えくすとら! その六十二 なんで居るの? 京都に。
ドリンクバーで茜と桐生のドリンクを入れ、自分のは何にしようかな~なんて機械の前で悩む。
「スポドリあれば良いんだけど……ねえよな、普通」
ドリンクバーの時はいつも悩むんだよな~。自分がバスケをしていたからか、なんとなく運動できない気がして炭酸飲料には忌避感がある。同様に、がっつり添加物満載のジュースとかも遠慮したくなる。かといって、折角ドリンクバー頼んだのにお茶を飲むのも勿体ない気がするし、という、我ながらみみっちい事を考えてしまうのだ。まあ、お茶云々はともかく、炭酸飲料を避けるのはスポーツ選手あるあるだとは思っているが。
「……あの」
「あ、すみません」
ドリンクバーの機械の前で頭をひねっていると後ろから声が掛かった。そんなに長い時間では無いとはいえ、順番待ちの人に迷惑だろう。そう思い、場所を譲ろうと後ろを振り返って。
「……秀明?」
「え? 浩之さん? なんで此処にいるんですか?」
振り返った先には私服姿の秀明の姿があった。あ、あれ? 此処、地元だったっけ? 違うよな?
「……こっちの台詞だ。なんで此処にいるんだよ、お前?」
「練習試合があって京都に来てたんですよ。さっき最後の練習して、ちょっと小腹が空いたんで此処に来たんです」
「そうなんだ。チームメイトは?」
「ええっと……皆、昨日帰ってます」
「……イジメられてんの?」
なに? 皆帰ったのにお前だけ置いてけぼりなの? ハブられてんの?
「ち、違います!!」
「んじゃ、なんだよ?」
普通、部活動での行動って団体行動が基本だろ? いや、俺も中学までしか知らんから、もしかしたら高校生は現地集合、現地解散が基本なのかも知れんが……違うの? そんな俺の疑問の視線に気付いたのか、気まずそうに秀明が視線を逸らす。なんだよ?
「その……ちょっと感じ悪い事言っても良いですか?」
「お前の感じが悪いのは何時もの事だろうが」
「……酷くないですか!?」
「冗談だ。拗ねるな、面倒くさい。どうした?」
「その……練習試合に行ってたの、東洛学院ってとこなんですけど……」
「東洛学院って、あの東洛? インハイ準優勝とかしてる?」
「そうです。ウチと東洛、昔から付き合いがあるんで毎年交流会してるんですよ。んでまあ……そこの一年生エースがいるんですよ。全中で準優勝してるチームのポイントガードなんですけど……水杉っていたでしょ?」
「……水杉?」
「ほら、市民大会で」
「……ああ」
正南の。そういえば居たな、そんな奴も。
「そいつ、全中で水杉と当たったらしくて。たまたま話の中で水杉の話したら、ちょっと意気投合というか……『お前、巧いやないか。後一日、練習に付き合ってくれへんか?』って……先生もノリノリで俺だけ一日居残りで練習してたんですよ」
……おお。
「それは……アレか? 『インハイ準優勝する様な名門校の次期エースに認められて練習に誘われた俺、凄くないですか?』みたいな話か?」
「言い方っ!! くそ……絶対言われると思った……」
そう言って渋面を作って見せる秀明。冗談だよ。
「良かったじゃねーか。そんなすげー選手に認められて」
「……どうもです。それで? 浩之さんはなんで京都に居るんですか? 桐生さんと旅行か何かです?」
「半分正解だな。東九条の本家でパーティーがあるから、それに呼ばれたんだよ。ついでに旅行だな」
「むしろ、パーティーが『ついで』じゃないんですか?」
「……うるせぇよ」
ニヤニヤするな。そういう所だぞ、お前? 感じが悪いって言われるの。
「それじゃ、お邪魔したらアレですし、俺そろそろ行きますね?」
そう言ってドリンクバーでお茶を入れて手を上げる秀明。お前、お茶にするのか。ケチじゃないな……じゃなくて。
「待て。折角だ、挨拶していけよ」
「……俺、馬に蹴られるのイヤなんですけど?」
「大丈夫だ」
「何を根拠に?」
「既に馬に蹴り飛ばされてもおかしくないお邪魔虫が居るからな」
いや、まあ別に茜も秀明もお邪魔虫って訳じゃないけどな。むしろ、折角京都で逢ったんだし、一緒に遊ぶのもやぶさかじゃねーと思うんだが。
「既に馬に蹴り飛ばされてもって……って、まさか……アレです? 蹴り飛ばしに来た馬を食い殺さんばかりの狂犬が居たりします?」
「……人の妹をなんだと……」
……まあ、再会のあのシーンを見たら秀明の言もあながち間違いでは無いが。
「どうだ? 逢って行かないか?」
「……」
「……あれ?」
『そうですね。折角なので』くらいの返答が来るかと思ったが……なんだ、この反応?
「……喧嘩中か?」
「あ、別に喧嘩している訳じゃないんですけど……こう、ちょっと逢い難いって言うか……」
「なんで?」
頭に疑問符を浮かべて首を捻る俺に、秀明がジト目を向けて来る。
「……浩之さんのせいじゃないですか」
「……俺?」
俺の言葉に、秀明ははーっとため息を吐いて。
「……浩之さんが……その、『優良物件』とか言うから……こう、なんとなく逢うのが気恥ずかしいというか……」
少しだけ頬を赤らめてそんな事を言う秀明。身長一八〇センチオーバー、センターでそこそこガタイも良い秀明のそんな照れた仕草は。
「……気持ち悪いんですけど」
乙女か、お前は。どんだけ意識してんだよ、コイツ――ああ、でもアレか。こいつも初恋拗らせたクチだし、純情は純情なのか。