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えくすとら! その百五十 ピンク(何がとは言わない


「……はあ……まあ、桐生先輩が東九条先輩のガチ勢なのは良いですよ」

 疲れた様にそういってため息を吐く西島。そのまま、桐生の手からハーフパンツを一着受け取る。

「それじゃ着替えに行きましょうか。折角だからTシャツも買いますよ。此処、クソダサいTシャツ売ってますし」

「売ってるけど……勿体なくないか?」

 胸に『アラウンドワン』とか書いてあるヤツだし。アラウンドとワンの間には星マークとか入っていたりするやつだ。着るもの結構無頓着な俺でも、流石にあれ着て街を歩こうとは思わないぞ?

「二百円とかの筈ですし良いですよ。それに、流石にこの服でバスケなんか出来る訳ないじゃないですか。まあ、どうしても申し訳ないと思うなら後でジュースでも奢ってください。貴方の彼女のせいでバスケなんかする事になったんですから」

 俺にそう言うと『さ、行きましょ、桐生先輩』と桐生に声を掛けてツレだって更衣室に向かう西島。待つことしばし、ハーフパンツにTシャツ姿の二人が戻って来た。

「靴はレンタルしてきましたし……それじゃ、バスケ勝負でもしましょうか。チーム分けはどうします? 東九条先輩と藤田先輩、北大路君と古川君として……桐生先輩、経験者でしたっけ?」

「経験者という訳ではないけど……この間の市民大会には出たわ」

「え? 桐生先輩、凄い上手だったけど経験者じゃないんです?」

「ええ。勿論、体育ではしたことあるけど……一試合出たのはアレが初めてよ」

「……初めてでアレですか」

 少しばかり呆然とした様子でそういって見せる西島。うん、気持ちは分からんでもないぞ。

「……分かりました。戦力的には北大路君と古川君の方が強いでしょうし、ハンデということでそっちに私が入りますね」

 肩を竦めてそういって見せる西島。そんな西島に小声で話しかける。

「……なんか悪いな?」

「いえ、別に大丈夫ですよ? 私、小さいころ空手やってたの知ってるでしょ? 運動、別に嫌いじゃないですし……それに、チームメイトがイケメン二人なんで、ある意味逆ハーレムじゃないです?」

「……ブレねぇな、お前も」

「冗談ですよ。そもそも古川君には『そのハンカチ、捨てといて』とか言われてますし」

 あん時か。

「ま、それは良いです。あ、そうだ。東九条先輩?」

「なんだ?」

 ちょいちょい、と俺に手招きする西島。そんな西島に、少しだけ身を寄せて。



「――ピンク、でしたよ?」



「……なにが?」

「分かりませんか? 私と桐生先輩、さっきまで更衣室で一緒だったんですよ? 上下お揃いの可愛いやつでした」

 更衣室で一緒? それが一体――

「? ……!? っ!! な、なにを!!」

 おま、そ、それ、アレか! なにかとは言わんが『アレ』の話か!!

「どんだけ初心なんですか、先輩。一つ屋根の下でしょうに。ま、ショットはメンタルとか言うんでしょ? せーしんこーげきですよ、せーしんこーげき」

 そういって楽しそうに笑って『足引っ張ると思うけどよろしくね~』と秀明と北大路の下に駆け寄る西島。そんな西島と入れ替わる様に桐生が首を傾げながらこちらに近寄ってきた。

「どうしたの、東九条君? 顔が真っ赤だけど……体調悪い?」

「な、なんでもない!!」

「……ちょっと。なんで顔を逸らすのよ? なに? なんか不満なの?」

 ぷくっと頬を膨らましてこちらを見やる桐生。いや、だって、お前、そのTシャツとハーフパンツの下って、その、あの、えっと!!

「……むぅ。東九条君!! こっち向いてよ!!」

「いや、今はちょっと無理なんで……」

「なんでよ!!」

「……喧嘩すんなよ」

 俺と桐生の間に入るよう、藤田が呆れた表情を浮かべてこちらに来た。ふ、藤田……助かったぜ!!

「……なんで浩之はキラキラした目でこっち見てんだよ。ともかく……一年チーム対二年チームか。なんか作戦はあんのか、浩之?」

「さ、作戦か? さ、作戦って程のものは無いけど……まあ、こないだみたいに俺と桐生でボールキープしつつお前が搔きまわす、チャンスが来たら俺と桐生が外から打つ、フリーならお前が打つ、ぐらいじゃねえか?」

「……なんか誤魔化してない、東九条君?」

 桐生のジト目がこちらに刺さる。いや、ちゃうねん! 別に誤魔化してる訳じゃないんだって!

「別に誤魔化してる訳じゃねえよ。ともかく! あっちは西島が素人だからな! 桐生、頼んだぞ!!」

「……ぶぅ。まあ、その作戦で行こうかしら。妙案がある訳じゃないし」

 少しだけ不満そうにしながらも渋々頷く桐生にほっと胸を撫でおろしていると、秀明が声を掛けてきた。

「それじゃどっちボールから行きます?」

「お前らからでいいよ。ハンデだ、ハンデ」

「良いんですか? んじゃまあ、遠慮なく先に攻めさせて頂きます」

 俺の言葉ににやりと笑って秀明がボールをポーンと北大路に渡す。北大路はボールを人差し指でくるくると回した後、俺にボールを投げて寄越す。そのボールを北大路に返して。

「――行きます!」

「こいっ!!」

 低く、抉るようなドリブルで俺を右から抜きに掛かる北大路。そんな動きに釣られる程、俺も素人じゃない。動きについて行きつつ、秀明へのパスコースを潰す。

「良いディフェンスしてはりますね、浩之さん!!」

「喋ってる暇があるのかよ?」

「あります――よっ!!」

 自分の体でボールを庇うようにくるりとターン。流石、現役。うめぇじゃね――

「甘いわ!!」

「桐生さん!?」

 俺を抜こうとした先、桐生の手が北大路のボールに向かって伸びる。なるほど! 西島が素人だと思ったから、こっちにダブルチーム来たか!!

「ナイス、桐生!! 藤田!!」

「任せろ!! 秀明にパスは出させん!!」

「っち!! 北大路! こっちは無理だ!! 抜くか打て!!」

「無理言うな!?」

 見よう見真似ディフェンスで秀明にぴったりマークをする藤田。パスが出せない以上、抜くか打つかの二択だが。

「ぬかせないわ!!」

「うたせねーよ!!」

「無理やって!! このダブルチームはきついって!!」

 そう泣き言を言いながら、それでも必死に体制を立て直しシュートフォームに入ろうとする北大路。


「北大路君!!」


 そんな北大路に掛かる声、西島だ。スリーポイントラインの所でぶんぶんと腕を振る西島に、苦し紛れに北大路がパスを出す。

「桐生! 慌てなくていい!! ファールにならないようにな!!」

「分かってるわ!!」

 ノーマークの西島にパスが通る。そんな西島とゴールの間、ドリブルで抜かせないように桐生がコースに入る。よし! それで――



「――――…………え?」



 そんな桐生を嘲笑うかのよう、西島がスリーポイントラインに足を揃えてショットを放つ。およそ素人とは思えないシュートフォームで放たれたそれは、綺麗な放物線を描いてリングを揺らすことなくゴールに吸い込まれた。


「……マジ?」


「……うん、まあまあですかね~?」


 呆気に取られる俺の目の前で、軽く右手を振ってにっこり笑う西島の姿が目に入った。


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[一言] 333の並び回で3on3でスリーポイント成功。
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