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えくすとら! その百十五 佐島君の頼み事


「……佐島君」

「同級生だろう? 君付けは要らない。佐島で良い」

「……佐島」

 そう言いながらバスケコートに入って来る佐島……と、藤田と有森。えっと……なんだ、この組み合わせ?

「……藤田?」

「佐島がどうしても浩之に会いたいって言うから」

「有森は?」

「部活の連絡網がありますから。それで、佐島先輩から連絡貰って……藤田先輩と東九条先輩に用があるって」

 佐島が俺に用がある? そう思いつつ、視線を佐島に向けると、佐島は少しばかり言い難そうにこちらに視線を向けた。

「急に訪ねて悪かったな。休日で遊んでいる所だったろうに」

「いや、それは構わんが……用ってなんだ? 俺、なんかしたか?」

 休日にわざわざ、しかも遊びにいった先にまで押し掛けるなんてちょっと尋常じゃない気がするんだが。思わず身構える俺に、佐島は苦笑を浮かべて手を振って見せた。

「違う違う。まあ、用って言うよりは頼み事に近いんだが……」

「頼み事?」

「ああ」

 そう言って佐島は一息。


「東九条、それに藤田……頼みがある。その……バスケ部に、入ってくれないか?」


 ……はい?

「……は?」

「ば、バスケ部に入れ?」

 俺と藤田、きょとん。そんな俺に、佐島は一気に捲し立てる。

「こないだの市民大会、見ていた。東九条がバスケが巧いのはこの間の体育の時間で分かっていたつもりだったが……正直、舌を巻いた。お前、とんでもないな」

「そりゃ……どうも」

「あのレベルで出来るんなら、絶対バスケ部に入っても活躍出来る筈だ! どうだ? 一緒にバスケをしてくれないか? 藤田もだ!」

「ちょ、待てよ!! 浩之はともかく、俺もか? 俺、バスケはド素人もいいとこだぞ?」

「お前がド素人なのは知っている。中学時代、陸上部だろ? だがな? お前のあの体力と根性、ひた向きなプレイはある意味で感動すら覚えた! だから……頼む、お前ら二人とも、バスケ部に入ってくれないか!!」

 そう言って頭を下げる佐島。いや、ちょ、え、ええ~。

「……つうかだな? そもそもなんで俺らをバスケ部に入れようとするんだよ? なんだ? バスケ部は人数が足りないとか、そういうレベルなのか?」

「いや、そんな事はない。人数は充分足りている」

「だったらお前、そんな所に俺らが入ったらヤバいんじゃないか? 今の話だったら、俺ら二人ともレギュラー入りをするって事だろう?」

 そんなに簡単に行くかどうかは知らんが……まあ、ぶっちゃけた話、佐島がキャプテンで実力的にキャプテンになっているんだったら、俺の方がきっと巧い。感じ悪いって思うなよ? これは客観的な事実だ。

「そうなったらお前、バスケ部のレギュラーだった奴が良い顔しないんじゃないか?」

 バスケは五人でやるスポーツだ。まあ、走りっぱなしのスポーツだから当然メンバーの入れ替えなんかはあるし試合に出る機会は多いだろうが、それにしたって『スタメン』と『控え』の意識差はあるからな。少なくとも、面白いとは思えんだろう。

「問題無い。藤田に関しては……すまない、レギュラーの座を確実に約束する事は出来んが、東九条に関しては問題なくレギュラーになれるし」

 佐島はそう言って自分を指差し。

「そうなってレギュラー落ちをするのは俺だ。ポイントガードだろ、本職? 俺もそうだからな」

 ……は? なんだ? こいつ、自分がレギュラー落ちしてでも俺をバスケ部に入れたいってか?

「……順を追って話せ、佐島。意味がわからん」

「ああ……そうだな、これだけ聞いたら意味が分からんか。すまんな、先走った」

 佐島は苦笑を浮かべてそう謝罪をし、再び口を開いた。

「自分たちで言うのもなんだが……なんだ、俺らのバスケ部は弱い。それこそ、レクリエーション紛いの市民大会で一回戦負けする程度に弱いんだよ。しかもダブルスコアのボロ負けだ」

「……ダブルスコアだったのか」

 一回戦負けは知っていたが……え、ええ~。

「……しかも相手は近所のバスケ同好会のおじさん連中にだ」

「……」

 言葉も無いんだが。いや、それは流石に……

「……弱すぎないか? いや、失礼かも知れんが」

「失礼じゃないさ。先輩方も殆どやる気がないしな。推薦を狙う先輩もいるし、『部活をやっていました』という内申点稼ぎの面も大きい。受験をする先輩は友達がいたからとか、家でダラダラするよりは、という感じだしな。夏の大会を待たずに引退する予定だ」

「……マジかよ。最後の夏じゃねーのか?」

「『どうせ一回戦負けだし、時間の無駄。それなら受験勉強する』と……」

「……」

 エンジョイバスケ臭は強いと思っていたが……此処までかよ。

「……俺はキャプテンになる事が決定した。俺自身、今のバスケ部が良いとは思って無いんだ。なにより、俺はバスケが好きだ。だから、好きなバスケには一生懸命打ち込みたいし……出来れば、勝ちたい。後輩たちにも『勝利』の味を教えてあげたい」

「……自分がレギュラーから落ちてもか?」

「そこはそんなに重要じゃないんだ。それに……俺だって別に遊んでいた訳じゃない。練習だってしているしな。他のヤツだってそうだ。俺らの同期も後輩も勝ちたいし、勝つためならどんな努力でもする。そこでレギュラーを落ちたからって恨み言を言うやつらじゃない」

「……そんなチームなのにダブルスコアかよ」

「……色々ある……いや、あったんだ。でも、それも解決された。だから頼む」

 そう言って佐島はもう一度頭を下げて。


「――頼む! 二人とも、バスケ部に入ってくれ!!」



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