えくすとら! その百四十九 この、『何年も一緒に暮らしてます』的な古女房感
北大路の提案で始まったバスケ勝負……というか、遊びはまずチーム決めと相成った。
「……まあ、普通に考えて俺と秀明、北大路と藤田のペアだろうな」
俺と北大路は同じポイントガード、秀明と藤田は……まあ、センターとパワーフォワードだが、身長差考えたらこのポジション分けが一番だ。一番、なのだが……
「……俺と浩之さん、ですか……」
「……イヤなのかよ、秀明?」
「あ、いえ、イヤじゃないんですけど……なんでしょう、折角なら敵チームで戦いたいってのもあるんですよね」
「……ぼこぼこにしたいって事か?」
お前と俺の身長差で勝負なんて出来ねーだろうが。そう思い、ジト目を向ける俺に慌てて秀明が手を振る。
「そ、そうじゃないです! そうじゃないですけど……なんでしょう、こう……やっぱり浩之さんに勝ってナンボと言うか……」
「……お前、そんな好戦的なヤツだっけ?」
なんだ、コイツ。今までこんな事言ったこと無かったと思うんだけど? そう思い首を捻る俺に、ニヤニヤした顔でポンっと俺の肩に手を置く藤田。なんだよ?
「いや~、浩之。秀明、今は結構好戦的だぞ? まあ、浩之限定だけどな?」
「は? 俺限定だ? なんだよ? 俺、なんかしたか?」
「ちょ、藤田先輩!! そ、それは……」
「んだよ? 秀明、黙ってたら浩之、勘違いするぞ? 秀明に嫌われたんじゃねーかって」
なあ? と俺に問いかける藤田に首を縦に振る。秀明だって可愛い弟分だし、嫌われるのは避けたいところだ。そんな俺の態度に、秀明がぐっと言葉に詰まる。
「ま、秀明から言い難いよな? んじゃ浩之、ヒントだ。今日、なんの日だと思う?」
「……休日」
「いや、まあ休日なんだけど……そうじゃなくて。今日、桐生とか鈴木、それに賀茂なんかも泊まりに行くんだろ? お前の向かいの部屋に」
「……まあ」
今日は明美の部屋で女子会って言ってたからな。桐生も智美も涼子も参加するし、もっと言えば瑞穂とか有森、それに藤原も参加するんだろう? ああ、そういえば茜も――
「……もしかして茜絡みか?」
「せいかーい」
「マジかよ」
ジト目で秀明を見ると、もう一度『ぐっ』と言葉に詰まり、その後秀明がため息を吐いて見せる。
「……まあ、その……茜、ずっと『おにぃ、おにぃ』って浩之さんの話ししてて。こう……ちょこっと比べられると言いますか……」
「……なにやってんだよ、あいつ」
「ああ、その、勿論男女云々って話じゃないですよ? 茜って結構、ブラコンっていうか……俺もそれ自体は納得の上でこう、お付き合いしている訳で文句を言うのも違うと言うか……格好悪いとは思うんですが……その、浩之さん大好きじゃないですか、茜って?」
「……大好きかどうかは知らんが……まあ、仲良くはあるな、普通の高校生の兄妹の割には」
「だからまあ、やっぱり……こう、ちょっとした劣等感と言いましょうか……あ、勿論十分俺の事を考えてくれてはいるんですけど……その、浩之さんの前で言うのは何ですけど……」
「まあ、あんまり面白くは無いわな」
知らんが……まあ、桐生が豪之介さんの話ばっかりして、俺と比較するとしたらあんまり面白くは無いだろう。勿論、それ自身が自分の実力ということも分かるのだが、こういうのは理屈じゃねーしな。感情の話だし。
「だから、俺と勝負したいってか?」
「……まあ、有体に言えば」
そういってそっぽを向く秀明。男の子か。いや、男の子なんだけどさ?
「ほいでも、流石に浩之さんと藤田先輩のペアはキツイんちゃう?」
北大路の台詞に俺も頷く。藤田が巧くなってきているのは認めるが、流石に秀明相手じゃ分が悪い。加えて北大路がどんなもんか知らんが……インハイ二位の高校の次期エースだ。下手な訳は無いしな。
「そりゃ、そうなんだけど……でもな、北大路? 俺にも一応、こう……あんだよ、いろいろ」
「いや、まあ分からへんでも無いんやけど……エエんですか、浩之さん?」
「まあ、遊びだからいいっちゃ良いんだが……」
いや、俺だって負けるのは嫌なんだけどさ? でもまあ、秀明の気持ちも分からんでもないからな。いや、仲良さそうで安心したよ、お兄ちゃん。
「……はい」
さて、チーム分けをどうするかと悩んでいた俺らに、桐生が小さく手を挙げる。なんだ?
「どうした?」
「その……どうかしら? 私たちがチームに入るのは」
そういって西島の肩にポンっと手を置く桐生。おお……西島がめちゃくちゃ驚いた顔してる。
「何言ってるんですか、桐生先輩!? 私たち、スカートですよ? こんな格好で飛んだり跳ねたりしたら見えちゃうじゃないですか!! なんですか!? もしかして桐生先輩、痴女なんですか!?」
「失礼な事言わないで!! そんなわけ無いでしょ!」
そういってゴソゴソと持っている鞄を漁る桐生。掃除は得意ではないが、整理整頓は得意な桐生、目当てのものを直ぐに発見すると取り出して見せた。
「……なんですか、これ?」
「ハーフパンツよ」
「いえ、ハーフパンツは分かるんですけど……なんで出てくるんですか、鞄から。っていうか二着って……」
訝し気な顔を浮かべる西島に桐生は綺麗な笑顔を浮かべて見せる。
「今日、北大路君と一緒でしょ? きっとバスケがしたいってなるって思って……そうなると、アラウンドワンだと思ったのよ。東九条君のバスケを見るのも楽しいけど、どうせなら一緒に楽しめた方が良いでしょう? だから、ハーフパンツを持ってきておいたの。備えあれば憂いなし、というやつね。靴は貸してもらえるし、ティーシャツも販売しているから」
「……いや、そこまで想像出来たんなら最初からパンツスタイルで良いんじゃないです? 私だって事前に教えて貰っていればそういう恰好もしてきましたよ?」
西島の言葉にうっと言葉に詰まった桐生は先ほどまでの笑顔は何処に行ったかというほどにもじもじとし出して。
「そ、その……そ、それはそうなんだけど……せ、折角のデートじゃない? だ、だったら――」
――可愛い恰好とか、して……東九条君に、可愛いと思って貰いたいから、と。
「……東九条先輩」
「……何も言うな」
「……本当に洗脳とかしてませんよね? なんですか、この出来た彼女。ツーと言えばカーというか、正直、高校生で此処までって、ちょっと古女房感あって気持ち悪いんですけど?」
「……何も言うなって言ったじゃん……」
いや、滅茶苦茶嬉しいって言うか、有難いって言うか、分かってくれてるなって言うか、そういう気持ちが大きいんだよ? 大きいんだけどさ?
「……ラブラブですね、浩之さん……っていうか、桐生先輩」
「……すげーな、浩之……っていうか、桐生」
「……なんか別の意味で尊敬しますわ、浩之さん……っていうか、桐生さん」
……嬉しいけど……滅茶苦茶恥ずかしいんですけど!!




