えくすとら! その九十 興味を勝ち取る者
「……何が起こったらそんな状況になるんです? パートナー以外とパーティーに出るだけでもあまりいい事にはならないのに、よりによって本来のパートナーがいるパーティーで他のパートナーとパーティーにでるなんて……考えられないのですが」
まるで珍獣を見る様な目で俺と明美を見る宝田さん。あ、いや、そりゃ確かに俺もそう思うんだけど……まあ、色々と事情がありまして。
「そ、それは梢様の仰る通りなのですが……じ、事情がありまして……」
しどろもどろになりながら、それでも事情を説明する明美に、宝田さんは視線をますます呆れた様に細めた。
「……それ、結局明美様が浩之君とパーティーに参加したかっただけじゃないのですか? どのような事情があるかと思えば……馬鹿らしい」
「うっ!」
「……明美様も年頃の乙女という事で気持ちは分からないではないですが……あまり褒められた方法では無いのでは? 浩之君も、パートナーが居ながら他の子をパートナーに選ぶとは何事ですか」
「……はい」
「……まあ、よそ様のご事情なのであまり口煩くも言いませんが……」
そう言って俺たちから視線を外し、ちらりとその視線を主催者――輝久おじさんと、その隣で微笑んでいる桐生に向けた。
「……なるほど、桐生彩音様ですか……東九条の秘蔵っ子が選んだのは」
面白そうにそう言って視線を細める宝田さん。その視線はまるで桐生を値踏みするかの様な視線で。
「……そういう視線で桐生を見るの、止めて貰えませんか?」
端的に言って、あんまり面白くない。そんな俺の言葉に驚いた様に視線を戻した宝田さんはきょとんと首を傾げて見せる。
「そういう視線、とは?」
「値踏みするような視線ですよ」
「……なるほど」
そう言って宝田さんは丁寧に腰を折って見せる。
「これは失礼しました。少しばかり興味が沸いたので……不躾な視線であったかも知れませんね」
「興味……ですか」
「ええ、興味です」
「『成り上がり者』の桐生が参加しているのが面白いですか?」
少しばかり言葉に棘があった。言った後に流石に失礼だと思い、訂正しようと声をあげようとすると宝田さんがニヤリと笑った。
「……だとしたら、どうします?」
挑発的な視線を向けて来る宝田さんに、俺は肩を竦めて見せる。
「どうも。ただ、きっと貴方と逢う事は二度とないでしょう、というだけで」
「あら? 逃げるのかしら? 男らしくないわね?」
「無理に戦う必要は無いでしょう? 適切な距離を取って接しましょう、という話です。どうしても避けて通れないならば戦ってでも守る必要もあるでしょうけど……あいにく、そんな必要がない勝負なら戦う必要は無いでしょ? 別にルールがあるわけじゃ無いし」
「パートナーを守って上げなくても良いの? 格好いい所見せられるかも知れませんよ?」
「生憎、守られているだけじゃ満足できないお嬢様なもので。俺に出来るのは支えることぐらいですよ。後、格好いい所は他で頑張って見せますので、お気遣いなく」
そう言い切ると、宝田さんは大きな瞳をぱちくりさせた後、明美に視線を向けた。
「この子……面白いですね?」
「……重ね重ね、失礼を」
「いいえ。確かに不躾な視線と質問をしたのはこちらです。浩之君」
そう言って宝田さんはこちらに頭を下げる。
「申し訳ございません、つい、試す様な事を言って」
「あ、いえ……」
「それと……訂正を一つ。確かに私は桐生彩音様を興味深く見ておりましたが、それは『成り上がり者』と小馬鹿にする為にした訳ではありません」
「……」
「我が家も経営者の家系ですので。まあ、どちらかと言えば我が一族は『経営』より『技術』肌ではありますが……どちらにせよ、優秀な人を優秀と認める程度の度量はあると自負しております。『成り上がり』とは、裏を返せば『成りあがるだけの能力があった』という何よりの証左ですので」
……なるほど。流石、東九条の人選だけある。明美と同じ事いってやがるぞ、この人。
「……だから言ったでしょう、浩之さん? このパーティーに来る人は『まとも』だ、と」
「……そうだな。こちらからも謝罪を、宝田さん。失礼な事を言いました」
「いいえ。先ほども言いましたが、不躾な視線をしたのは私ですので。私、能力がある人が好きなので……つい、見入ってしまったという訳です。自身の想い人にそういう視線を向けられる」
そう言ってにっこり笑う宝田さん。
「……能力があるって分かるんですか? いや、確かに桐生は能力がありますけど……少なくとも、『経営者』としての能力は未知数じゃないです?」
『成り上がり者』という『称号』を手にする事が出来るのは、自身の能力で成り上がった者だけ、その娘は『成り上がり者の小娘』にしか過ぎない。イコールそれは桐生の能力を担保する事にはならんと思うんだけど……
「輝久様の隣でも堂々と、それでいて出過ぎない程度に笑っています。良いパートナーでしょう。東九条本家の、それも初対面かそれに近い相手がパートナーというだけで緊張しても可笑しくありませんのに。浩之君ならできますか? 例えばパートナーが私になって巧くエスコートって?」
「……無理ですね」
場数もあるんだろうが……そういう意味では桐生、度胸あるな。
「それもエスコートされる相手が恋敵の父親でしょう? 私なら絶対に嫌ですよ、あんな状況」
「……まあ」
「東九条のパーティーに呼ばれるのは名誉な事ですからね。色々あったのでしょうが……それでも、この場をチャンスと捉えてパーティーに参加する胆力もある」
「……」
無言の俺に、極上の笑みを浮かべて。
「……興味を惹かれるな、という方が無理ですよ。ぜひ、『お友達』になりたいです」
そう言って宝田さんは『それでは』と丁寧に頭を下げて輝久おじさんと桐生の元に歩いていった。




