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えくすとら! その百四十四 ブレない西島さん


「んで? その……北大路だっけ? そいつが琴美ちゃんのカレシ役をするって……そういうことか?」

「ん……まあ、そういう感じかな」

 北大路からの電話があった、翌日の土曜日。桐生といつもの面々が遊びに行くとのことで、俺は暇であろう藤田を呼び出してワックに繰り出していた。いや、まあ繰り出していたって言うほどの事は無いんだが……まあ、経過報告を兼ねてってな感じだな。別に、お互いの彼女同士が一緒に遊びに行ったからって拗ねたわけじゃねえぞ、マジで。

「どうだ? なんか不満か?」

「んー……その北大路って奴がどんな奴かしらねーから何とも言えんが……まあ、浩之のツレなんだろう? んじゃそんなに悪いやつじゃねーのかな、とは思う」

「……前から思ってたけど、お前のその俺に対する謎の信頼感はなんなんだよ。俺、そんな良いやつじゃねーぞ?」

「そっか? お前の周り、良いやつばっかじゃねーか。良いやつの周りには良いやつが集まる。だから、お前は良いやつなんだよ」

 あっけらかんとそういって見せる藤田に、しばし呆然。その後、俺はゆっくりとため息を吐く。

「……お前だってそうじゃねえか」

「俺のはまた別だよ。俺、馬鹿だからな」

「馬鹿って」

「有森にもよく言われるけど……『もうちょっと損得勘定もって下さい! いえ、それが藤田先輩の良いところですけど……なんとなく、もやっとします』って言われるし」

「……わかりみが深い」

「でもな~。俺、なんていうかつい、こう……動いちゃうんだよ、体が」

 そういって少しばかり気まずそうにたははと笑う藤田。そんな藤田に、俺は何か言葉をかけようとして。


「いや、マジで馬鹿だと思いますよ、藤田先輩」


 そんな俺の言葉を遮るよう、俺の隣に座った西島がコーラのカップから伸びるストローから口を離してそういって俺を見る。

「……っていうか、なんで私まで呼ばれているんですか?」

 胡乱な目をこちらに向ける西島。いや、まあこいつにも経緯説明を、それに出来るだけ早くしておかなくちゃいけねーだろ? でもまあ、流石に二人っきりでするのも――具体的には桐生が嫌がったからな。んで時間短縮も込めて三人で逢っているのだが……

「……なんか用事があったか?」

「……マジでムカつきますね、東九条先輩。ハブられたJKが休日に予定なんてあるわけ無いじゃないですか」

「だよな」

「うぐぐ……! だよな、じゃないですよ!!」

 いや、でもお前ぜってー暇じゃん。そんな俺の視線に、藤田が苦笑を浮かべて見せる。

「ま、まあまあ浩之。それより琴美ちゃん? やっぱり俺、馬鹿かな?」

 話をカットするために西島にそんな話を振る藤田。そんな藤田をジト目で見て、西島はため息を吐いた。

「はぁ……まあ? 私がそこまでお節介焼くつもりもないですけど? 先輩、もうちょっと自分の彼女大事にしておいた方が良いんじゃないです?」

「う……」

「まあ、前に藤田先輩を――利用ですね。利用して、東九条先輩とか古川君とオチカヅキになろうとした私が言うのもなんですけど……フツウ、振られた女にあそこまでします? しかもその時、先輩あの大女の事好きだったんですよね? そういうの、女子は嫌がりますよ?」

「……」

「今回の事にしてもそうですけど……首、突っ込み過ぎです。彼女からしたら面白くないでしょうし……そんなの、誰も幸せになりませんし」

 詰まらなそうにそういってストローに口をつける西島。そんな西島に、藤田は頭をかいて見せる。

「あー……反省します。そうだよな、流石に失礼だよな。他ならぬ彼女に」

「そうです」

「でも、西島? それって藤田の良いところだと思うんだが……」

 藤田の良いところは誰にでも優しく、見返りを求めないところだと俺は思う。いや、個人的には別にもうちょっと見返り求めてくれても良いとか思ったりもするけど……ともかく。

「そんな藤田を全否定か?」

「知ったことじゃありませんもん、藤田先輩の優しさなんて。私が言っているのはフツウの彼女なら嫌がるってことです。あの大女も言ってるんでしょ? 嫌だって」

「……まあ。明確には言われてはねーけどな」

「そりゃ言いませんよ。あの大女、藤田先輩にベタ惚れですもん。嫌われたくないって思ったら言えませんよ」

「……」

「優しいのは良いことですけど、優しくする相手間違えてませんか? って話ですよ。ま、その話はどうでも良いです。それで……北大路さん? 北大路君? 同級生ですよね?」

 そういってこちらに視線を向ける西島に俺は首を縦に振って見せる。

「ああ、お前らの同級生だ。京都のバスケの強い高校に行ってて……まあ、なんだ? 家柄も良いお金持ちだ。性格だって悪くは無いし……良いやつだな」

「ふーん」

 そういって興味なさそうにスマホに視線を移す西島。

「……興味なさそうだな?」

「まあ、そんなに興味もありませんよ? だってその北大路君? アレでしょ? 明美さんと婚約したくないから私と偽の恋人関係になろうって事でしょ?」

「……まあな」

「正直、私にあんまりメリットがある提案だとは思いませんけど」

 ……だよな。よくよく考えなくても、もともとこの恋人関係だって『西島の居場所を作る』って意味だったのに、ニセモノの恋人じゃ居場所もへったくれもあったもんじゃないし。

「不満か?」

「別に。私が『シンジツのアイが!』みたいなこと言うタイプに見えます?」

「……ごめん、全然見えない」

「まあ、でもその話には乗りますよ、一応。明美さんには助けてもらった恩もありますし………居場所云々はともかく、私をハブにしたアイツらにマウント取れるんならそれも一興ですしね。バスケ部のカレシとか自慢してたし……ぼこぼこにして貰おうかな~。それぐらいの役得はあっても良いんじゃないです?」

 そういって悪い笑顔を浮かべる西島。

「……お前、ブレねーな?」

 呆れ交じりにそういう俺に、慌てたように藤田のフォローが入る。

「そ、その、琴美ちゃん? 本当に大丈夫か? こう、なんかすげー達観したような顔しているんだが……な、なんかあったら相談くらいには――」


「だから、そういう『優しさ』見せるなって言ってるでしょ、藤田先輩? まじで馬鹿なんですか?」


 そんな藤田に冷たい視線を向けて、西島は詰まらなそうにスマホの画面に顔を戻す。

「……まあ、この辺りが妥当かな、とは思うんですよね~。元々私は『ニセモノ』ですし。お姉ちゃん達みたいなホンモノじゃない私には、ニセモノのカレシぐらいがちょうど良いんですよ」

「西島……」

「ああ、別にアレですよ? 同情買おうと思って言ってるわけじゃないんです。むしろ、身の丈にあった結果だなって感じです。さっきも言ったけど、別に真実の愛とか言うタイプじゃないですし。むしろ」


 此処までしてくださって、感謝ですよ、と。


 相変わらず、スマホから顔を上げずにそういう西島。その姿は――なんだろう? 憎まれ口や、捻くれた口調をしているも、なんだかさみしそうにみえて。

「……にしじ――」


「東九条先輩」


 喋りかけた俺を、制する様に。

 西島はスマホの画面から、顔を上げて。



「――北大路君ってこの子ですか!? 『バスケ 京都 北大路』で検索したら一発で出て来たんですけど!! え? え? イケメンじゃないですか!! この上お金持ちで、優しいんですか!? いや、マジで私の人生、勝ち組じゃないですか!? これで完全にあいつ等にマウント取れますよ!! ナイスです、東九条先輩!!」



「……ホントにブレねーな、お前」


 にこにこな笑顔で北大路の動画を、まるで印籠の様に俺に見せる西島に俺は大きくため息を吐いた。



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