えくすとら! その百 自爆してしまうとは、情けない!
お陰様で『えくすとら!』も百話は数えました! あーざっす! そろそろ一区切りかな~。
「……こんな事言っているんだけど……実際は?」
親の仇を見る様な目で英知院を睨む茜から目を逸らしながら英知院に視線を向けると、英知院はきょとんとした顔でこちらを見る。
「秀明……とは?」
「茜の隣にいる背の高いイケメン」
「ああ、彼の事かい? いや……別に馬鹿にしたつもりはないんだが……」
そう言って心底分からないとばかりに首を捻る英知院。そんな姿に、茜が再び噛みついた。
「何言ってるのよ! 貴方、言ったじゃない! 秀明見て『なんだ、君は? 場違いだからさっさと帰ってくれないかい? ボクと茜さんの甘いランデヴーを邪魔しないでくれないかな?』とか言って馬鹿にしたじゃない!!」
がるる、と唸る様にそう言った茜。そんな茜に、本当に意味が分からないと言わんばかりに英知院は少しばかり狼狽して見せる。その狼狽のまま、英知院は口を開いて。
「ええっと……すまない、茜さん。それは馬鹿にしているのかい? 事実だと思うのだが……」
「はぁ!?」
そんな英知院の言葉に、茜の後ろで龍が舞った。いや、舞ってないんだけどね? なんとなく、そんな幻想が見えただけなんだけど。
「アンタ、何言ってくれてんのよ!! 秀明が場違いってどういう意味よ!!」
そんな茜に、英知院はさも当然そうに。
「いや……だって彼、さっきから会場で浮いて無かったかい? 作法も何もあったものじゃないし、パーティー会場の空気にも、会話の波にも乗れていなかったじゃないか。まあ、こういうパーティーだ。女性に花を持たせて男性が黒子に徹するというスタイルもあるし、そういう意味では男性があまり目立つのは得策ではないけど……それにしても酷いものだったよ?」
「っ! アンタ!!」
「だからボクは場違いだと指摘したんだ。だって、そうだろう? 茜さんはこのパーティーの主催者、東九条家の令嬢だ。まあ、分家の方だし、主催者では無いかも知れないが……このパーティーの主催者に近しい距離にある。そんな貴方のパートナーが何も知らない不作法者では随分、外聞が悪いんじゃないかと思ってね? それならボクが側にいた方が良いと思っただけなんだが……」
英知院の言葉に唇を噛みしめて睨む茜。そんな茜をチラリと見た後、俺は英知院に視線を戻す。
「ええっと……英知院、さん? アンタはあれか? 茜の為を思って、秀明を馬鹿に……というか、邪魔者扱いをした、というか……なんかそんな感じ?」
それだったら……ああ、いや、流石にそれでもどうかとは思うが、それでもそういう理由でだったならこう、もうちょっと配慮した方が良い気もする。なんだかんだ、身内を心配して貰ったんならな。そう思う俺に、英知院は胸を張って。
「まさか! 百パーセント、ボクの欲望だよっ!! 茜さんと一緒に居たいって言うね!! たまたま隣にいた彼の『格』が低そうだから、チャンス! と!!」
「ぶれねーな、アンタ!!」
ちょっと見直しかけて損したよ!! なんだよ! 結局ロリコンじゃねーか、こいつ!!
「……あの~……英知院さん? 言うてる意味はまあ、分からんでも無いんですけど……ほいでもパートナー放っておいて、別の女に声掛けるってどうかと思うんですけど? 流石にそれ、あんまり褒められた事やないんやないかと……その方が茜さんの評判にも傷が付くと思わないです?」
遠慮がちに手を挙げてそう言う北大路。そんな北大路に、英知院はまたも胸を張って。
「問題無いね!! だってボクの家、成り上がりで有名だから!」
そう言ってグッと親指を立てて見せる。はい?
「ええっと……それ、なんの関係があるんだ?」
「成り上がり者はこういうパーティーでは『舐め』られるから。どれだけ作法を頑張っても、どれだけウィットなトークをしようとも所詮は嘲笑と冷笑の的なんだよね! だったらもう、開き直って不作法でも問題ナッシング! ご令嬢たちと仲良く出来るチャンスがあるなら、どんどん有効活用するよ、ボクは!!」
「……」
「だからまあ、別に茜さんの評判に傷は付かない。精々、『成り上がり者の英知院に目を付けられた主催者』で通るよ! むしろ茜さんは被害者、被害者」
にっこり笑ってそういう英知院に、ある種の畏怖を感じた様に桐生がポツリと。
「……ある意味凄いわね、英知院さん。私と同じ環境で……私の真逆の道を歩んでいるわ。別に痺れたり憧れたりはしないけど」
「……お前が真逆に行ってくれて俺は心の底から感謝している」
桐生が英知院みたいに『どうせ私は成り上がり者! だったらパーティーで弾けちゃうわ! うぇーい!』とか言っていたら卒倒するかも知れん。まあ、俺より先に豪之介さんが倒れるだろうけど。そんな俺らに視線を向けて、英知院は再び口を開く。
「でも、彼……秀明君、だっけ? そんな彼が茜さんの隣に居たら茜さんの評判は落ちるんじゃないかな? 彼が茜さんのパートナーなら、ね?」
そう言って英知院は両手を大仰に広げて見せる。俳優か。
「それなら、ボクと一緒の方が茜さんの評判は落ちないで茜さんは良い。ボクだって茜さんみたいなキュートな女性と一緒の時間が過ごせる。秀明君も、これ以上恥を掻かないで済む。うん! これこそ三方得じゃないか!」
そのまま茜にウインクをして見せる。そんな英知院の姿に、茜の頬が赤く染まる。ちなみに『きゅん』とかそういう感情ではない。あれは純粋な『怒り』の表情だ。
「何勝手な事言ってんのよ、アンタ!! は? 何が秀明と一緒に居たら私の評判が落ちるだ! そんな事、アンタに言われる筋合いはない!!」
「どうしてだい? だって君は東九条の令嬢だろう? なら、お付き合いする相手は選んだ方が良い。そう! ボクの様なイケメンのお金持ちとね!! その方がより経済的だと思うけど?」
「うるさい、このロリコン野郎!! 生憎、私はソロバン弾いて恋愛できるほど器用じゃないの!!」
「……恋愛? なんだい、茜さん? 君はこの秀明君の事、憎からず思っているのかい?」
きょとんとした英知院の言葉に、茜は。
「当たり前でしょ!! 小さい頃からずっと大好きだったに決まってるじゃん! そんなつり合いとか、恥を掻くとか、そんな事で――」
茜の言葉が、止まる。
真っ赤に染まっていた顔を青くして、白くして、また赤くして――そして、秀明をみつめて。
「……え、ええっと……あ、茜? 今のって……マジ?」
呆然とした秀明の言葉に、茜は泣きそうな顔で秀明に背を向けて走り出した。




