えくすとら! その八十四 友達とのパーティー
「あ、明美様!! こ、この度は当家の父が大変ご迷惑をお掛けしました! ほ、本当に申し訳御座いません!!」
明美の登場に一瞬、きょとんとした表情を浮かべた後、彩音は慌てて頭を下げる。そんな彩音をジト目で見た後、明美ははぁーっとため息を吐いて見せる。
「……まあ、彩音様のせいでは御座いませんが……本当に反省している人は人の家の玄関でイチャイチャしないとは思いますが?」
「う、うぐぅ……ち、違うんです! あ、あれは……そ、その……」
赤くなってもじもじし出す彩音。その姿が、なんだか庇護欲をそそり、彩音を庇う様に一歩足を動かしかけて。
「ストップ。どうせ浩之さん、彩音様を庇おうとしてるんでしょう?」
その動きを明美に見破られてストップを掛けられる。
「……庇うって訳じゃないけど」
「いいえ、嘘です。そうやって庇ってまたイチャイチャするんでしょう?」
「そ、そういう訳じゃないけど」
「……言っておきますが、あまり人前でイチャイチャしない方が良いですよ? 私がどうこうというのもありますが……普通、人の家の玄関でイチャイチャはしませんから? 他の人に見られたらどうするのですか、はしたない」
そう言って呆れた様な目でこちらを見て来る明美。う……ま、まあ今のは完全に俺らが悪いな。
「……すまん」
「……申し訳御座いません」
「……はあ。まあいいでしょう。それより……ようこそおいで下さいました。災難でしたね、彩音様」
「災難と言いましょうか……完全に人災と言いましょうか……情けなさ過ぎて穴が有ったら入りたいと言いましょうか……」
小さくなって消えそうな声でそういう彩音。まあ……うん、そうだよな。確かに完全にこれ、豪之介さんの一人相撲だもんな。しかも、パーティーに全然関係ないダンスでって……彩音じゃなくても穴が有ったら入りたいよ。
「……まあ、その辺りに関しては私も言いたいことが無い訳では無いですが……ですが! ともかくこうやって無事に彩音様だけでも参加して頂いて良かったです」
そう言ってパンと両手を叩いて微笑む明美……って、あれ?
「……なんか明美、嬉しそうじゃね?」
心なしかいつもより笑顔が輝いている気がするんだが……気のせい? そんな俺の指摘に、『しまった』と言わんばかりに顔を歪めて、やがて照れ臭そうに口を開いた。
「……そんなに顔に出ていますか?」
「顔に出ているっていうか……まあ、うん。なんか態度とかが若干はしゃいでいる気がする」
「……まあ、少しははしゃいでいますよ? パーティー自体は慣れたものではありますし、同年代の方もおられますが……」
少しだけ気まずそうに。
「……友達、という訳ではありませんので」
「……そうなの?」
「分かります。結構気、使いますものね?」
「そうなんですよ……我が家の場合、無駄に古いだけに付き合いも多いので……あまり不機嫌な顔も出来ませんので」
「……そうですよね。私の家は新興だからこそ馬鹿にされない様にっていっつも気を張って……楽しんだ事、ないですもの」
「そうですよね! だから……こうやって『友達』と同じパーティーに参加するのは初めてなんですよ! 実は結構楽しみにしてて!」
そう言って嬉しそうに顔を綻ばす明美。その姿に、ポカンとした顔をして見せる彩音。
「……友達、ですか?」
そんな彩音の言葉に、今度は明美がきょとんとする。その後、慌てた様に明美が両手をわちゃわちゃ振って見せる。
「えっと、す、すみません! わ、私はもうお友達のつもりでいたのですが……図々しかったですね……」
しょぼんとして見せる明美に、今度は彩音が慌てる番だ。
「い、いえ! そんな事は無いです!! う、嬉しかったです! 私も……明美様、お、お友達だと……」
「……ホントですか? 気、使ってません?」
「き、気など使っていません! 本心です!」
彩音の言葉に、ちらりとこちらに視線を向ける明美。
「……毎週金曜日には『今週も明美様、こっちに来られるかしら? お菓子、何が良いかしらね?』って楽しそうにしながら選んでいるよ。嫌いな奴にそこまですると思うか?」
「ひ、浩之! い、言わないでよ!!」
なんでだよ。良いだろう、別に。ほれ、明美も嬉しそうだし。
「……にしても……友達、呼べば良かったんじゃね? 学校の友達とか……なんなら、智美とか涼子とか瑞穂でも良いんじゃねーか?」
秀明が参加出来るくらいの、いい意味で『緩い』パーティーなんだろ?
「学友は友達は友達ですが……そこまで親しい人は居ませんので。少なくとも、学校帰りに遊びに行くような友人はごく僅かです。皆様、ご予定がありますので」
「あー……お前の所、お嬢様学校だもんな。んじゃ智美や涼子、瑞穂は?」
「智美さんには向いて無いでしょう。愛想笑いを浮かべてお上品にお料理を食べる、なんていうのは」
「……そういう評価な。涼子は?」
「涼子さんはテーブルマナーも完璧ですし、人の顔色を読んで最適な答えを出すことに長けているのは間違いないです」
「だろう?」
「ですが……絶対、涼子さん疲れますよ? さして楽しいものでも無いですし……私の為に、そんな無理をお願いする訳には行きません」
「……そうかもな。んじゃ、瑞穂は?」
俺の言葉に、明美はそっと目を逸らして。
「……瑞穂さんはパーティーの料理とかで興奮して……会場を走り回りそうなイメージ、ありません? 少なくとも何かを一個は壊す気がするんですよ……」
「……あ、はい」
確かに。そんなイメージはある。いや、流石にそんな事も無い気もするが……危険な事には変わりはない。
「……その点、彩音様はパーティー慣れもされていますでしょうし、私が……あー、この言い方は失礼かも知れませんが、『心配』する必要もありませんからね」
にっこり笑ってそういう明美に、彩音もこくりと頷いて見せる。
「……そうですね」
「……ちょっとしんどくなったら、こそっと二人で抜け出しません?」
「……良いですね。今回、テラスとか中庭があったりします? 私、避難するときは大体そこに避難するんですが」
「お誂え向きにいい避難場所があるんですよ! パーティー会場についたら最初にそこ、ご案内しますね! まあ……」
そう言って明美はススっと俺の側に寄って俺の腕をぎゅっと抱え込む。
「――今回は私、浩之さんがエスコートですから、疲れる事は無いかも知れませんが!」
「あー!! 明美様、人にいちゃいちゃするなって言って、狡い!」
「狡くありませーん。これはエスコートして貰う人の特権でーす! それに、貴方達のは無意識でしょう? 私は、意識してやってまーす!」
「そっちのが質、悪くない!?」
「ふふーん! いいでしょー! 今日だけは私が借りますから!!」
「ううう!! ううう!!! 浩之!! 明美様がイジメる!!」
完全に勝者の余裕を見せる明美に、涙目でこっちを睨む彩音。はぁ……喧嘩するなよ、お前ら。




