えくすとら! その七十一 東九条本家へのお宅訪問
少しばかりファミレスで滞在した後、秀明と……そして、準備の為に豪之介さんの滞在するホテルに向かった彩音と別れて、俺は京都の本家に茜と共に向かっていた。俺のスーツとか本家にあるらしいし、そもそも挨拶もしておかないといけないしな。ちなみに、東九条の本家は京都駅から電車で十分ほどの所にあり、まあ京都の『格』的な事は分からない俺でも、立地面から考えてもまあまあいいところなんじゃね? と思う様な所にある。っていうか、そこに『屋敷!』と言えるぐらいの家を構えてんだから、東九条の本家ってマジで名家なんだなって思うよ、うん。
「……本家も久しぶりだな」
「おにいはもうちょっと顔出しなよ? おじさんも寂しがってたし。『浩之と酒飲むのを楽しみにしてたのに』って」
「いや、俺まだ高校生だからな?」
東九条本家の当主である東九条輝久――輝久おじさんは俺の親父の従兄弟で……まあ、なんだ? 厳格だし誠実だし公平な人なんだが……親父とは違った意味で『面倒くさい』人ではある。いや、良い人だし人格者だと思うんだけど……まあ、親父の従兄弟で明美の親父だからな。推して知るべしって感じではある。
「関係ないんじゃない? 明美ちゃん、お正月とか飲んでたし」
「あいつ……」
「しかもおじさんと勝負して勝ってたよ、明美ちゃん」
「……輝久おじさんも結構飲むだろ? って、待てよ? それってもしかして」
「うん。だから明美ちゃんに負けたの相当悔しかったみたいで……『浩之でリベンジする!』って言ってた」
「……輝久おじさん……」
……相変わらず、良くも悪くも子供っぽい人である。負けず嫌いというか……そのくせ、結構勝負事好きって言う、もうなんとも面倒くさい人なのだ。ちなみに俺の中で一番面倒くさいエピソードは将棋勝負で俺が勝ったら、輝久おじさんが勝つまで付き合わされた事だな。それも十二時回ったくらいで『いい加減にしなさい!! 小学生を何時まで付き合わせるんですか!!』とおばさん――明美のお母さんである明香さんが止めてくれてなんとかなったって感じだったし。
「明香さんも楽しみにしてたよ? 『浩之、いつぐらいに来るかしら?』って」
「……なんとなく、気恥ずかしいんだよな、明香さんに逢うの」
ちなみに明香さんは『おばさん』というとにっこり笑顔で『圧』が来るので名前呼びだ。
「明香さん、おにいの事大好きだしね~。おにいが彩音さんと婚約したって聞いた時、おじさんの胸倉掴んでたし」
「……」
「……『よくも……貴方も許しませんが、輝之さんも許しません』ってブチ切れてた」
「冗談抜きで親父、桂川に浮かぶんじゃね?」
ちなみに輝之はウチの親父の名前な。いや、親父が本家に寄り付かない理由の半分くらいってきっと、明香さん怖いからじゃないかと思うんだよな。小さいころから知ってたらしいし、お互い。
「……っていうか、俺も浮かぶ? 桂川」
「お父さんは何とも言えない。ワンチャン、桂川で鉄のブーツを履く可能性はあるけど……おにいは大丈夫だよ。むしろ、『浩之が可哀想』って嘆いていたもん。私だって流石におにいが可哀想って思ったけど」
そう言って茜はこちらを振り返りニヤニヤとした笑みを浮かべて見せる。
「――良かったね、おにい。あんな可愛くて良い人が婚約者で」
「……一応、婚約は解消して今は彼女だけどな」
「まあ、それでもあの仲の良さならよっぽどおにいが変な事しない限り、フラれる事はないでしょ? 両家も公認だしさ?」
「だと良いがな」
「自信持ちなよ。彩音さん、絶対おにいの事大好きじゃん。いいな~。私もあんな恋人が欲しいな~」
「……ちなみにお前は無いのか? そういう……なんて言うの? 浮いた――って、待て。なんでお前、そんなイヤそうな目で俺を見るんだよ」
「いや……なんか、兄妹に恋愛話するのはちょっと気持ち悪いと言うか……」
「……お前の頭は鶏かなんかか?」
三歩歩いたら忘れるのか、お前? 今、まさに兄妹で恋愛話してたんだが。
「女の子はそういう噂、大好物じゃん? でも、男の兄妹にそういうの聞かれるのはちょっと嫌かも」
「……」
まあ、分からんではないんだが……なんだろう、この無茶苦茶理不尽な感じ。今一つ納得行かない感じが凄い。
「特におにい、『恋愛!』みたいなタイプじゃないじゃん? 中学校の時なんかもっさい格好してたしさ? って、あれ? もしかして今もそんな感じ? オールウェイズジャージみたいな? それは流石に彩音さんに愛想付かされるんじゃない?」
「……流石にそんな事はないぞ? オシャレに気を使って……は、まあいないけど、彩音の隣で恥ずかしくない格好はしてる……つもり」
「ん。まあ、おにいは見た目は良くは無いけど、そこまで悪くは無いからさ? ちゃんとすれば見れると思うよ。運動してたから体は適度に絞まってるし」
「へいへい」
「ま、おにいは中学校までバスケが恋人みたいな感じだったしね。そういう意味では私も今はバスケが恋人って感じかな?」
「……花の女子高生なのにな」
「楽しいから良いの。そもそも、相手もいないしさ~」
「……秀明は?」
「推すね~、おにいも」
「あ、いや、別に推している訳じゃ……無い訳じゃないけどさ?」
その……まあ、俺だって妹は可愛い訳で……秀明だったら茜を幸せにしてくれるかな~とは思うんだよな。あいつ、抜群に良い奴だし。んじゃ秀明の気持ちはどうするんだよ! って意見もあるとは思うんだが……これは兄の贔屓目もあるが、意外に納まりが良い気はしてるんだよな。なんだかんだ、茜だって優しいところあるし。
「ま、秀明は智美ちゃんラブだかんね~。私は私以外に目移りするような男は要らんのですよ」
「……フラれたけどな」
「そんな簡単に割り切れるもんじゃないでしょ? 涼子ちゃんと智美ちゃん見てたら思わない?」
「……まあな」
「だからまあ、私は秀明が完全に智美ちゃんを諦めて私にぞっこんになったら考えてあげても良いかな? って感じ? 前も言わなかったっけ? 三回告白してきたら考えてあげるって」
「……何様だよ、お前」
「私もそう思う。だからまあ、秀明もこんな子、イヤでしょ?」
そう言って茜は笑って足を止めて。
「さ、着いたよ? さっさと家、入ろう?」
そう言って見上げた先にあったのは、『豪邸』と言ってもおかしくない、見慣れた、でも懐かしい東九条本家の屋敷だった。




