えくすとら! その九十七 また濃いキャラが……
なんとなーく嫌な感じを覚えつつ、それでも俺と北大路は目の前でワクワクを体現した様な桐生と明美の後を歩く。中庭で、誰にも見つからない様にコソコソとまるでスパイの様に歩く俺らの姿は、端から見たらだいぶと怪しい気がするんだが……幸か不幸か、誰にも見つかる事無く秀明と茜を見つけることが出来た。否、出来ちゃった。
「……なあ、桐生? 本気で覗くつもりか?」
「……言い方が悪いわよ、東九条君。これは覗いているんじゃないの。見守っているのよ?」
「そうですわ、浩之さん。あくまでこれは可愛い妹分を見守る為です。そんな興味本位で行く、みたいな言われ方は心外ですわ」
俺の言葉にこそこそとそう言ってくる桐生と明美。そんな二人に、北大路が小さくため息を吐いた。
「……ほんま、物は言い様ですね?」
「……マジでな」
……っていうか。
「お前も付き合い良いよな、北大路。なんだ? 実は興味あるのか?」
「人の恋路にさして興味はあらへんですよ。そら、秀明はエエ奴ですし、幸せになれればエエな~とは思うんですけど……」
そう言って言葉を濁し、こちらをチラリチラリと言い難そうに窺う北大路。なんだよ?
「……その……東九条さんの前で言うのはアレですけど……相手が……」
「……言うな」
「い、いや、悪い子やない……と、良いと思いますが……実は意外に優しい……と、希望的観測ではありますが……ああ! か、顔! 顔は間違いなく別嬪やと思いますっ!!」
「……茜の良いところ、見た目だけかよ」
いやまあ、北大路的には出逢いからして『ああ』だからそうかも知れんが。
「……コホン。まあ、別に付き合いエエ訳やないんですけど……なんとなく、逃げ出されへん雰囲気やったやないですか」
「……まあな」
「後……妹の所戻っても相手して貰われへんし……こういうパーティーで一人ぼっちって、結構クるものがあるんですよ……結構、コソコソ言われますし……」
そう言って肩を落とす北大路。そ、そうなの? なにそれ、怖い。
「……恐ろしいな、社交界」
マジで。そう思う俺に、桐生と明美が非難の視線を向けて来た。
「二人とも、煩い」
「そうですわ。バレてしまいます。静かに!」
「……酷い言い草だな、おい」
そう思ってため息を一つ。と、そんな俺らの視線の前にもう一つの影が映った。身長は秀明くらい、結構高身長で、こう、キラキラとしたイケメンが一人、茜と秀明の側に近付いて行った。誰、あれ?
「……誰だ、あれ?」
「……さあ? 見かけた事無いんですけど……」
揃って首を捻る俺と北大路。俺はともかく、パーティー慣れした北大路も見た事無いって言うと……そう思い、視線を明美に向けると明美も首を捻っている。あれ?
「……お前も知らないの?」
「……ええ。お初にお目に掛かりますね。まあ、今日のパーティーは新規でお呼びした方もおられるので、知らない方が居ても可笑しくはないのですが――って、彩音様? どうしたのですか、そんな苦虫を噛み潰した様な顔をして」
明美の言葉に俺も視線を桐生の方に――って、おお……なんかスゲー顔してるぞ、桐生。
「……知っているのか?」
「……まあね。そうね、東九条のパーティーに呼ばれる様な人では無いかも知れないわね。あの人は……どちらかと言えば『こちら側』の人間だし」
「こちら側? それって――」
「――やあ! 東九条茜さんだねっ! 本日はお招きいただきありがとう!! 僕は英知院麗次! 今をときめく、『英知院グループ』の御曹司さ! 庶民とは一味違う者同士、以後よろしくね! はっはははは!!」
「え、ええっと……は、初めまして? って言うか、私が招いた訳ではないのですが……」
「はっはははは! 緊張しているのかい? そんな所も可愛いね! いや、実はパーティーが始まってからずっと目をつけ――コホン、美しい方だと思っていたんだ! 美しい君とイケメンなボク、お似合いだと思わないかい!?」
そう言ってぐいっと茜に近寄り手を握る英知院……とか名乗る男。そんな男の行動に、茜がぶるりと体を震わせた。
「ひぅ!! え? な、なに、この人? ひ、ひであきぃ~!」
「え、お、俺に振るの!?」
「はっははは! 照れているのかい、可愛い子猫ちゃん? そんな所もキュートじゃないか! まさに、お金持ちのボクにふっさわしい子だね、君は!!」
そう言ってウインクをした後、きらりと白い歯をのぞかせ、両手を腰に当てて往年のフィギアスケート選手の様に上半身をそって見せるイケメン。ええっと……
「……悪役令息とか呼ばれてんの、あいつ?」
どっちかって言うとドラ息子な感じではあるんだが……つうか、なんかあんなキャラ、漫画で見た事あるんですけど。そう口にした俺に、桐生が両目を釣り上げる。
「なんでよっ!! そうじゃなくて……その、『成金』の方よ」
……ああ、そっちね。
「……知り合い?」
「……知り合いと言われると否定したくなるけど……そうね。英知院さんの所とは父もお仕事で一緒になる事もあるから無碍には出来ない間柄ではあるわ」
「……え、ええ……」
んじゃなにか? 何時か俺が桐生と結婚したらアイツとも一緒に仕事すんの? それ、すげー嫌なんだけど……
「……英知院のおじ様は人格者で、間違いなく素晴らしい方なのよ。お兄様の一彦さんも人間の出来た方だし……」
「……」
「……」
「……」
「……金持ちのドラ息子?」
「……そ、そんな事は……な、無いとは言わないけど……こう……ね?」
『気持ち悪い!』『はっははは! 照れなくても良いじゃないか!!』『きゃ、きゃー!!』とか言う茜の姿にため息を吐きつつ。
「――つうかあいつ、何歳?」
「……確か……二十四歳とかだった気がするけど……」
「……それはまた濃いキャラが……」
……マジかよ。茜、こないだまで中学生だぞ? なに? ロの付く紳士なの?




