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えくすとら! その九十六 ものはいいよう


 完全にドン引きしている北大路と俺を置き去りにし、二人してきゃっきゃと騒いでいる桐生と明美。

「……っていうか、明美もマジで気付いていたのか? 茜がその……秀明の事好きって」

 俺の言葉に視線をこちらに向ける明美。

「先ほどは当たり前の様に言いましたが……気付いていた、というかまあ、見ていると『そうかな?』とは思いましたよ? だって茜さん、秀明さんには『甘えて』いましたもの」

「……」

「……ああ見えて、というと失礼でしょうが……意外に茜さんは常識人ですから」

「おま、人の妹を非常識みたいに」

「まあ、私の妹分でもありますから。少なくとも『淑女』として合格点かというと……厳しいものがありますね」

 眉尻を下げてそういう明美。いや、まあ……確かに。

「ですが、『人』としてはかなり高潔な部類に入ると思いますよ? 努力を惜しまず、人を称え、妬まず、人の幸せを喜べる人です。そんな茜さんはまあ……そうですね、各所に『気を使って』おられますので」

「……そうなの?」

 むしろアイツ、やりたい放題な気がするんだが。そんな俺の言葉に明美は困ったような苦笑を浮かべる。

「それは浩之さんの前だからですわ」

「そうなの?」

「ええ。本家に来たばかりの頃、茜さんは随分と気を使って……そうですね、『いい子』であろうとされていました。ですが……まあ、幼い頃から知っている私達です。気を使っているのは一目瞭然でした」

「……まあ、緊張もあるだろうしな」

 家族同然に可愛がって貰ったし、親戚ではあるが……そうはいっても家族以外の人との生活だ。あの狂犬とはいえ、借りて来た猫みたいになる事もそりゃ、あるだろうよ。

「茜さん大好きなお父様です。そういう、『気を使った茜さん』を見たくなかったのでしょう。彼女に言ったんです。『もっと頼りにしてくれても良い』と」

「……茜、なんて?」

「『これ以上なく、頼りにしているよ? でもね、おじさん? 私が何にも考えずにただ『あて』にしているのはこの世で二人だけなんだ』と」

「……」

 ……そう言えば言ってたな。『完全に丸投げしているのはこの世で二人だけ』って。

「その二人って言うのは……」

「勿論、浩之さんと秀明さんですわ。浩之さんは……まあ、分からないでも無いでしょう? 茜さんがこの世で最も信頼し、尊敬する人物ですし」

「……そうなの?」

 そう言う風には見えんが。いやまあ、この年頃の兄妹にしては仲が良いとは思うが……

「まあ、浩之さんの自己評価は置いておきましょう。そして、秀明さんに関してですが」

 そう言って少しだけ言葉を切って。



「……あんなに甘え切った茜さんを、私は知りません」



「……」

「我儘、と言えばそうなのでしょうし、それが良いかどうかはまた別の話ですが……今日のパーティーだってそうです。幾ら幼馴染だからとは言え、慣れないパーティーに、しかも当日誘うなんて……正気の沙汰とは思えません」

「正気の沙汰とまで言うか」

 まあ、分からんでは無いが。普通はしないよな、うん。

「言いますよ。私なら絶対にしません。『何を言っているんだ、こいつは』と思われるのが明白ですから。でも、茜さんは違う。いいえ、きっと茜さんだって思っていたでしょう。きっと秀明さんは『何を言っているんだ、こいつは』と思うと。でも、その後思ったはずです。思い浮かべた筈です。『本当に茜は』と苦笑する、秀明さんの姿と……そんな我儘を言っても許される、自身の姿を」

「……」

「これが『甘えている』という態度じゃないと思いますか、浩之さん?」

 ……確かに。いつも秀明にはアタリが強い茜だが、それだってそこまで言っても『離れていかない』って信頼関係だよな。

「……まあな」

「ご理解いただけて幸いです。そして……およそ、男女の間であれ程気を許す関係になれることなど、ただの幼馴染であり得るか? という話になります。まあ、浩之さんには釈迦に説法でしょうが」

「……鬼に説教じゃね?」

 いや、マジで。俺が悪かったから、そんなジトーっとした目で前科者を見る目で見るの、止めて下さいませんかね?

「……まあ、良いでしょう。では、『ただの幼馴染』でない茜さんがなぜそんなに秀明さんに甘えるか、という話になりますが……まあ、これ以上は語る必要も無いでしょう」

「……茜が秀明を好きだから、って事か?」

「ええ」

 そう言って頷き。

「あの気持ちが『恋』でないとすれば、きっとこの世に『恋』なんてものは無いんじゃないかと、そう思いますわ」

「……」

「……まあ、そういう訳で茜さんが秀明さんを慕っているだろう、という認識はありました。何時か成就すれば良いな、とも。だからこそ、見届けたい気持ちもあります」

「……黙って放って置くって選択肢は無いのかよ?」

 俺の言葉に明美は苦笑を浮かべてため息を吐く。

「私が言うのも何ですが……茜さんも秀明さんも色々『拗らせて』居るでしょう?」

「……まあ」

 今の話を聞けば、そりゃな。秀明はずっと智美が好きで、そんな秀明の事を茜はずっと好きで……まあ、智美はその、なんだ。俺の事を好きで居てくれて。

「此処まで見事に矢印が一方通行の恋愛も珍しいでしょう? 二人とも恋愛経験値は低そうですし……陰ながらフォローをして差し上げたいと思うのですよ」

「……出来るの?」

 俺が言うなって話ではあるが……お前だって恋愛経験値低いんじゃね?

「まあ、私だってそこまで経験がある訳じゃありませんが。ずっと片思いですしね?」

 ……そうやって流し目向けるの止めろ。

「ですが、彩音様もいらっしゃるし、浩之さんも来られるでしょう? 北大路様も。三人寄れば、では無いですが四人いれば少しはいいアイデアも出るのではなくて?」

 そう言って俺と北大路、そして桐生を順々に見る明美。

「……そうですね! 茜さんにも古川君にも幸せになって貰いたいですし……それこそ、ラヴ警察の出番ですね、明美様!!」

「ええ、そうですわ、彩音様!!」

 二人で頷きあう桐生と明美。う、うーん……なんだろう? 妹の心配をしてくれているのは有難いんだが、こう、いまいち釈然としないと言うか……

「……まあ、勿論心配があるのは間違いないと思いますよ? 妹分的に思ってはるのも」

「北大路?」

 ジトーっとした目で北大路はきゃっきゃとはしゃぐ二人を見て。


「……エエように言い繕ってはりますけど……あれ、絶対興味本位ですよね?」


 ……ああ、そっか。なんとなく釈然としないのはそう言う事か。



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