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3巻発売記念! なろう特典SS『深夜のコンビニデート』

本日、第三巻発売です!! 前々回・前回同様、田舎者で特典付き書店様が近場に無い疎陀がお送りします。全国一億人の田舎在住の方、お待たせ致しました!w 『なろう』だけの特典SSです!! 時間軸は三巻の一章後くらいです。カップ焼きそば作れない悪役令嬢のリベンジですw 三巻読了後の方が楽しんでいただけると思うので、三巻の方も是非よろしくお願いします! それでは楽しんで頂ければ!!


「……桐生?」

 リビングでテレビを見ている桐生にそう声を掛ける。俺の言葉に、桐生は視線をテレビから俺に映して微笑んだ。

「なに、東九条君?」

「ちょっとコンビニ行ってくる」

「コンビニ? もう、十時よ? 明日はお休みだから……まあ、ちょっと夜更かししても良いんでしょうけど……なに? 今日じゃないとダメな事なの?」

 俺の言葉に首を傾げる桐生。う、うぐ……そ、その……ちょっと言い辛いんだが……

「……その……カップラーメンが食べたいんだよ」

 桐生さん、ぽかん顔。うん、だよな? 金曜日の十時に急にこんな事言い出したら。

「……どうしたの、東九条君? 急にそんな事言い出して……今日のご飯、あんまり美味しくなかったかしら?」

 さっきまで笑顔だった桐生の顔が心持、しょんぼりした様な顔に。だよね! そうなるよね!!

「ち、違うぞ! 誤解するな! 今日の肉野菜炒め、すげーうまかった! 味の濃さも抜群だったし、本当に美味かったから!! お世辞でもなんでもないから!」

 今日の料理は桐生の当番の日だしな。そんな俺の言葉に少しだけほっとした様な顔を浮かべ、桐生は首を傾げる。

「そう。でも……それじゃなんでカップラーメン? 量が足りなかったとか?」

「いや、量も十分だったよ。そういうんじゃなくてさ? こう……今日の料理も美味かったし、涼子から教えて貰ってからお前の料理、すげー上達してるだろ? 何時だって美味い飯食えて幸せだよ」

「あう……そ、そう? それは……うん、嬉しいわ。ありがとう」

 顔をぽふっと赤く染めてぽしょっとそんな事を呟く桐生。うん、やめて。可愛いから。

「それでまあ……最高に美味しい手料理を食べさせてもらっている癖に何言ってるんだって話なんだが……」

「さ、最高って。賀茂さん程の腕前じゃないし、そ、そんな事は……」

 まあ、確かに。桐生の料理はメキメキ上達しているが……流石に、涼子に一日の長がある以上、味や手際って点じゃ涼子に軍配が上がるだろう。上がるだろうが、だ。

「……それだけじゃねーしな、料理って」

「え? 何か言った? ごめんなさい、聞き取れなくて」

「なんでもねーよ。で、まあ、そんなに美味い飯を食わせて貰っている癖に何をって感じなんだが……」

 いや……うん、まあ、何を贅沢な事を言っていると思われるだろう。思われるだろうが……あるじゃん、カップラーメンのジャンク感って。いや、別にカップラーメンを馬鹿にしている訳じゃねーんだが、こう……無性にあの味が懐かしくなる感じ。ない?

「……男子高校生にとってカップラーメンって実家感あんだよ。たまにどうしても食べたくなるって云うか……そんな感じ」

 正直、滅茶苦茶旨い! って事はないんだけどな。なんかたまーに食べたくなるんだよな、アレ。

「……ホームシックなの、東九条君?」

「そういう訳じゃないけど……ほれ、こないだ話しただろ?」

「こないだ……ああ、カップ焼きそばの話かしら?」

「それ。それからなんというか……無性に食べたくてな?」

 そうなのだ。あの『桐生さん、カップ焼きそばすら作れない』事件の日から、なんとなく俺の心の中で『カップラーメン食べたい欲』がふつふつと湧き上がってたんだよな。かといって、俺の料理当番の日にカップラーメン出す訳にもいかねーし、桐生の日は当然出てこないわけで……まあ、俺の中で食べたい欲が暴走状態なんだよな、今。

「だからまあ、ちょっとカップラーメンでも買ってこようかなって……その、もう一回言うけど、別にお前の料理が美味くなかったとかじゃないから!」

 それだけは勘違いしないで欲しい。そんな俺の言葉に、桐生はくすくすと笑って見せた。

「……うん、大丈夫よ。そんなに心配しなくても。東九条君、そんな事で嘘つく人じゃないし」

「……そっか」

「でも……コンビニに行くなら、ちょっとお願いしてもいいかしら?」

「お願い? なんだ? なんか買ってくるか?」

 必要なものなら買ってくるけど? そう思う俺に、桐生はふるふると首を左右に振って席を立つと、とてとてと俺の側に寄ってきて。

「……着替えるから……いっしょに、いこ?」

 そう言って、上目遣いで俺の服の端をちょんっと摘まんできました。いや、ダメだって、桐生さん。その視線は反則です。


◆◇◆


「……日中はだいぶ暖かくなってきたけど、夜はまだちょっと肌寒いわね? くしゅん!」

「大丈夫か? まあ、言うてまだ初夏って感じだしな。ほれ、これ着とけ」

 桐生と並んで夜の道をコンビニに向かう途中、喋りながらくしゃみをする桐生に俺は着ていた上着を渡す。

「……良いの?」

「俺はそれほど寒くもねーしな」

「寒くも無いのに上着持って来たの?」

「お前、明らかに薄着だったし。寒いって言ったら貸してやろうと思って」

 バタバタ出てきたし、こいつ、衣替えしたばっかだもんな。まあ必要なかったら俺が着ておこうかと思ったけど、持ってきてよかっ――

「ちょ、桐生!? お前、どうしたよ、その顔! 真っ赤じゃねーか! おい、風邪か? さっきくしゃみしてたし、やっぱり帰るか?」

「……いいえ、大丈夫よ。大丈夫だけど……本当に……この男は……絶対、素でやってるんでしょうけど……ほんと、ズルい。ズルいズルいズルい!」

 真っ赤な顔をしたまま、頬を緩めかけてなんとか冷静さを保とうとし、それでもジト目で睨むという器用な表情を見せる桐生さん。

「……なんだよ、その顔。なんか凄い変な顔してるぞ、お前?」

「……これだから! わざとやってるのかしら、この人?」

「なにが?」

「なんでもないわよ。それより! カップラーメン、買うんでしょ? 私もカップ焼きそばのリベンジをしたかったし……丁度いいと言えば丁度いいわね!」

 表情を一変させてにこやかな笑顔を見せる桐生。なんか気になるけど……まあ、良いか。

「そうだな。桐生もリベンジしねーとな。どうする? カップ焼きそばにするか?」

「んー……そうね、リベンジってなるとカップ焼きそばになるんでしょうけど……なにかおススメの商品、ある?」

「おススメ、ね~。こればっかりは好みだからな~。まあ、カップ焼きそばはどこのメーカーの喰っても安定的に美味い気はしてるけどな」

「カップラーメンはそうじゃないの?」

「……たまに『そうはならんだろう』って味した様な商品あったりするからな、アレ」

 いや、マジで。好みの問題と言えばそれまでなんだが……ほら、ラーメンって色んな種類出るじゃん?

「その点、『焼きそば』って言うとソースか塩かくらいの二択だろ? アレンジもそんなに無いし」

 いや、知らんだけであるのかもしれんが。まあ、よっぽど『激辛』みたいな味した奴じゃなきゃどれ喰っても安定的にうめーよ、あれ。

「そうなのね。それじゃ……ああ、でも折角だし冒険しようかしら?」

「ま、それも選択肢の一つだな。大失敗してもそれはそれで笑い話になるんじゃね?」

「そうね。それにしても……なんだかちょっとだけ、罪悪感があるわね」

「罪悪感?」

 首を捻る俺に、桐生は少しだけ悪戯っ子の様な顔をして見せる。

「だってもう夜の十時過ぎてるのよ? こんな時間からコンビニなんて……不良さんになっちゃうわ」

「不良さんって。まあ、褒められた時間じゃねーわな」

「ええ。それも、ど、ど、ど……ど、同居してる男の子と二人でだもん。もう、完全に悪い事してる気分だわ。どうしましょう? 私、東九条君のせいで不良さんにさせられちゃうわ」

 おかしそうに笑ってそう言う桐生。

「……俺の記憶が正しければ、お前からついて来た気がしてるんだが?」

「まあね。でも……出逢ったばかりの頃は、貴方と夜中にコンビニに行こうなんて思わなかったんだもん。でも、貴方と一緒に暮らして、貴方の事を知って、貴方の良い所をたくさん、教えて貰って――」


 ――貴方色に、染められちゃった、と。


「――だから、やっぱり東九条君のせいよ! 私がこーんな悪い子になっちゃったのは!」

 ペロッと舌を出してそんな事を言う桐生に、俺は肩を竦めて見せる。

「へいへい。それでいいよ、もう」

「うん! それで良いの! だから! 私を悪い子にした責任……」



 ちゃんと、取ってね?



「……まあ、可能な限りな」

「だーめ! 絶対取るの! こんな悪い子になった私、誰にも貰って貰えないんだからね!」

「……我儘なやつめ」

「あら? 悪役令嬢ですもの。我儘は専売特許でしょう?」

 楽しそうにそう言って。



「だから――絶対に、居なくならないでよ?」



 それでも飛びっきりの笑顔を見せる桐生に、俺は苦笑を浮かべて――それでも深く、頷いた。







「……あ、罪悪感って言えば」

「なに?」

「深夜のカップラーメンって罪悪感やべーぞ? 夕飯がっつり喰った上で、カロリーの暴力みたいなカップラーメンだからな。こう、『明らかに体に悪い事してます!』感というか……だからこそ美味いってのもあるんだろうけど」

「……た、確かに、健康的な生活だとは思わないわね。えっと……カロリーオフとか、あるかしら?」

「……え~」

「な、なに!? 無いの?」

「いや……あるけどさ~。なんだろ? こう、『体に悪い事します!』って感じなのに、カロリーオフって……って」

「だ、ダメなの!?」

「いや、ダメじゃないけど……なんだろ? じゃあ、喰わない方が良いんじゃね? とは思うというか……昼飯で時短の為とか、ダイエット中だからとか理由があればともかく……深夜にカップラーメン喰う時点で結構アウトなのに、そこでカロリーオフの選択肢を取るのは……」

 なんだろう? 食べ放題の焼き肉屋行って、『じゃ、私サラダだけ食べる~』みたいな? んじゃそもそも食べ放題来るなよ的な感じがない?

「う、うぐぅ……な、何よ! 逃げだとでもいうつもりかしら?」

「いや、そこまでは言ってねーけど……」

「上等よ! ええ、ええ、東九条君の言うとおりね!! 確かに、決して健康的な事をしてないんですもの! それなら、やっぱり振り切ってこそよね! そこでカロリーオフに行くのは……逃げだわ!」

「……いや、そんな悲壮感もって挑むほどのものじゃねーからな?」


 ……後日、我が家の洗面所から『ふ、太ったわー!! カップラーメンのせいよ! ああ……なんで私は大盛りサイズを買ってしまったのかしら……』という声が聞こえたとか、聞こえないとか。





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