的なのには入って無かったですよ?」
「その割にはシュートフォーム滅茶滅茶綺麗だったけど」
「いずみちゃん……雨宮先輩居るじゃないですか?」
「女バスのキャプテンの?」
「はい。幼馴染で小さい頃は上の姉とよく練習に付き合ってたんですよ、いずみちゃんの。まあ、付き合ってたというか本当にお遊び程度だったんですけど……上の姉、結構凝り性なんで。空手やってたって言うのもあって、筋力も普通の女の子よりもあったので、『両手打ち? 格好悪い!』とか言い出して」
「……ああ」
まあ、分らんではない。いや、別に馬鹿にする訳では無いし、あれにはあれのメリットがるのだが……やっぱりワンハンドへの憧れはあるからな。智美だって基本はボースハンドで打つが、たまにワンハンドで打ったりしてるし。
「そんな訳で私も片手で練習してたんですよ。上の姉はスパルタですし……いずみちゃん、ドSですし。両手打ちしてたら『ぬるい!』とか言って追加でシュート練習させるんですよね……」
「……」
「……自分はボースハンドで打つくせに、いずみちゃん」
「理不尽すぎねーか、それ?」
「『試合で勝つなら成功率上げる方が良いでしょ? 琴美のは遊びなんだから、遊びは格好いい方が良いじゃん』って……まあ、そんな訳で練習は結構してたんですよ。久しぶりだったんですけど……覚えてるもんですね~」
そういってニパっと笑って見せる西島。いや、覚えてるもんですねって……
「す、すごいやん、西島さん! 綺麗なシュートフォームやったで!!」
「ほんと!? うわ、北大路君にそういって貰えると嬉しいな!」
「いや、本当にびっくりしたよ、西島さん。ドリブルとかも出来る? っていうか、今の見たら出来そうだよね?」
「うーん……どっちかって言うとシュートの方が好きかな。見た目、派手じゃん? だから、シュート練習ばっかりしてたし……一応、一通りは出来ると思うけど……」
秀明の言葉に、顎に人差し指を置いて『うーん』とか考えて見せる西島。どうでも良いが、その仕草は結構あざといと思います。
「……そういえばあいつ、どっちかって言うと桐生タイプだもんな」
忘れてたけど……まあ、文武両道で努力家だもんな、西島って。性格も相応に悪いし。完全に桐生の下位互換だったよ、忘れてた。
「……ピンチじゃない、東九条君?」
そんなしょーもない事を考えていると、俺の側まで寄ってきてそんな事を言う桐生。桐生に答えたのは俺ではなく藤田だった。
「戦略は練り直す必要、ありそうだな。桐生、琴美ちゃんのマーク外しちゃだめだな」
「ええ。流石にあのシュートを見たらフリーにするのは不味いわね。ただ、ディフェンスはどうかしら?」
「さっきの話じゃシュートが一番得意っぽいし、そこまでディフェンスは得意じゃないんじゃないか?」
「なら……私がなんとか彼女を交わしてフリーで打つ、と言う感じかしら……藤田君、リバウンドは?」
「秀明相手じゃ流石に厳しいものがあるが……そうも言ってられねーだろう? 死ぬ気で取るさ」
「……上等よ。それじゃ、私も外したら死ぬぐらいの気持ちで打つから。後はボール運びだけど……東九条君、北大路君に勝てるかしら?」
「おいおい桐生? 俺らの頼れるキャプテン様だぞ? 無理なんて言う訳ねーだろ?」
「……そうね。愚問だったわ、東九条君。貴方なら大丈夫よね!!」
そういってキラキラした目を向けてくる桐生……と藤田。
「……お前ら、どんだけ負けず嫌いなんだよ」
なんだよ、『死ぬ気で取る』って。これ、アラウンドワンでする遊びのバスケなんですけど?
「なにぬるい事言ってんだよ、浩之!! 勝負だぞ、これ!! 負けて良いのかよ!!」
「そうよ! 何言ってるの、東九条君!! 負ける訳にはいかないでしょ!!」
「……」
お、温度差が酷い。いや、俺だって負けるのは嫌だよ? 遊びだけど、勝った方が良いのは良いし。
「絶対勝つぞ!! 死んでも取る!!」
「ええ! 絶対勝つわ!! 死んでもシュート、入れてやるんだから!!」
……にしても……流石にこれはついていけんのですが……




