えくすとら! その八十 多分、取れる中では最善策?
スマホのメッセをポチポチとイジり、秀明に地図を送る茜。いやいやいや! そうじゃねーよ! そうじゃないんだ、茜!
「いや、茜? 茜さん? お前、自分が何してるのか分かってるのか? 駄目だろう、それ!」
俺の言葉にきょとんとした顔をして見せる茜。いや、なに? なんでお前がその顔をして見せるの? 違うくない?
「え、なんで? これでまるっと解決じゃない?」
「どこがだよ!! 何一つ解決してないんだが! むしろ問題が増えているまであるんだが!」
どうすんだよ、秀明がマジで来たら! こうしちゃおれん、早く秀明に連絡しないと! そう思って俺がスマホを取り出そうとすると、茜が俺の手を止める。
「ストップ、おにい。それ、秀明に連絡しようとしている?」
「当り前だろ! 迷惑かけられっか!」
それじゃなくても今日は散々迷惑掛けてんのによ!
「大丈夫大丈夫。秀明、本当に嫌なら嫌って言うし。言ってきて無い所みると、パーフェクト美少女に変身した私の晴れ姿を見たいんでしょう。男の子だな~、秀明も」
「……もうなんか俺、お前の事が若干こえーよ。なに? どっから出てくんの、その根拠の無い自信」
マジで。つうかお前、そんな事で秀明呼び出すのやめろ。
「でも、いい方法だと思うよ? 他に方法が無いんだったら、これが一番じゃない?」
「……どこがだよ?」
なんかどっと疲れたんだが。そんな俺に、茜は得意そうに顔の前で人差し指をピンっと立てて見せる。
「まず、彩音さんを一人で参加はさせられない。でも、変な人間にはエスコートさせられない。此処までオッケー?」
「……変な人間って。言い方」
「細かい事は良いの! ともかく、そうなると桐生家の身内か、もしくは東九条の身内からエスコートを出すのがベストでしょ?」
「……まあな」
その理論はまあ分かる。分かるが。
「……なんで輝久おじさんなんだよ」
「だって東九条家の男で信頼できる人間ってなると、もう輝久おじさんしか残って無いじゃん」
「……俺は?」
俺は? 俺って信頼できない人間なの?
「おにいは駄目だよ」
「……なんでだよ? そりゃ、明美には申し訳ないけど――」
「そうじゃなくて」
そう言って首を左右に振って。
「だっておにい、全然パーティーとか出て無いじゃん。そんなおにいが彩音さんの事、本当に守れると思うの? バスケだってそうでしょ? ルール知らないで試合に出て、勝てる訳無いじゃん」
「――それは……」
「まあ、本家主催のパーティーだし、分家でも濃い血筋のおにいのパートナーに絡むような人は居ないだろうけど……ゼロでは無いでしょう、明美ちゃん?」
「……そうですね。そもそも、浩之さんを『東九条の分家』と認識している人が何人いるか、という話になってしまいますし……そうなると、心の無い言葉を浴びる事もあるかも知れません」
「……」
「……まあ、勿論? 明美ちゃんがずっとうずうずしてたってのもあるけどね。流石に此処で明美ちゃんを放って置いておにいが彩音ちゃんと一緒にパートナーとして回るのは不義理が過ぎるよ?」
「……まあな」
「……私自身、不本意ではありますが……こういう状況なら仕方ないと思います。思いますが、ですがやはり……直ぐに割り切れるものでは無いですので」
そう言って捨てられた子犬の様な目でこちらを見やる明美。うっ……それを言われると罪悪感が……
「まあ、同じ理由で秀明と彩音さんの組み合わせもダメだよね? 秀明じゃ彩音さんを守れないだろうし、そもそも秀明と彩音さんが回るの嫌じゃないの、おにい?」
「……まあ、好ましくはない、かな」
可愛い弟分ではあるが……気持ちがいいものではない。いや、完全にこっちの都合で呼んでおいて何言ってるかって話ではあるんだが……割り切れないもんなんだよ、こちとら。
「幸い、明美ちゃんはちょくちょくウチに遊びに来てたし秀明の事も知ってる。どう思う、秀明?」
「それはまあ……好青年ではあると思いますが」
「でしょ? あいつ、声も体もでかいけどちゃんと体育会系だから礼儀も正しい。別にダンスをするわけでも無いし、失礼な事も言わないと思う」
「……確かに」
「待て。でも、それならお前は誰が守るんだよ? イヤだぞ、俺」
流石に桐生可愛さに妹が不憫な目に合うのは許容できないんだが。そんな俺に、茜は笑って手を振って見せる。
「ないない。私、正式に参加するのはこれが初めてだけどちょくちょく参加はしてるしね。だから、私の心配は良いよ」
「だけど……」
そもそも、パーティーを失敗しないために輝久おじさんがエスコートする予定だったんだろ? それってつまり、心配事がゼロじゃないって事じゃないのか? そう思い渋る俺に、茜はにっこりと笑って。
「――それに、秀明がきっとなんとかしてくれるからね」
「なんとかって……さっきお前、秀明じゃ桐生を守れないみたいな事言ってなかったか?」
「秀明は私とか瑞穂と居る時はバフ掛かるからね。知ってる? 私、信頼してる人間は結構いるけど、完全に丸投げにして……そうだね、『あて』にしている人間ってこの世で二人しかいないから」
「だが……」
「ともかく、この話はこれでおしまい! 後は服装とかの話になるけど……まあ、吊るしのスーツで良いでしょ? 男性の衣装なんて」
「……あまり東九条の人間のパートナーに安っぽい恰好をさせるのは……せめて、多少は名があるブランドで買いましょうか」
「乗り気なのか、明美!?」
反対派だったハズの明美の言葉にお思わず驚いて顔をそちらに向ける。と、そこには微妙な表情を浮かべる明美の姿があった。
「……完全に賛成では無いですが……まあ、方法として選べる中ではマシだと思います。それに……この言い方はあまり良く無いでしょうが、ホストである父がエスコートする女性は? と注目も集まりますので、桐生家の家格も上がる可能性もありますので桐生家にとってもプラスでしょう。なにより……私も初志貫徹できます。問題は、秀明さんが可哀想なのと」
そう言って明美は視線を俺の後ろに向ける。
「――そこで、絶望的な顔をしているお父様を説得する、くらいでしょうか?」
視線の先では『え? 茜、一緒に出ないの?』と言わんばかりの絶望的な表情を浮かべる輝久おじさんの姿があった。




