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えくすとら! その百一 告白、して?


「茜!」

 俺らの前から逃げる様に走り去った茜を追いかけた秀明が、ホテルの裏庭で茜に追いついてその手を取る。そんな秀明の手を振り払うと、茜は人が射殺せそうな程の鋭い視線を秀明に向ける。

「何しに来たのよっ!」

「何しにって……その……何しに来たんだろ、俺?」

「はぁ!? 舐めてんの、アンタっ!!」

 そこで秀明が言葉を詰まらせる。そんな秀明を見て、茜が額に青筋を浮かべて――そして、裏庭の植え込みの陰に隠れた俺の左腕を、同じように植え込みの陰でしゃがんでいる桐生がぎゅーっと握る。

「……何言っているのよ、古川君! そこは『お前が心配だから』って言うべきでしょう!!」

「そうです! 秀明君は良い子ですが……昔から押しが弱いと言うか、ヘタレと言うか……まあ兄貴分である浩之さんが『ああ』ですからね。全く、見習わなくていい所ばっかり見習って!」

 同様に俺の右腕をぎゅーっと摘まむ明美が『同感だ』と言わんばかりに頷いて見せる。

「……いてーよ、お前ら」

 え? なんでこんなことをしているかって? 大体分かんだろ? ラブ警察に連行されたんだよ。しかも。

「……ヘタレ云々はともかく……秀明、アレはあかんですわ。あれじゃ茜さん、怒るに決まってるやないですか」

「気が合うね、北大路君。全く、やっぱり彼は茜さんに相応しくないんじゃないか? ねえ、お義兄さん」

「お義兄さん言うな。つうか、なんで付いて来たんだよ、お前らまで」

 俺の後ろでは同じようにしゃがんで身を隠す北大路と英知院。いや、マジでお前らなんで一緒に来たんだよ? そんな俺の言葉に北大路は眉根を下げて見せ、英知院は胸を張って見せる。

「……いや、なんかあんまりに急展開でつい勢いで一緒に来てもうて」

「ボクは面白そうだからだねっ!」

「……ブレねーな、お前らも」

 北大路は流されやすいし、英知院は自分の快楽に全力だし。

「……つうか英知院は良いのかよ? アンタ、茜に惚れたって言ってたんじゃないのかよ? そんな茜が他の男に告白……するかどうかはともかく、そんなの見たいのか?」

 なんか一々コイツに『さん』付けするの面倒くさくなって来た。いや、一応俺も体育会系だし、年上にタメ口、呼び捨てはどうかと思うけど……知ってるか? 『尊敬』って『尊んで、敬う』って書くんだぜ? 尊んで敬えると思うか、英知院?

「問題無いね! ボクは茜さんの事をキュートだと思うけど、他の男を想う彼女を奪ってやろうとか、そういう気は一切ないし。むしろ、これで茜さんが幸せになれるならベストさ!」

 そう言ってにこやかに笑んで見せる英知院。なんだろう、このセリフだけ見ると若干藤田に通じるものがあるが……

「……本音は?」

「勿論、茜さんがこっぴどく振られたらその隙を突いてやろうと思ってね! 一番近くで見ていれば、直ぐに駆け付けられるだろ?」

「……自分に正直だよな、お前も」

 親指をグッと上げてウインクなんぞ決めて見せる英知院にそう言ってため息を一つ。マジでブレないな、コイツ。

「……東九条君、何時までお喋りしているの! ほ、ほら! 今から茜さんが喋るから!」

「そうです! 黙って聞いていて下さい、浩之さん!!」

 目をキラキラさせて茜と秀明を見ながら、口だけで俺を注意する二人にもう一度、大きくため息を吐いて俺も二人に視線を向ける。と、丁度茜の口が開いた所だった。

「……で?」

「……『で?』とは?」

「わ、分かるでしょ! 私に何回も言わせるつもりなのっ!! 聞いていたんでしょ!!」

 秀明の返事に顔を真っ赤にしてがーっと言い募る茜。そんな茜に、気圧されたかのように秀明が口を開いた。

「うお! そ、その……え、ええっと……あ、茜が昔から、そ、その、なんだ……お、俺の事が……す、好き、と」

「……そうよ。それで? どう思ったのよ、アンタは! 嬉しいとか、嬉しいとか、嬉しくて死んじゃうとか、色々あるでしょ! さあ、どれ!?」

「ちょ、待て! そ、その、なんだ、嬉しいか嬉しいかで言えば――って、待て。さっきのお前、『嬉しい』しか選択肢が無くないか?」

 困惑顔の秀明に、茜はふんっと鼻を鳴らして。


「はん! 何年の付き合いだと思ってるのよ! 私がアンタの事を『好き』って言って『イヤ』って思う訳、無いじゃん。嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しいに決まってんでしょ?」


 何でもない様にそう言う茜に、しばし絶句する秀明。が、直ぐに冷静さを取り戻したかの様に小さくため息を吐く。

「……まあな。そりゃ、お前に『好き』って言って貰えれば……嬉しく無いって言えば嘘になるよな」

「でしょ? まあ瑞穂から言われても嬉しいでしょうし、貴方の『嬉しい』はその程度だと思うけど?」

「……ちなみにバカみたいな質問しても良いか?」

「良いよ」

「その……笑わないか?」

「笑うに決まってるでしょ」

「そっか。それじゃ――って、わ、笑う!? お前、此処は『笑わない』って所じゃねーのかよ! アホか!」

「アホはアンタだ。良い? 『笑わない』って聞くって事は笑われるかも知れない事言うんでしょ? 心配しないで? 面白かったらお腹抱えて笑ってあげるし、面白く無かったらぶん殴るから」

 茜の言葉に、何度目かになる小さなため息を吐く秀明。

「バイオレンスか。その……なんだ? 『好き』って言うのは男として好きって事だよな?」

「あはははー。秀明君、おもしろーい。全然笑えないところが最高デスネ!」

「ボキボキ手を鳴らすな! それにこれは質問じゃねーよ! 確認だ! ハウス!!」

 拳を鳴らしながら一歩、また一歩と歩みを進める茜を秀明が手で制す。いや、ハウスて。

「犬じゃないんですけど? んで? 質問はなに?」

「いや……その、なんだろう? 小さい頃から俺の事が好きって言ってくれてたけど……その、俺のどこが良かったんだろうって……俺、お前に好かれるような事したかなって。どっちかって言うと格好悪い所ばっかり見せてた気がするんだけど……」

 秀明の言葉に、今度は茜がため息を吐いて。



「――それって、重要?」



「……」

「まあ、思い出せと言われれば思い出すわよ? アンタのああいう所とか、こういう所とか、此処が良いとか、あそこが良いとか、言えるけど……まあ、総合的にアンタの事が好きって話。それにさ? 別に何をして貰ったから貴方の事が好きとかじゃないんだよね。そもそも、恋ってするものじゃないし」

「んじゃなんだよ?」

「落ちるものよ。気付いたらアンタにズブズブになってたって話」

『まあ、アンタは違うでしょうけど』と笑う茜。そんな茜に、困った様に頭を掻く秀明。

「……すまん」

「良いわよ、別に。アンタが智美ちゃんに一生懸命な姿を見るのだって……結構、好きだったし」

「その……つ、辛いとかは……」

「辛いに決まってるじゃん。だって大好きな人が他の人の事が大好きなんだよ? その上、その相手がお姉ちゃんみたいに思ってる人なんだもん。そりゃ、辛いわよ」

「……すまん」

「謝って貰う事じゃないけど……でも、そうだね? もしさ? 秀明、アンタが私に悪いと思っているんなら」

 そう言って茜は口の端をニヤッと上げて。



「――告白、してよ。私に、秀明から、愛の告白」



 小悪魔な様で――それでも、まるで何かを哀願するような顔で、茜はそう言った。



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[一言] >「――告白、してよ。私に、秀明から、愛の告白」 ラヴ警察的に逮捕案件?強要罪?(笑)告白終わったら取り調べしましょう!!でも秀明って真面目さんだから、智美が好きだったのに簡単に茜に告白す…
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