えくすとら! その百十 なにがとは言わないが、濃い目の人
先日、第2回集英社WEB小説大賞において金賞を頂きました。応援して下さった皆様、本当にありがとうございます。何事も無ければ書籍化出来そうです。皆様……桐生さんの可愛らしいイラストがようやく見えるぜっ!! ありがとう!! 本当にありがとう!! 書籍化に関する詳細な情報(イラストレーターさんや発売日など)は情報解禁出来るようになりましたら随時ご報告させて頂きます。今後ともよろしくお願いします!!
尚、今回は桐生さん視点のお話になります。
「お待たせしました~!!」
「……おせぇよ」
「もう! 浩之先輩、そこは『俺も今来た所だよっ!』でしょ? そんなんじゃモテませんよ? 良いんですか!!」
「……もういいよ、別に。桐生にモテてれば」
「ぶぅ! デートなのになんでそんな事言うんですか!!」
そう言って瑞穂さんは私――桐生彩音に視線を向けて。
「……彩音先輩も申し訳御座いません。今回は我儘を……それと、お待たせしました」
丁寧に腰を折る。気にしないで、と片手をひらひらと振って見せる。
「……私達も今、来た所だから」
「……そうですか? それでもお待たせして申し訳御座いません。それと、浩之先輩!! これです! これを見習って下さい!!」
「……はいはい」
面倒くさそうにそう言う東九条君に『もう!』なんて頬を膨らませながら、それでも嬉しそうに笑う瑞穂さんをみつめて。
「……貴方も災難ね、理沙さん」
「……たははは」
隣で苦笑を浮かべる理沙さんに声を掛ける。そんな私に、困ったような顔のまま理沙さんが口を開いた。
「……まあ、良いんですよ。私、彩音先輩とも遊んでみたかったですし。それに……彩音先輩の前で言うのも何ですけど、瑞穂が東九条先輩の事好きだったのずっと見てましたし……正直、よかったな~って気持ちもあるんです。そういう意味では彩音先輩こそ被害者じゃないんです? 本当に良かったんですか?」
心配そうにそう聞いてくれる瑞穂さんに肩を竦めて見せる。
「……良い、悪いで言えばそりゃ良くないわよ? 自分の彼氏と他の女性がデートしている姿を見せつけられるのよ? 理沙さんならどう思う?」
「……控えめに言って最悪ですね」
「でしょ? だからまあ、面白くは無いわね」
正直、面白くはない。
「でも……その、色々あったでしょ?」
「……はい」
「瑞穂さんの怪我の……お陰、という言い方は良くはないと思うけど、怪我をきっかけに東九条君がその、わ、私の事を真剣に考えてくれたのは事実だし、そういう意味では瑞穂さんは恩人でもあるわ」
そう言って目を伏せる私に、理沙さんが困ったように笑みを浮かべて見せた。
「……人が良いですね~、彩音先輩」
「……そうかしら?」
「そうですよ。そりゃ、確かに瑞穂の怪我でお二人の仲は深まったかもしれないですけど……それって別に瑞穂の怪我だけの話なんですかね?」
「……どういう意味かしら?」
「お二人と出逢って日が浅いですけど、初めて出逢った時からお二人には、こう……なんて言うんでしょ? 深い絆を感じたと言いましょうか……」
まあ、よく考えれば許嫁なんで当然なんですけどね、と笑って。
「……だから、結局『そう』なったんじゃないかと思うんですよね、私。お二人の仲が深まって、まあ、彼氏彼女の関係になるのは間違いないと言いましょうか……瑞穂の怪我は結果であって、原因じゃないと言いましょうか」
「……」
「雫と藤田先輩は完璧に瑞穂の怪我の『お陰』だと思いますよ? だって、二人が出会った原因自体が瑞穂の怪我と、それに伴うバスケの練習ですから。でも彩音先輩と東九条先輩は瑞穂の怪我のお陰で仲が深まった訳じゃないと思うんですよ。言ってみれば瑞穂の怪我のお陰で、ショートカットは出来たと思いますけど……落ち着く所に落ち着いたと思いますよ?」
「……そうかしら?」
「そうですよ。だって、東九条先輩ですもん」
そう言って、まるで全幅の信頼を置いているのかの様ににっこりと笑う理沙さん。あ、あれ? これってもしかして……
「……理沙さん、東九条君の事……」
「あ、大丈夫ですよ? 別に東九条先輩の事を狙っているとか、そういう訳じゃないですから。今も昔も、明らかに負け戦じゃないですか」
「そ、そう?」
「はい」
そう言って頷いて。
「でも、信頼はしていますよ? 東九条先輩はやるときはやる人ですから。これは多分、中学校の女バスの中では共通認識だと思いますよ?」
「そうなの?」
「瑞穂と幼馴染で瑞穂が信頼している先輩って云うのもありますけど……よく考えて下さい、彩音先輩。流石にどんな人か分からない人に、大事な親友の今後の事を『なんとかして下さい』って言いに行くと思います?」
「……思わないわね」
「でしょ? きっと東九条先輩ならなんとかしてくれる、って信頼でお願いしたんですよ。まあ、殆ど丸投げになってしまったのは申し訳無いんですけど……でも、やっぱり正解でしたよ」
そう言ってにっこり笑う理沙さん。なんだろう……ちょっと、悔しい。
「……理沙さんの方が私より東九条君の事、理解しているみたいね」
「あれ? 彩音先輩、嫉妬ですか?」
「し――! ち、違うわよ!!」
彩音先輩、可愛い~なんて笑う理沙さん。ちょ、り、理沙さん! 先輩を揶揄うの、やめて貰って良いかしら!!
「……まあ、そういう訳で結局、お二人は落ち着く所に落ち着いたんじゃないかな、とは思っているんですよ。さっきも言いましたけど、東九条先輩はやるときはやる人ですからね」
「……そう」
なんだろう……こうやって、私の、か、彼氏が評価して貰えるのは……その、たまらなく、嬉しいんですけど!
「……にやにやしていますよ、彩音先輩」
「……まあ、認めるわ。好きな人が認められるのは……う、嬉しいし」
「そんなもんですかねー。私には良く分かりませんが」
そう言って苦笑を浮かべて見せる理沙さん。えっと……聞いても良いのかしら、これ?
「その……理沙さんは無いの?」
「なにがです?」
「ええっと……その、す、好きな人とか……」
「私ですか? そうですね、今は特段無いですね」
「それは……アレかしら? バスケが恋人っていうか……」
「瑞穂や茜じゃないんで、そこまでは……バスケは好きですけどね」
そう言って、少しだけ恥ずかしそうに笑って。
「……その、私こう見えて結構本が好きだったりしまして……今はそっちに夢中ですかね」
「え!? 理沙さん、読書好きなの!?」
知らなかった!! こんな所に読書好きが居たとは!!
「ど、どんな本を読むの? 好きな作家さんとかいるの! あ、お、お薦めの本とか紹介してくれないかしら! む、むしろ私にお薦めさせて欲しいんだけど!?」
「うわ! ど、どうしたんですか、彩音先輩。急にテンション高いんですけど……あ、彩音先輩も読書好きなんです?」
「そ、そうなの!! 私も本が好きで!! でも、そういう話が出来るお友達が居なかったから!!」
「分かります。中々趣味が合う友達は居ないですもんね」
「そうなの!!」
「あー……でも、そういう事なら私の話はあんまりかも知れませんよ? 読んでるの特殊な本ですし」
「特殊な本? 大丈夫!! 私、専門書とかでも楽しめるタイプだから!!」
恋愛小説、しかも『あまあま』な恋愛物が大好物だけど、私はなんでも楽しめるタイプだし!! 是非、お薦めの本で語り合ったりした――
「BLです」
――……はい?
「男の子と男の子の絡み、大好きなんですよ、私!」
……どうしよう。語り合えないかも知れない……
もし……もし、お手すきの方がおられましたら、この小説の『略称はこれ!』みたいなのを感想とかで頂けると嬉しいです。




