えくすとら! その百二十三 困った時の浩之君
今年最後の投稿になります。本年もありがとうございました。今年は色々あったな~としみじみ……
本作も賞を頂いて出版準備は着々と進んでおります。情報解禁になりましたらまたご報告させて頂きますので、引き続きご愛顧頂ければ!
皆さま、良いお年を~
「おはよう」
「ん? おー! おはよ、浩之! なんだ、辛気臭い面しやがって? なんかあったのか?」
「誰のせいだと……まあ、良い」
翌日の朝、自分の席に鞄を置いた俺はその足で藤田の下に向かって朝の挨拶。俺に気付いた藤田は見ていたスマホから目を上げて、俺に気さくに挨拶を返して来る。ったく……こっちの気も知らねーで。そう思い、俺は藤田の前の席――佐久田君の席に勝手に腰を降ろして藤田をジト目で見る。
「……なんだよ、その不景気な目は。なんだ? 俺、なんかしたか?」
「……いや、お前は別に何にもしてねーよ。俺が勝手に悩んで――つうか、もんもんとしてるだけだからな。だが、その原因がお前であることには間違いないわけで、そんなお前が能天気な挨拶をしてきたんでちょっとカチンと来ているのが現状だ」
「……なんか物凄く理不尽な事を言われている気がするが……なんだよ、俺のせいって?」
「……バスケ部」
「あん?」
「バスケ部、マジで入んのかよ?」
「あー……その話か」
俺の言葉に苦笑を浮かべてポリポリと頬を掻く藤田。
「……まあ、昨日も言ったけど入ろうと思ってる。理由は、まあこれも昨日言った通りだな。琴美ちゃんが心配だし、何より有森が心配だ。あの二人、仲良くは無いからな。そういう事をする人間じゃないと信じてはいる。いるが……まあ、有森だって人間だからな。負の感情が出てきてもおかしかねー。しっかりしている様に見えるけど……アイツもまだ高校生だしな」
「……同じ高校生から出る台詞じゃねーだろ、それ。まあお前ぐらいだろうな、利用されても笑って許してやるやつは」
「俺も別に利用されて笑って許してやるわけじゃねーけど……まあ、それはいいさ。そういう訳で、俺はバスケ部に入ろうと思う。まあ、言い方アレだが二人の見張りも兼ねてな」
「……バスケ部に失礼、とかは?」
「勿論、真剣に練習に取り組むさ。最近、バスケ自体は面白いと思ってるしな。ツレもいるし、佐島も入れって言ってくれてたし……ある意味、渡りに船じゃないか?」
「……そうかい」
「……なんだ? まだ不満か?」
「……不満っていうか……」
……なんだろう。別に不満では無いんだが……
「……納得感がない」
「納得感? アレか? バスケをする動機としては不純、とか……そういうのか?」
「ああ、いや、そうじゃなくて……」
……ああ、そっか。
「なあ?」
「あん?」
「俺、お前の親友なんだよな?」
「おお! 俺はそう思ってるけど……なんだ? 浩之は違うのか?」
「……」
「……え? 違うのか? 俺の片想い?」
「……気持ち悪い事言うな。つうか、大体悟れ」
なんだよ、親友って。いや、こいつは良い奴だし、親友というのも吝かじゃない、というかウェルカムだが……なんというか、高校生男子が朝の教室で『親友!』とかこっぱずかしくないか?
「……まあ、それは良い」
「いや、なんか俺、若干納得言ってないんだけど……」
「良いの! ともかく……なんだ? お前が俺の事を親友って言うのなら……なんだ? その……アレだ」
「……なんだよ? 情報が一バイトも増えてないんだけど?」
「だ、だから! その……な、なんだ? こ、心細いんだったらな?」
――俺も一緒に、バスケ部に入ろうか? と。
「……」
「……」
「……うわ」
「うわってなんだよ、うわって!」
「いや……その、なんだ……なんだよ、そのツンデレ?」
「うっせーわ!」
思ったよ!! 俺だって『あ、これツンデレみたいな台詞だ』って思ったよっ!! そして気持ち悪いのも自覚済みだコンチクショー!
「……もういい」
「わ、悪かったって! つ、つい本音が出たけど……その、なんだ、気持ちは嬉しいけど……大丈夫だ」
「……本音かよ」
……まあ、実際気持ち悪かったしな。それはともかく。
「……大丈夫ってのは?」
「だから、別に浩之にまで入って貰う必要は無いって事だよ。俺が一人で解決するから! 浩之はまあ、ゆっくり桐生と愛でも育んでくれ!」
「……邪魔って事か?」
「そ、そうじゃない! そうじゃないけど……」
少しだけ、言い難そうに。
「……迷惑、だろ? お前、バスケ部入る気ねーって言ってたし。大変だろうし」
……そんな、藤田の言葉に。
「……おまえ、俺の事舐めてんのか?」
ついつい、頭に血が上った俺は藤田の胸元を掴み上げる。
「ひ、浩之!?」
「……迷惑だ? 俺がお前から掛けられる『大変さ』を迷惑だと思うと思ってるのか? 『親友』の俺が」
「っ!」
「……すまん、気が立った」
藤田の胸元から手を離す。そんな俺に視線を送る藤田に、俺は言葉を継いだ。
「……散々、こっちがお前に掛けて来ただろうが、迷惑。今更お前から多少の頼み事されても迷惑なんて思う訳ねーだろうが」
「……だけど、じっさ――」
言いかける藤田を手で制して。
「……本当にお前が困って無いって言うなら、俺がこれ以上言う言葉はない。だが、本当は俺の手でも借りたいと思ってるのにも関わらず、俺に遠慮してそれを言わないなら」
お前、二度と俺の親友なんて名乗るな、と。
「頼りっぱなしで、全く頼られないのは対等な友人とはいわねー。散々お前を利用して、利用しようとした西島とか雨宮先輩と一緒だろうが」
「……」
「……マジで全然困って無いなら謝る。だが、ほんの少しでも心細いと、どうしようかと思っているのなら」
俺を、頼れ、と。
「……ツレってのはそういうもんだろうが」
「……」
「……」
「……違うか?」
「……浩之」
「なんだ?」
俺の視線の先で、藤田は笑っているような、泣きそうな様な笑顔を浮かべて。
「……お前……良い奴だな……」
「……お前ほどじゃねーよ」
いや、マジで。




