えくすとら! その六十七 平和的な解決法
「バスケ対決、ね」
うん、物凄く平和的な解決方法な気はする。気はするが……
「……ハンデ戦でも厳しくないか、それ?」
高校に入ってからの茜のプレイは知らんが……まあ、バスケで京都の高校に来るくらいなんで、別に茜だって下手な訳ではないが、それでも全国大会常連校の次期エースと戦うのは厳しいんじゃねーか?
「でも、これ以上此処で暴れて貰っても困るでしょ? 違いますか?」
「それは……まあ、確かに」
「暴れる大蛇に酒を飲ませて酔わすのと同じですよ。茜、バスケさせておけば比較的大人しいですし」
「でも、あいつ負けず嫌いだぞ? きっと、勝つまでやると思うし……」
「それはそうですが……でも、他に荒ぶる茜を抑える方法とかあります?」
「……ねえ、さっきから女子高生の話をしているのよね? はじめてよ、私。女子高生の形容に『荒ぶる』って言葉をつけてるの聞くの」
そうか? 割合、創作物とかでは聞くことが多いが……まあ、現実でつける事は殆どないかもしれんな。
「そうですよね、彩音さん! おにいも秀明も失礼でしょ!! なによ、荒ぶるって!」
「そうよね。流石に茜さんがかわいそ――」
「そもそも、私が荒ぶったらこんなもんじゃないの知ってるでしょ、二人とも!!」
「――う……かと思ったけど、そうでも無いのかしら?」
「まあ……茜はアレですよ。顔面詐欺ですから」
「……初めて聞いたわよ、顔面詐欺って言葉。可愛い顔してるのに……」
まあ、身内の贔屓目もあるんだろうがそこそこ整った顔してるしな、茜。なのに中身がアレって、相当酷い気もせんでもない。
「……でもそうね。それじゃ、どう? 皆でゲームセンターにでも行かないかしら? あそこなら対戦ゲームもあるでしょう? それで決着……って言うのかしら? それを付けるって事でどうかしら?」
「ゲーセン、ね」
……まあ、喧嘩は言うまでもなく、バスケよりも平和的な気はせんでもない。茜、バスケになると熱くなるだろうし、ゲームぐらいなら負けてもそこまで熱くはならんだろうし。
「……どうだ、北大路。っていうか、お前この後予定があったりするのか?」
なんか付き合わせる流れになっていたが、そもそも北大路の予定を確認していなかった事に気付いた俺の質問に、北大路は首を横に振って見せる。
「予定は別になんも無いですよ。今日は東九条さんの本家さんとこのパーティーに招待してもろてるんで、夕方には帰らな駄目ですけど……でも、ゲーム、ですか?」
そう言って渋い顔をして見せる北大路。なんだ?
「ゲーム、嫌いか?」
「嫌いって言うか……俺、ほとんどバスケしかしてへんからそないに巧くないんですよ、ゲーム」
「ゲーセンとか行かないのか?」
「練習終わったらクタクタですわ。家にもゲーム機の類は無かったですし……」
あー……なるほど。北大路の所も所謂旧家ってやつだもんな。ゲームとか買ってもらって無いクチか。
「……逆に北大路にハンデが必要か?」
逆にうちなんかはゲーム、結構有ったからな。そういう意味では茜に有利すぎるか? そう思ってちらりと北大路に視線を向けると。
「……っていうか、予定は無いんですけど、なんで俺、あの狂暴女と戦わなあかんのです? 完全に事故ちゃいますか、これ? 別に戦う理由とかは俺にはないんですけど……」
困ったように眉根を寄せる北大路。あー……うん。そうだよね。完全に北大路からしてみたら事故だよな、これ。そんな北大路の肩に優しく秀明がポンと手をのせる。
「北大路」
「……なんや?」
「犬に噛まれたと思って諦めろ。ああなったらもう、茜は止まらないから」
「狂犬やん、それ。いや、まあ……尊敬する東九条さんと良きライバルになるやろう秀明に言われたんやったら付き合いますけども……」
そう言って肩を落とす北大路。なんか……本当に済まんな、北大路。
「……昼飯くらいは奢るから、付き合ってくれるか?」
「ええもん食わせて下さい」
「……善処する」
「冗談ですよ。ファミレスとかファーストフードでええですから」
そう言ってにこっとした笑顔を見せる。こいつ、良いヤツだな~。普通、こんな絡まれ方したら誰だって嫌な顔を浮かべて去って行ってもいいだろうに、こうやって付き合ってくれるなんて。なんだ? 器がでかいのか?
「……良い奴だな、お前」
「そうでも無いですけど……でもまあ、そう思って貰えるんなら後で連絡先、交換してくれます? そっち行くことあったらバスケ付き合って貰えたらうれしいですし」
「了解」
俺の連絡先くらい幾らでも。別にそんなに価値があるものじゃないであろう連絡先に『やった!』と喜ぶ北大路を微笑ましいものを見る目で見やる。なんか、すげーほっこり――
「――ふふふ。そう? ゲームね? オッケー、んじゃまあ、ゲームでボコボコにしてあげますか~。あ、ハンデがいるかな~? 北大路くぅーん? 言っておくけど私、強いからね~? レースゲームも格闘ゲームも落ち物ゲーもなんでも得意だからっ!!」
――……うわ。なんかスゲー悲しいもの見た。なにあのドヤ顔。別にまだ勝ったわけでも無いのに、自分の得意なフィールドに引き込んだ瞬間あの顔って……。
「……秀明」
「……はい」
「……悪そうな顔してるだろ? あれ、俺の妹なんだぜ……?」
「……俺の幼馴染でもありますね」
「……なんか二人が可哀想になってきましたわ」
やめて! 北大路、同情はやめて! 残念な感じだけど、悪い子じゃないから!!




