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えくすとら! その百三十五 興味ないので、私。


「……なんだかとんでもない言葉が聞こえてきたのですが……こーらしゃんぷー? なんですか、それは?」

 西島の言葉に不思議そうな顔をする明美。いや、まあ、うん……普通なら何かの隠語かなんかだと思うよね?

「……文字通り、コーラでシャンプーする事だよ」

「……は?」

 きょとんとした顔を浮かべる明美。ついで、何かを考え込むように中空を見つめて。

「……食べ物で遊ぶのは感心しませんが」

「……だよね」

 まああれは遊びではなく、ある意味で戦いではあったのだが。

「まあ、それは良いです。過去の事ですし、今更言ってもどうしようもありませんから。それで? 西島さんは何故、学校のある日に制服で駅前を徘徊していたのですか? 浩之さんは関係無いとほぼ確信を得てはいますが……」

 明美の言葉に気まずそうに視線を逸らす西島。そんな西島の逸らした視線が、俺に向けられる。なんだ?

「言えってか?」

「……自分で言うのはちょっと……なので東九条先輩がオブラートに包んでいって貰えませんか?」

 恥ずかしそうに髪の毛をちょいちょい突きながらそんな事を言ってくれる西島。まあ、そうだよな。なんでサボっていたか、までは知らんが、今までの状況を考えればまあある程度は想像も付くし。

「西島は――」

 一息。


「学校でえらく調子こいてたせいで、仲良しグループからハブられてんだよ。だからまあ、それが面白くないと思って、サボったんじゃねーの?」


「オブラート!! ちょ、東九条先輩!? オブラートって何か知ってますか!?」

 俺の言葉に反論の声を上げる西島。あ、あれ?

「いや、だいぶオブラートに包んで無いか?」

「どこが!? 貴方、オブラートの意味って分かります!? なんです? 貴方のオブラートはどんだけ薄いんですか!?」

 そ、そっか? でもほら、性根がねじ曲がってることとかは言ってないし、ある程度オブラートに包んではいたんだが……

「もういいです! ともかく、明美さん!! 別に私は学校で……くぅ……は、ハブられてるから学校サボった訳ではありません!! 単純に、今学校に行っても面白くないからいってないだけです!!」

 顔を真っ赤にして俺を一睨みした後、明美にそういう西島。そんな西島の言葉に、明美が深刻な顔で頷いて見せる。

「……イジメ、ですか?」

「イジメじゃありません!! 意見の不一致です!! それに、別にアイツらにハブられても気にしてませんし!! ナめた真似しやがってとは思いますけど……別に、それで辛くて学校に行けないとかじゃありませんから!!」

 そういって西島は明美に強い眼差しを向ける。それはまるで挑むような視線であり、その視線を受けた明美は、しかして冷静さのままでその視線を受け流す。

「……ふむ……つまり、西島さんは学校でお友達と喧嘩をしてしまい、あまり学校が楽しくない。それで学校に行かずに駅前で遊んでいた、と……そういう事ですね」

「……そうです」

 明美の言葉に一瞬視線を下げる西島。だが、その後上げた視線には挑戦的な色が宿っていた。

「……それで? 助けて頂いたことには感謝しますが……『学校にはちゃんと行け』とか言うんですか? 見ず知らずの私を助けてくれた明美さんですし、正義感から言うんですか? 私のお姉ちゃんや、いずみちゃんみたいに――」


「まさか。言う訳ないじゃないですか、そんな事」


「――ちゃんと……はい?」

「言う訳ない、と申したのです。いい大人、とは言いませんが義務教育を終えている以上、学校を自主休校にするデメリットとそれで得られるメリットを天秤にかけて判断し、その後に発生する責任が取れると判断したのであればお好きな様にして下されば宜しいのでは無いですか?」

「えっと……」

「私はたまたま目が合ったから助けただけです。まあ、人よりは正義感も強い方だと自負はしておりますが……私がするのはそこまでです。後の事など知った事ではありませんから。貴方のお姉さまや、そのいずみさん? という方は貴方の近しい人なのでしょうから苦言も呈すでしょうが……生憎、私はそこまで貴方に執着はしておりませんので。此処に連れて来たのも浩之さんの事をご存じだと思ったからですし……」

 そういって困った様に頬に手を当てる。

「それでもどうしても、と仰るなら学校には行った方が良いですよ? 自主休校は内申点にも響きますし、あまり褒められた行為で無いのは事実です。貴方の恰好や、先ほどの浩之さんの話を聞く限り、決して褒められた学校生活を送っている訳ではなさそうですし」

「!! わ、分かってます!!」

「はい。ですからそれが分かっているのなら、もう、お好きな様にとしか……私には然程関係ない事ですし。取り合えず、浩之さんに関係が無いことが分かれば、それで」

 明美の物言いにパクパクと口を開閉させる西島。なんというか……うん、まあ、気持ちは分からんでもないが。

「……そういう事らしいぞ、西島」

「……いえ、別に私も期待していたわけじゃないですけど……なんなんですか、あの人。助けてくれたと思ったら、急に突き放す様な言葉言ってますし……普通、もうちょっといい事言いません? いい人かと思ったのに」

「……目が合ったから助けたって言ってたろ? そういう意味では十分『いい奴』なんだよ、あいつも」

「……藤田先輩といい、あのコーラシャンプーのデカいのといい、桐生先輩といい、明美さんといい……東九条先輩の周りって、ヤバい人ばっかですね?」

 ……やかましいわ。

 


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