えくすとら! その百十二 バスケ対決、はっじまるよ~
アラワンに到着した俺らは、バスケットコートとボールを借りて軽くウォーミングアップ。こういう事もあろうかと、桐生も俺も運動しやすい恰好してきて良かったよ。
「んで? チーム分けはどうする?」
ドムドムとコートについていたボールを瑞穂にパスを投げながら視線を向けると、満面の笑みで瑞穂は口を開いた。
「勿論、私と浩之先輩チーム対彩音先輩、理沙チームです!!」
「……まあ、無難っちゃ無難か」
この中では……まあ、男女差、体格差考えて俺が一番だろうし、瑞穂はリハビリ中だ。藤原も桐生も巧いが、ある程度拮抗した勝負になるんじゃね?
「……なんだよ?」
そう考える俺に、瑞穂が不満そうな顔をして見せる。なんだよ?
「むー……浩之先輩、『いい勝負が出来そうなチーム分けだな』とか思ってるでしょ?」
「思ってるけど……」
あれ? 駄目なの?
「そうじゃないです!! 良いですか? これ、『デート』ですよ!! デートならパートナーが一緒のチームに決まってるじゃないですか!!」
ぷくーと頬を膨らます瑞穂。お、おお。
「そ、そっか。そりゃ悪かった」
「そうですよ!! 良いですか? 私と浩之先輩の愛の力で彩音先輩と理沙を倒すんです!!」
「愛の力って」
いや、一番向けるべき相手を倒しちゃダメな気がする……あれ?
「……どうした、桐生? なんかすげー疲れた顔してるけど?」
俺の声に桐生が視線をこちらに向ける。なんだか疲れた様なそんな表情に、少しだけ眉根が寄る。
「どうした? 体調、悪いのか?」
「いえ……体は元気なんだけど……少しばかり、精神が……」
「精神?」
「……何でもないわ。取り敢えず、私が思うよりも理沙さんは……色々と『濃い』人だったのが分かる」
ちらりと視線を藤原に向けると……おお、なんか艶々している気がする。
「……何があった?」
「……理沙さんのプライバシーだからあまり言えないわ。ただ……そうね、私も読書『オタク』な所があるし、好きな事なら語りたくなる気持ちも物凄く分かるけど……これからは少し控えるわね」
「……マジで何があった?」
「……人のふり見て我がふりを直そうかと」
そう言って疲れた様にため息を一つ。気を取り直す様に笑顔を浮かべて、桐生は俺と瑞穂を見やった。
「それで? 私と理沙さんがチームで、東九条君と瑞穂さんがチームね?」
「はい! 良いですか、彩音先輩?」
「まあ、今日の所はそれで良いわ。それに……そう言えば私、東九条君と一緒のチームになったり、隣に居たことはあっても、敵対した事は無いから。『敵』としての東九条君ってのも新鮮で良いかもね?」
そう言って好戦的な視線をこちらに向ける桐生。あー……最近ポンコツ可愛いから忘れてたけどコイツ、基本的に負けず嫌いの『悪役令嬢』だもんな。
「……ま、お手柔らかにな」
「何を甘い事を言っているのよ? 全力で来なさい。叩き潰してあげるわ!!」
「へいへい。んじゃまあ、俺も負けない様に叩き潰してやるかね」
楽しそうにそう言って笑う桐生に肩を竦める。そんな俺を見ながら、一瞬、むっとしながらも……それでも、桐生はチラチラと周りを窺うと、こちらにトテトテ寄って来て耳元に唇を寄せて。
「……ば、バスケの時だからね? 普段は、ひ、浩之と敵対なんかしたくないからね? いっつも仲良しが良いからね? 勘違いしないでね?」
少しだけ頬を染めてそう言う。
「……わーってるよ」
「ほ、ほんと?」
「遊びは真剣にやった方が楽しいって事だろ?」
「……うん」
桐生の頭をポンポンと撫でる。そんな俺らを苦虫を噛み潰した様な表情で見つめて、瑞穂はボールをこちらに投げる。
「……いちゃいちゃして……さあ! それじゃ始めましょうか! 言っておくけど、遊びじゃ無いんですからね!!」
瑞穂からのボールを受け、小さくため息。目の前の桐生に視線を向けると……
「さあ、来なさい!!」
既に腰を落としたディフェンスを展開中。うん、良いディフェンスだな。そんな桐生を見ながらダンダンとボールをついて。
「――っ! 右!!」
右から抜きに掛かる。そんな俺の体にしっかり反応し、同じように体を動かして、そのまま俺の右手に向けて手を伸ばす桐生。
「甘い」
そのまま、桐生からボールを庇う様に背中を向けてターン、そのまま反対方向、左側に抜きに掛かると、その場所には既に桐生の姿があった。マジか! あのスティールがフェイントかよ!!
「貰った!!」
桐生の手が再びボールに伸びて来る。たまらず俺はボールを掴んで睥睨すると。
「浩之先輩!!」
桐生の陰から瑞穂が飛び出す。俺から見て左、そちらに向かって走り出す瑞穂にパスを出そうとすると、桐生の手がパス方向に伸びる。
「出させないわよ!!」
完全にパスコースを防ぐように手を伸ばす桐生に、投げかけたボールを一度止めると、そのまま背中を回してパスを出す。アレだ。ビハインドバックパスというヤツだ。
「そのコースは読んでますよ、東九条先輩!!」
そんなパスコースに飛び出したのは藤原。桐生の手を交わす軌道を描き、瑞穂の手に届くであろうコースの間に体を割り込まして手を伸ばす。このままではパスカット必至。
「浩之先輩!!」
「だよね~」
先ほどまで左に居た瑞穂が既に反対側、右側に走り込んでいた。その声に驚愕の顔を見せる藤原と桐生。うん、こいつら前しか見て無かったから後ろにいた瑞穂の動きに気付かなかったな?
「大丈夫! パスミスよっ!!」
既にボールが俺の手から離れている以上、飛んでいくボールの先に味方の姿はない。このままじゃルーズボールを藤原に取られて、ハイ、おしまい。
「そんなタマじゃないでしょ、浩之先輩!!」
「……女の子がタマとか言うな」
右手から放たれたボールが、俺の背中を通り無人の――敵しかいないコートに放たれるのを防ぐように。
「ナイスパスっ!!」
俺は左肘で反対側にボールを弾き飛ばす。そのまま瑞穂の手に渡ったボールは、瑞穂の綺麗なシュートフォームで放たれるとそのままリングに吸い込まれた。
「ナイスシュート!!」
「浩之先輩もナイスパス!!」
右手を上げる瑞穂に俺も右手を打ち合わしてハイタッチ。そんな姿を呆然と見ていた桐生が、はっとした様に声を上げた。
「な、なによアレ!?」
なによって……
「普通のエルボーパスだけど?」
『普通なの、アレ!? 試合で見た事ないんだけど!!』という桐生の声が響くが……まあ、あんまり普通じゃないな。つうか、精々成功率三割ぐらいだし、試合じゃ絶対使わないんだが……まあ、いいじゃん、今日ぐらいは。




