えくすとら! その百二十二 男のツンデレって、誰得って話だよね?
「それで? 東九条君はどうするの?」
「ん?」
一通りいちゃいちゃして――まあ、これ以上いちゃいちゃすると流石に俺のペーパークラフト並の理性が崩壊すると思いソファに座りなおしてコーヒーを飲みながらまったりしていると隣に座った桐生が上目遣いで聞いてくる。止めて。可愛いから。
「どうするって?」
「藤田君がバスケ部に入るんでしょ? 貴方はどうするのかな~って」
どうなの? と、不安でありながら期待をする様な視線をこちらに向けて来る桐生。ええっと……
「どうするって? 俺もバスケ部に入るかって話か?」
「そうよ」
「いや……なんでよ?」
藤田がバスケ部に入るのはまあ、良いだろう。個人的にはもうちょっと考えろよとも思うけど……本人の意思がそうなら俺から言う事は特にねー。
「だって東九条君、藤田君の事心配じゃないの?」
「あー……まあ、そりゃ、な」
正確には藤田が、というが有森がという感じだが。
「正直、藤田の心配はあんまりしてないんだよな。なんだかんだあいつ、友達も多いし、運動神経だって決して悪くない。佐島がスカウトしたぐらいだし、バスケ部としても……まあ動機はともかく、ウェルカムだろうしな」
「まあ、そうかもしれないわね」
「でも、有森は――つうか、西島はどうだろうか?」
「西島さん?」
「ああ。だってお前、あいつ前科持ちだろ? 藤田を利用した」
「前科持ちって……まあ、そうだろうけど」
「藤田の事だ。『先日はすみませんでした』なんて西島が謝ったら『ま、気にするな』って簡単に許しそうな気がしねーか?」
「……どうしよう。物凄く簡単に想像が付くわ」
「だろ? って事になったら、だ。西島、きっと調子に乗るぞ? 『藤田先輩に許された私』を前面に押し出して藤田にアタック掛けるんじゃね?」
俺の言葉に、桐生が大きく目を見開く。その後、気まずそうにおずおずと口を開いた。
「その……いい?」
「どうぞ」
「その、西島さんって……昔、告白した藤田君を振ったのよね? その西島さんが、藤田君にこう……なんていうかしら? 男女の情を浮かべるって、貴方はそう言うの?」
桐生の言葉に、俺は首を振る。
「いいや。西島、面食いっぽいし、藤田じゃ満足しないんじゃね?」
横に。そんな俺をポカンとした顔で見る桐生に、俺は言葉を続ける。
「まあ、絶対にねーとは言えねーけどな。男女の恋愛なんてどうなるかなんて……その、なんだ? 俺ら見てたら分かるだろ?」
桐生の顔が真っ赤に染まる。そんな桐生を見ながら、俺も自身の頬が熱を持ったのを感じた。
「……そうね。最初の出逢いこそ良好とは言えなかったけど……今は、私、凄く幸せだもん」
「……それは俺もだよ。ま、それはともかく……そういう良い風に変わればまだ良いんだが……」
「良いの?」
「後は藤田の意思の強さの問題だからな。ま、藤田なら大丈夫だとは思うが。問題はそっちじゃなくて……ほれ、西島、今孤立っつうか……まあ、ハブにされている状態だろ? んで、藤田が簡単に許してくれて……んで、優しくしてみろよ?」
「……うわ」
想像に難くない。だって、西島だぞ? 絶対、藤田利用するだろ?
「男女問わずだが、高校生なんて『オトモダチ』が多い方が良いだろ? それも西島みたいなキャラなら、『オトモダチ』の多さがステータス! とか思ってそうじゃね? そんな西島は今の『ぼっち』状態ってきっと耐えられないんじゃねーかと思う」
「……」
「そこで藤田が優しくしてくれたら、きっとアイツ、調子に乗るぞ? 『私、ぼっちじゃないし!』とばかりにな」
知らんけど、でもそうじゃねーかな、とは思う。だってお前、西島だぞ? そりゃそう思うだろ?
「その……そこまで……なんだろう? 西島さんが『おバカ』とは……」
「は? 何言ってんだ、桐生。西島がおバカだから今あいつ、この状態になってんだろうが」
西島先輩も散々注意しただろうが、アイツが生活態度改めなかったから、こんな状態になってんじゃねーの?
「……」
「ま、ともかく西島の性格考えると絶対に藤田にくっついて行くんじゃねーかと思ってんだよな。しかも男バスのマネだろ? 合法的にいちゃいちゃ出来るし」
「い、いちゃいちゃって」
「言い方変える。いちゃいちゃしている『様に』見える。お前、有森がそれに耐えれると思うか?」
「……う」
「俺、間違いなく切れると思うぞ、有森」
コーラシャンプー事件再びになるか、泣きはらした目で相談に来るかは分からんが……少なくともどちらかの方向に『切れる』とは思う。まあ、『藤田先輩なんてもう知らない!』とはならんと思うが。ベタ惚れだしな、有森。
「とまあ、そういう訳で西島がバスケ部の男マネになったらそうなる可能性はかなり高いとは思う。だがまあ、それもあいつらの問題だしな」
「……なんか冷たい気がする」
「そうか? あんまり俺が首を突っ込むのは違うだろ? そもそも、藤田に頼まれた訳じゃねーし」
俺の言葉に、少しだけ不満そうな顔を見せる桐生。も、その顔も一瞬、何かに閃いた様ににっこりと笑顔を浮かべて見せた。
「ねーね?」
「……んだよ?」
「今、東九条君、『藤田に頼まれた訳でもねーし』って言ったわよね?」
「……言ったが?」
「……それって、裏を返せば『藤田君に頼まれたら協力してあげたい』って事かしら?」
そう言ってニヤニヤとした感じの悪い笑みを浮かべる桐生。う……
「……お前みたいな勘のいい奴は嫌いだよ」
「えへへ! やっぱり東九条君は優しいね! 何が、『あいつらの勝手』よ。ほんとに天邪鬼なんだから!」
心から楽しそうな笑顔を浮かべる桐生に俺は肩を竦めて見せる。うっせーですよ。男のツンデレなんて誰得だよ、ばーか。




