えくすとら! その百八 ついに気付いてしまった少女
日曜日を桐生といちゃいちゃしながら過ごした俺は、月曜日に学校に到着するやいなや藤田にがしっと肩を掴まれた。
「……なんだよ?」
「……お前に言うべきかどうか迷ったんだけど……取り敢えず、おめでとう」
「……何が?」
いや、マジで。何がおめでたいの? そう思う俺に、藤田はスマホを見せて――ぶふっ!!
「な、なんだよコレ!!」
藤田のスマホの画面には秀明に抱き着いて満面の笑みでピースサインを浮かべる茜の姿が。え、え? ちょ、待って? マジでなんで!?
「……昨日、俺も有森とデートだったんだよ。そんでランチに行ってたんだけど……急にこの画像が有森のスマホに届いたんだ」
「あ、有森の――あ、そっか。あいつら、中学校の時は同じ部活か」
「そうだよ。なに? お前、忘れてたの?」
「……まあ」
最初は瑞穂のツレの認識だったし、今はツレの彼女の認識だしな。そうかそうか、そう言えばそうだな。
「……んで? なにこれ?」
「『雫~。私、彼氏出来た! 幸せのお裾分け!! 拡散希望!!』らしい。正直、お裾分けが胃もたれしそうなんだけど……」
「……申し訳ない」
そうだよな。こんな『あまあま』なもん見せられても……って感じではあるよな、うん。
「お前の所には来てねーの?」
「逆に聞くけどお前、身内にこんなもん送れるか?」
「……俺は無理だな」
「だろ?」
流石にあの狂犬もそれぐらいの恥じらいはあるのか、俺の所には来ていない。
「にしても……お前の妹、べっぴんさんだな」
「べっぴんさんって。まあ、顔立ちは整っている方だとは思う」
「……本当に血のつながり、あんの?」
「……失礼な事を言うな」
あるよ、血のつながり。まあ、似て無いのは確かに似て無いし、それは認めるけど。
「ま、それは良いや。取り敢えず、おめでとさん」
「ありがとう、って言えば良いのか、これ?」
「まあ、兄貴的には微妙なラインかも知れんが……でも見ろよ、幸せそうな顔してんぞ、妹さん」
「……見せんなよ」
幸せそうな顔をしているし、兄貴的には嬉しいのは嬉しいんだが……こう、なんだ? 若干『もにょ』るんだよ。
「んな事言うな。ホレ、秀明も嬉しそうだしさ」
「まあな」
「秀明は良い奴だし、お前の妹さんも幸せになれんだろ? んじゃ、良かったじゃん」
「……まあな」
茜は秀明大好きっぽいし、秀明は浮気やら余所見やらはしないヤツだと思う。もうこのままあいつら、結婚するんじゃないかまである。
「……秀明が弟か」
「嫌か?」
「いや……元々弟みたいなもんだし、今更感はあるが違和感はあんまり無い」
「んじゃ良かったじゃん」
「そうだな。良かったのは良かったんだが……」
「……どうした? なんか心配事があんのか?」
「いや、心配事って言うか……」
なんとなく、ずーっと引っ掛かっている事があるんだよな、あのパーティーから。巧くは言えんが、こう、喉の奥に小骨が引っ掛かっているっていうか……ん?
「……浩之、スマホ鳴ってんぞ?」
「ああ……って、あ!」
……ああ、分かった。すっかり忘れてたわ。
「『どういう事ですか、浩之先輩!! 説明求む!!』……か」
スマホに映し出された瑞穂からのメッセージに、そう言えば瑞穂のフォローをすっかり忘れてた事を俺は思い出した。
◇◆◇
「なんなんですか、これ!! なんで秀明と茜が付き合う事になってるんですかっ!!」
放課後、屋上に呼び出された俺は瑞穂に胸倉を掴み上げられて尋問されていた。痛い、痛いって!!
「ちょ、お、落ち着け! 痛いって!」
「なんですか、茜のこの幸せそうな顔!! 秀明の緩み切った表情!! なんか普通にムカつくんですけど!!」
俺から手を離し、スカートのポケットからスマホを取り出してこちらにぐいっと向けて来る瑞穂。正直、ちょっと食傷気味なんですけど。
「……朝から藤田、智美、涼子と見せ続けられてきたんだけど、その画像。正直、お腹いっぱい」
つうか。
「……ムカつくの?」
お前、こういう事は結構祝福しそうな感じなんだけど……あれ? 違う?
「そりゃ、普通に嬉しいのは嬉しいですよ。秀明はともかく、茜はずっと秀明の事好きだったのは知ってたし。幼馴染で親友ですから、そりゃ嬉しいですけど!!」
「秀明はともかくって」
「だってあいつ、ずっと智美先輩の事好きだった癖に! 初恋拗らせた癖に!! 茜に言い寄られてころっと行くなんて……」
「……言い方、酷くない?」
「良いんですよ! 秀明はこれぐらいのイジリで! っていうか、何が一番ムカつくって――」
俺にジトっとした目を向けて。
「――なんか、私ばっかりいつも蚊帳の外じゃないですか?」
「……」
いや……まあ、うん。
「そうでしょ!? 浩之先輩と彩音先輩の許嫁だって聞いたの一番最後ですし! 智美先輩と涼子先輩の喧嘩が治まったのだって聞いたの最後ですし!! そりゃ、感謝はしていますよ? 感謝はしていますけど……」
少しだけ、言い淀み。
「ぶっちゃけ、私が怪我したお陰で一気に彩音先輩との仲、深まって無いです?」
う、うぐぅ……ひ、否定出来ん。
「す、すみません! これ、多分言ったらダメな奴なんだろうことは分かっているんですよ? 皆さん、私の為に頑張って下さったのも知っているんですよ? 本当に感謝もしているんです!」
「それは……うん、分かってる」
「……でもですね? その、藤田先輩と雫だって、究極私の怪我で付き合った様なもんじゃないです?」
「……まあな」
……もっと言えば、秀明が茜の事を意識し出したのも市民大会のバスケの打ち上げからだし。間接的に瑞穂のお陰と言えばお陰かも知れない。
「……恋のキューピッド、的な?」
「……私的には完全にピエロな感じなんですけど?」
「……」
どうしよう。それも……まあ、否定は出来ないかも。
「……二人が付き合ったのは本当に嬉しいんですよ? ああは言いましたけど、茜も秀明も幸せになって欲しかったですし……もっと言えば茜の気持ちは知っていましたから、秀明には悪いですけど智美先輩、早く秀明の事振ってくれれば良いのにって思ってましたし」
「……そうなの?」
「智美先輩も浩之先輩ガチ勢ですし。別に報われるからする訳じゃ無いってのは……まあ、私自身も良く知っていますけど、それでも恋は報われた方が良いですしね。だからまあ、本当に祝福しているんですけど……こう、なんて言うんでしょ? 若干、仲間外れ感があるというか……ちょっと寂しいというか」
そう言ってしょんぼりして見せる瑞穂。あー……
「……そういうつもりは無いんだけど」
「本当ですか?」
「おう」
別に仲間外れにしているつもりはない。まあ、色々とタイミングが悪かったりで教えてなかったりした事はあれど、別に仲間外れと思った事は無いしな。
「……これから、こういう事があったら私にもお話してくれます?」
「……おう」
「仲間外れにしません?」
「したつもりは無いけど……分かった」
「今度、デートしてくれます?」
「おう……って、え?」
きょとんとした表情で瑞穂に視線を向ける。そんな視線を受けて、瑞穂はある意味必死な表情で。
「たまには私ともデートして下さいよっ!! 涼子先輩とも明美ちゃんともデート、したんでしょ!! 私ばっかり仲間外れは狡いです! 私ともデート、しろっ!!」
…………は? 何言ってんの、こいつ?




